エシカルフードとは

近年エシカルフードという言葉を見聞きする機会が増えています。しかし、実際にはどのようなものなのか詳しくは分からない人も多く、聞いたこともないという人もまだまだ多いです。そもそも食べ物なのかエシカルとはどういう意味なのか、エシカルフードについて細かく紹介していきます。

エシカルフードとは

エシカル(ethical)は直訳すると「論理的な・道徳的な」とういう意味がありますが、現代においては「地球環境や人・動物など社会全体への配慮」とういう意味合いで使われており“環境・人・動物・社会へ配慮した食品“のことをエシカルフードまたはエシカル食品と呼んでいます。

これだけを聞くといまいちピンとこない人も多いかと思います。世界中では年々、地球温暖化・水質汚染などをはじめとした環境問題が増え続けており、この背景には、人口の増加や人間が効率を優先した事により資源を大量に生産しては消費し、消費しきれなかった分は廃棄するということを繰り返したことで自然や生態系のバランスが崩れ、自然と循環出来ていたことが出来なくなってしまったことが原因となっています。

また、この大量生産の過程にはコストを下げるため発展途上国や貧困地域での低賃金労働による格差などが生まれ、いくら働いても貧困から抜け出せないといった社会問題にも発展しています。

このような問題に注目して、商品が生産され購入されるまでの過程で環境や人、動物にとって害が少なく優しい方法や選択をして作られた食品のことをエシカルフード(エシカル食品)と呼んでいるのです。そのため、食べ物の名称や種類の呼び方として使われているのではなく、生産の過程で何かしらの配慮や取り組みがされている食べ物や行動、働きすべてがエシカルフードに該当するのです。

エシカルフードは特に次のような取り組みを行っていることが多くそれが大きな特徴でもあります。

  • 生産の過程で無農薬やオーガニックを取り入れる・CO2の削減に取り組むといった環境への負荷の軽減
  • 動物にとって負荷が少ない環境での飼育
  • 今までは廃棄されていた規格外の野菜など食品の販売
  • 生産者と消費者の格差をなくし対等で適切な価格設定をする

これはあくまで一部であり、これ以外にも環境・人・動物・社会に配慮した食品や取り組みはいくつもあります。そもそもエシカルという概念が生まれ、世界で使われはじめたのは今から30年以上も前で、人や環境などそれぞれに配慮した商品やサービスを選択して消費するライフスタイルを取り入れ、問題を悪化させない・改善させていくということが始まりでした。そのため、食品以外にもファッション・ジュエリー・ビレッジ・トラベルなどそのジャンルも様々です。日本ではエシカルという言葉が2009年頃から広がりはじめ、ライフスタイルとして取り入れることが少しずつ注目されるようになりましたが、2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、被災地の商品を購入し地域の活性化に繋げる応援消費という形からエシカルという言葉がより大きく注目されるようになりました。

それ以降、資源を乱獲せず生態系のバランスを崩さないことが環境への配慮に、農薬を使用しない・植物性由来の食品を増やすことが人や動物への配慮に、被災地や障がい者への支援・労働環境の改善に繋がることが社会全体への配慮になることを意識し、この働きを継続していくことで将来的にさまざまな問題の改善や効果的な結果を出すことが期待されるため、エシカルフードにも力を入れる企業や農家といった生産側をはじめ消費側でも関心を持ち取り入れる人が増えています。

はじめにエシカルフードとはどのようなものかという全体的な話をしましたが、主に取り組んでいる内容やポイントについてもう少し詳しく紹介していきますね。

持続的な生産方法

持続的な生産方法とは、今ある自然や環境を大切にしながら未来までよい状態で保ち続ける、または改善していきながら食品を生産していくことを指しています。

環境を維持しながら持続的に生産するには大量生産・大量消費・大量廃棄をしないことが特に大切になります。大量に食品を生産するためには大量の資源が使われ、確保出来ない場合は森林などの自然を破壊して広大な土地を新たに開拓する、さらに開拓した土地では大量の肥料や水を使って生産されています。

この生産時に使われる薬剤や添加物などは土地の生態系を壊して元に戻せなくなるだけではなく、生産された食品を摂取することにより人や動物の体にも悪影響を及ぼすことがあります。

農薬や化学肥料を使わない農業は、大気中の二酸化炭素(CO2)の排出を年間で約15万トンも削減出来ることが農林水産省の発表により分かっています。そのため、環境に負荷をかけず、地球温暖化の影響も軽減して作られた農薬を使っていない野菜や遺伝子組み換えを行っていない食品などは環境にも人体にも優しく、本来持っている素材の味を最大限楽しめる食品として大きく注目されています。

しかし、農薬や化学肥料を使わない農業は手間がかかり、育てるのも難しいため今の段階では全体的に価格が高い傾向にあります。よいものを必要な量だけ生産し消費することが出来れば大量生産や大量廃棄を防ぐことも出来るため、メリットを理解して消費者が増え市場も広がれば今よりは購入しやすい環境になるかもしれません。

