青森の名産品とちょっと意外な郷土料理

青森県は山と三方を日本海・太平洋・津軽海峡の海に囲まれた自然を身近に感じられる本州の最北部にある県です。四季の移り変わりがはっきりしており、数多くの縄文時代遺跡やねぶた祭など古くから伝わる祭りも多く、歴史を感じられるのも青森県の魅力になります。そんな気候の変化が豊かな青森県では山の幸も海の幸も豊富なのが特徴。今回は青森県の特産品の中でも定番で人気の高い特産品や加工品、ちょっと意外な郷土料理について紹介していきます。

りんご/りんご加工品

青森と言えば“りんご”というイメージが強いほどりんごの産地としても有名であり、その収穫量は全国の約60%を青森が占めています。青森県は気候の寒暖差が大きく降水量も適度にあるため、りんごを栽培するのに非常に適した環境をしており、この環境こそが品質の高いりんごを大量に生産することが出来ることに繋がっているのです。

味のバランスがよく歯ごたえを楽しめる“ふじ”や甘みが強くジューシーな“つがる”香り高くすっきりした味わいの“王林”が特に人気の高い品種になりますが、それ以外にも青森県で生産しているりんごの品種は約50種類あり、品種によって収穫時期や甘さ・香り・食感などの特徴が違います。品種改良を行った新品種も増え続けており、より蜜が多く甘みが強い品種や果肉が赤い品種など今までのりんごの印象をよい意味で裏切るような希少なりんごも多いです。

さらに、青森県ではりんごの生産量の約2割が加工品として使用されており、そのうちの86%が果汁に加工されています。そのため、りんごを使った加工品の種類も多く、ジュースやジャム以外にもシャーベット・焼き菓子・ドライフルーツ・シロップ・りんご酢などの定番品だけでなく、珍しいものだとりんごスープやりんごソース、りんご茶、シールド・ブランデー・ワインなどのりんごを使ったお酒までジャンルの幅もさまざまです。ギフトやお土産としてはもちろんですが、種類の多さから普段使いや自分へのご褒美として購入する方も多く、りんご大国である青森だからこその品揃えの多さを感じられます。

中でもしっかりりんごの風味を味わいたい場合はやっぱり定番のりんごジュースがおすすめです。ジュースには搾った果汁を一度濃縮してから加工する「濃縮還元果汁」と搾った果汁をそのまま加工する「ストレート果汁」の2種類があり、コスパがよく手軽に飲めみたいのであれば濃縮果汁、りんごそのものの美味しさをしっかり味わいたいのであればストレート果汁を選んでみて下さい。メーカーによってもこだわりや使っている品種が違うため、風味の違いを比べてみるのもおすすめです。

黒にんにく

健康食品としても注目を集める“黒にんにく”は、その名前の通り真っ黒な見た目をしておりとてもインパクトが強いです。一般的な白いにんにくを一定の高温・高湿の環境で数週間かけて熟成・発酵させて作ることでメイラード反応がおこり黒く変化します。熟成されたにんにくは特有のにおいがなく甘みが増し、生のにんにくからは想像しにくいですがドライフルーツのような食感と甘酸っぱい香りを感じられるのが特徴です。さらに、胃への負担も少ないため、子供からご年配の方まで幅広く食べられます。熟成することで、にんにくの持つ栄養成分が変化・増加し、疲労回復・免疫力向上・アンチエイジング・美肌効果・血液改善などの効果が期待出来るため、健康や美容目的として注目する人が増えています。

黒にんにくの歴史はまだ比較的浅く、発祥地の三重県で1999年に開発されました。青森県でも2005年頃までは三重県産の黒にんにくを販売していましたが、青森はにんにくの生産量が日本一、国内出荷量も約7割を占めていたこともあり、2006年頃から県内でも黒にんにくの研究・開発を進めるようになります。その結果、今では地域団体に商標登録され、全国的にも青森の黒にんにくの知名度と価値が高まっています。

降雪量の多い気候はにんにくを育てるのに適した環境をしており、雪の下で栄養を蓄えながら育つため青森県産のにんにくは他県産のものに比べて一片が大きく、雪のような白さとギュッと締まった実が特徴です。そんな良質なにんにくを使って作られる青森の黒にんにくは、メーカーによって甘みの強いもの、バランスのよいもの、食感の硬さが違うものなどそれぞれの特徴が違うため、食べ比べてみるとその違いを感じやすいでしょう。また、低温熟成製法で製造され、黒にんにくよりさらに多いアミノ酸を含む“琥珀にんにく”も注目されているため、気になる方やにんにくが好きな方は黒にんにくと一緒にチェックしてみて下さい。