ちなみに現在は誤解を生むという理由で無農薬という表記をすることは禁止されており、農薬や肥料の使い方によって大きく3つに分けられています。

  • 一般的な農薬や化学肥料を使う栽培方法を「慣行栽培」
  • 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない、遺伝子組み換え技術を利用しない、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する栽培方法を「有機栽培」
  • 上記の2つ以外であり農薬や化学肥料の使用量が規定の5割以下に制限されているものを「特別栽培」

現在、無農薬や農薬を必要最小限にして作られている食品は3つめの農薬に関する特別栽培に含まれ、さらに次のように表記出来ることが分けられています。

  • 農薬をまったく使用しない場合…「農薬:栽培期間中不使用」
  • 節減対象でない農薬を使用した場合…「節減対象農薬(※):栽培期間中不使用」
  • 節減対象農薬を削減した場合…「節減対象農薬:当地比〇割減」など

また、よく聞くオーガニック野菜と有機野菜は同じ意味であり、どちらも有機栽培に含まれます。そのため間違いやすいですが、全く農薬を使っていないわけではなく、有機認定される天然原料の農薬は使うことが出来ます。しかし、通常の農薬を使用しているものより環境や体への負担はかなり少ないため、エシカルフードを意識する場合はオーガニックや有機と記載された食品を購入するのもよいでしょう。

動物福祉

持続的な生産方法として取り組む中には動物にも大きく影響していることもあります。大量生産する過程で自然が破壊され環境が汚染されることや動物の角・牙・毛皮の乱獲、また珍しい種類の動物をペットとして販売するために乱獲することで自然界に生きている動物はどんどん減り、種類によっては絶滅または絶滅危惧種となっています。反対に、食肉や牛乳などをはじめ人が食べるためだけに育てられている牛・豚・鶏などの家畜は増え続け、動物の生命を強制終了させる畜産のシステムや人間の娯楽やエンターテイメントのためだけに動物園・水族館などで飼育されている動物の生き方に疑問を持つ人が増えています。

これらの動物が精神的にも肉体的にもよりよく幸せに生きていくために、その時の状態や環境を改善し動物主体を重視することも動物への配慮に繋がるため大切な取り組みになります。国際的な基準としては5つの自由が決められており、英国を主体に家畜・ペット・実験動物などあらゆる動物に福祉指標として世界で認められています。

  • 飢えと渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 傷み・負傷・病気からの自由
  • 本来の行動がとれる自由
  • 恐怖・抑圧からの自由

世界にはこの5つの自由を積極的に取り組んでいる国がいくつかありますが、日本ではまだまだ改善されていないことが多いです。土地の問題や効率、利益を優先し、角やくちばし、尾を切断する、去勢する、身動きが取れない環境や日光が当たらない環境で飼育され炎症や病気にかかる、必要以上に太らせる、見せ物にされストレスがかかるなど自由がない環境下で飼育されている動物はとても多いです。

しかし、人間が身勝手な理由で飼育している動物は、動物だけでなく人間にも悪影響に繋がることが実際には多く、特に量産を目的とした家畜は病気にかからないよう抗生物質などを接種し、まわりまわって食品として取り入れた時に人体への影響が出るなど、安全性が脅かされることにも繋がってくるのです。

私たち消費側が生産側の環境を改善することは難しいですが、食肉や牛乳などを植物性由来ものに切り替えることで畜産の消費を減らし、畜産の全体量を減らすことで飼育環境を改善させることに繋がる可能性は高いです。現在は、大豆・小麦などを使った代替肉(大豆ミート・ソイミート)や豆乳・オーツミルク・アーモンドミルクなど植物性の原材料から作られる代替ミルクも多く販売されており、動物への負担が減る以外にも栄養価が高くヘルシーであるため健康や美容などにおいて人体にもよい影響を与えてくれることから、取り入れる人が増えています。

また、家畜の全体量が減ることは餌の輸入や運搬などで排出される二酸化炭素や動物から排出されるメタンガスなどを大幅に減らすことにも繋がるため、動物福祉を見直す・改善することは人・動物・社会・環境すべてにおいて配慮することが出来、よい方向へ進む可能性が高まるのです。

食品ロスの削減

世界では生産されている食糧の40%にあたる約25億トンの食糧が年間で廃棄されています。廃棄する際にも膨大なエネルギーが使われており、一般的な廃棄方法として使われる焼却処理をする過程では大量の二酸化炭素が排出されるだけでなく、焼却後の灰を埋め立て地に処分することでメタンガスも発生しています。

これらのガスは地球温暖化の原因になっており、毎年大量の食糧が廃棄されているにも関わらず、発展途上国では食糧不足が起き、10人に1人が飢餓状態であると同時に、先進国を中心とした全世界には約20億人の人が肥満や体重超過と必要以上に食べすぎているといった結果が出ています。世界中の人が食べられる食糧が存在しているのに本当に必要なところへは届かず廃棄され、その結果自然や環境を破壊しているのが現状です。

これが繰り返されることには改善するどころか悪化し続け、環境問題は悪い方向へ進行する一方です。そのため、食品ロスを削減するために、生産側は必要以上に生産しないことも大切になりますが、実は廃棄されている食糧の60%以上は各家庭から排出される生ごみが原因となっているため、消費側も意識することが重要です。買い物に行く前に確認して必要以上に購入しすぎないことや冷凍保存を活用すること、外食をした時の食べ残しをしないことなども食品ロスを削減するには大きく影響してきます。

また、今までは見た目を重視するために、傷がついている物やいびつな形をしているものなど規格外の野菜や果物は販売されずに廃棄されることが多く、生産された約30~40%が該当していました。味や安全性に問題はないものの、見た目の問題だけで大量に廃棄され食糧は食品ロスへと繋がっていたため、近年はジュースやジャム、文房具などに加工して再利用する、困窮世帯やそれらの世帯を支持する団体・施設に提供するフードバンクに寄付する、価格を下げて直接販売するなど食品ロスの削減への取り組みも増えています。

食品ロスの削減は消費側の意識によって廃棄する量をかなり減らすことが出来るため、生産・消費どちらも意識することが非常に大切になります。

公正な労働条件

大量に食品を生産するには通常莫大なコストがかかります。しかし、コストが上がると商品自体の価格も上がってしまうため、発展途上国において安い労働賃金で働かせ、大量に生産させることでコストを下げて作られている食品が世の中には非常に多く出回っているのです。このような低賃金で働かせるサイクルは、一部の富裕層が潤うばかりで貧困層はいくら働いても豊かになれず、貧困から抜け出せない社会格差が生まれています。

この問題を改善するために発展途上国で生産されている食品に対し、適正な価格を設定し取引されているものを「フェアトレード認証商品」と呼び、低賃金以外にも労働環境や児童労働などの問題を公正な労働条件へと改善することで解決させ、少しずつ貧困層の格差を減らして生産者の生活も食品の生産もよい方向へ継続していける方法として大きく注目されています。

フェアトレードとは英語で「公正な貿易」という意味を持ち、バナナ・チョコレート・コーヒー・ワインなどが代表的なフェアトレードの食品として挙げられます。これらの商品を購入する際にフェアトレード商品に切り替えるだけでも、発展途上国の労働者の生活を支援し産地の環境を保全することにも繋がります。

地域社会への貢献

はじめの方にもお伝えしたように、日本でエシカルという言葉が注目されるきっかけになった東日本大震災をはじめ、被災した地域の農産物や商品を購入する「応援消費」も地域社会への貢献に繋がります。

震災以外にも新型コロナウイルスの影響で生産と消費のバランスが崩れ、その結果フードロスに繋がってしまった食品も多くありましたが、積極的に各地域で生産される野菜や果物、肉、海産物などを購入することはフードロスの削減以外にも生産者の収入を上げ、その土地の経済自体をまわして地域の活性化にも繋がります。

環境や気候の違う土地で作られる各地の名産品は、その土地でしか作り出せない旨みや甘みなどの味わいを持っているものが多いため消費者も特別感を感じやすく、取り入れやすいことや意識しやすいことも大きなメリットです。

また、障がいを持つ人たちが農業や加工品、雑貨などを作り、生活する中で社会の一員として生きがいを見いだすことを実現させる取り組みを農福連携と呼び、そこで作られた商品は「農福連携商品」という形で販売されています。この農福連携商品を購入することも障がい者への大きな支援となり、人や社会の配慮へと繋がるだけでなく、高齢化が進行する農業分野においても人員の確保へと繋がるため積極的に取り入れたいエシカルフードの1つです。

農福連携商品は専用のHP内でネット販売も行っていますが、ポップアップやマルシェなどで直接購入することも出来るため見かけた際にはぜひ注目してみて下さい。

最後に

今回はエシカルフードの概念や主な取り組みについて紹介してきました。最初にもお伝えしましたが簡単にまとめると、生産側だけでなく消費側も含めて環境・人・動物・社会に配慮し何かしらのよい影響や改善に繋がるように取り組んだ食品・行動・働きすべてをエシカルフードと呼びます。そのため、さまざまなものに配慮された食品を作ることも、そういった取り組みを行うことも、それらの商品を購入することもエシカルフードとなります。

今まで気づかずに取っていた行動や食品がエシカルフードに繋がっていることもありますが、意識的に取り組むことでさらによい結果に繋がり未来まで継続することが出来ます。エシカルフードにはそれぞれに認証マークがあり主なマークとしては

  • 有機JAS認証
  • 国際フェアトレード認証
  • 応援消費
  • 農福連携商品認証
  • レインフォレスト・アライアンス認証
  • MSC「海のエコラベル」認証

などが挙げられます。そして、エシカルフードの注目が広く大きくなっていることから、その種類は今後も増え続けていくでしょう。認証マークを知っているだけでも、購入する時にエシカルフードを意識しやすくなるためデザインも一緒に確認してみて下さい。生産側だけでなく消費側である私たちも一緒に取り組むことが非常に大切であるため、出来ることから少しずつエシカルフードを取り入れて、みんなでよりよい未来に進むよう貢献していけたらいいですね。