南部せんべい

小麦粉・水・塩を混ぜ合わせた生地を丸い鋳型で焼いた“南部せんべい”は青森県八戸地方や岩手県北地方で食べられている伝統的な煎餅です。素朴な味わいの煎餅ですが、みみと呼ばれる縁の部分のカリっとした食感も1つの特徴になっています。生地の素材以外は何も加えない素焼きの白せんべいがスタンダードになりますが、生地にピーナッツやごまを加え素材の甘みや香ばしさを感じるまめせんべいやごませんべいの方がポピュラーです。さらに近年はイカ・エビ・りんご・かぼちゃ・クルミ・アーモンドなどを加えたものやクッキー生地で焼いたもの、水あめを挟んだものなどバリエーションも豊富になっています。さらに、割った南部せんべいに醤油やチョコを染み込ませたタイプや砕いた南部せんべいをチョコレートで固めたクランチタイプなど進化系の南部せんべいも増えています。

おやつなどにそのまま食べるのが一般的ですが、赤飯を挟んだ食べ方(おこわせんべい)や天ぷらとして調理したもの、さらにはせんべいをトースターで加熱しバターを塗ってパンの代わりとして食べるなどひと手間加えた食べ方やカリっとした食感の南部せんべいに対し、同じ材料で厚めに焼いてあえて柔らかく仕上げる“てんぽせんべい”もスタンダードな南部せんべいとは一味違った食感や味わいを楽しむことが出来ます。水分が少なく保存性が高いため、戦国時代には野戦食だったともいわれています。南部せんべいを食べたことがある方は見たことがあるかもしれませんが、煎餅の表面の多くに花のような模様が入っていることがあります。この模様は“菊水と三階松”と呼ばれるもので、南北朝時代に八戸地方で食事に困っていた長慶天皇に家臣の赤松氏が煎餅を焼き上げて献上したことで感動し、家紋の菊水と三階松の仕様を許可したという歴史が関係しているのです。シンプルな作りであるため、特に定番のまめせんべいやごませんべいは作っているお店によって香りや食感、味わいの違いを感じやすいので、南部せんべいを食べたことがないという方はぜひ、ピーナッツやごまが入っているタイプから試してみて下さい。

八戸せんべい汁

八戸市がある青森県の南部地方で食べられている郷土料理に“せんべい汁”というものがあります。鍋に鶏のダシと醤油をベースに作った汁と肉や魚、野菜、きのこ、こんにゃくなどの具材をたっぷり入れた料理ですが、この具材に南部せんべいを使うのが大きな特徴です。お菓子として食べられる南部せんべいとは少し違い、「かやき」と呼ばれるせんべい汁用の煎餅を食べやすい大きさに割って使います。ピーナッツやごまなどは入っていないシンプルなせんべいですが、汁ものに入れても煮崩れしにくく、旨みのある汁を吸った煎餅はもちもちっとした食感を楽しむことが出来ます。

せんべい汁は今から約200年も前から食べられている歴史のある郷土料理であり、天保の大飢饉の頃に生まれたとされています。稲作の不作対策として小麦や雑穀を栽培するようになり、小麦を練って作るすいとんの一種としてせんべい汁も家庭で食べられてきました。しかし、家庭料理としては身近であったものの、おもてなし料理などとしては使われなかったため外部の人に振舞われることは少なく、実は近年まであまり知られてこなかった郷土料理でもあるのです。2000年に入ると東北のイベントを中心にせんべい汁が振舞われるようになり、東北新幹線のPRや地域おこし、メディアの影響で少しずつ認知されていきます。さらに、今でこそ人気の高い全国のB級グルメの祭典“B-1グランプリ”は八戸せんべい汁研究所がプロデュースしたイベントであったことや、後の大会でせんべい汁がグランプリを取ったことなどによりその知名度は全国まで広がりました。

現在八戸市では約200軒の飲食店などでお店ごとのこだわりや味わいの違ったせんべい汁を食べることが出来ます。また、認知される前まではお土産用としての販売もありませんでしたが、今では専用の煎餅だけでなく簡単に作れる具ありセットのタイプや自分で好きな具を入れられる具なしタイプ、カップラーメンのようにお湯を注ぐだけで味わえる即席タイプなどさまざまな形態で販売しているので、手軽に青森県の歴史ある味を味わってみてはいかがでしょうか。

いちご煮

名前からはフルーツのいちごを煮た料理やジャムのようなイメージがありますが、全くの別物であり、ウニとアワビという高級食材を使った贅沢なお吸い物のことになります。いちご煮は八戸市やその少し下にある階上町などの太平洋沿岸にある地域の郷土料理であり、現在は正月・お盆などのハレの日やお祝いの席などには欠かせないお吸い物として食べられています。もともとは漁師が獲ったウニやアワビを使った浜料理として豪快に煮たのが始まりと言われており、各家庭でも日常的に食べられていましたが、徐々に高級食材として扱われるようになったことや大正時代に入り料亭の料理として綺麗に盛り付けして提供されるようになったことで高級料理へと変化していきました。

ウニ・アワビの素材の味が活きるよう水やかつお節のダシで軽く煮た後、少量の醤油で味を調え、千切りにした青じそを添えるだけのシンプルな料理です。そのため、ウニやアワビの鮮度や質が非常に重要で仕上がりに大きく影響することから、海に近い限られた地域でしか食べることが出来ず、いちご煮を食べるために八戸市周辺まで訪れる方もいるほどです。磯の香りとウニ・アワビの旨みが感じられる奥深い味わいが特徴であるため、いちごとはまったく関係のない料理ですが、お椀に盛り付けた時に黄金色のウニが乳白色に濁った汁の中で浮かんでいる様子が“朝露に霞む野いちごのように見えたこと”が名前の由来となっています。地元の老舗割烹旅館の亭主が大正時代に郷土料理の1つとして提供した事がきっかけで青森県を代表とする名物として認知されるようになりました。

以前は日常的に食べられていたいちご煮を再び身近な料理にしたいという思いから缶詰タイプのいちご煮が開発され、1980年に誕生してからは自宅用だけでなく贈り物用としても広く親しまれています。缶詰といっても風味や品質がよく、なかなか青森県まで訪れられない根強いファンが各地にいるほどクオリティが高いです。温めてそのまま食べるだけでももちろん美味しく食べられますが、洗ったお米に汁ごと入れて炊飯器で炊く炊き込みごはんも人気のある食べ方です。高級食材を使っているだけあって価格も高級志向ではありますが、ちょっとしたお祝い事やご褒美に手軽にいちご煮を味わうのも贅沢な楽しみ方かもしれません。

イカ/いかめんち(いがめんち)

青森県の八戸沖合はスルメイカがよく獲れる場所として有名であり、全国から新鮮なイカを求めてイカ漁船が集まるとも言われています。また、スルメイカだけでなく、身の柔らかいヤリイカや海外産のアカイカといった種類のイカも八戸や県北部、県西部などで獲れるため、青森県全体を見てもイカの漁獲量が多く、特に八戸港はイカの水揚げ量が日本で1番多いとされています。そのため、県内ではイカを食べる機会も多く、生や焼いてそのまま食べる・具材として使う以外にも内臓を取り出したイカに野菜や飯を入れて発酵させる「いかの寿司」や切ったイカを内臓と味噌で炒める「いかのごろみそ煮」といったイカを使った郷土料理もいくつかあります。中でも弘前市を中心とした津軽地方で親しまれているのが“いかめんち”です。

いかめんちは津軽地方に伝わる郷土料理や家庭料理の1つであり、イカを刺身で食べた時に残るゲソをたまねぎや人参などの野菜と一緒に細かく刻み、小麦をを混ぜて油で揚げて作るのが基本になります。揚げているためサクッと香ばしく、イカの食感と旨み、野菜の甘みも一緒に感じられるのが特徴です。また、家庭によっては使う具材が違う場合や揚げずに焼いて作るなどの加熱方法にも違いが見られ、アレンジが豊富なのも家庭料理ならではの特徴となっています。食べ方はソースやマヨネーズをかけて食べるのが一般的ですが、そのまま食べても、だし醤油や大根おろしなどと一緒にさっぱり食べるのも人気のある食べ方です。津軽弁でイカのことを「いが」と呼ぶことから「いがめんち」とも呼ばれており、津軽地方ではソウルフードとして親しまれています。

現在は家庭で作る以外にも、スーパーなどで定番の惣菜として購入出来るほど身近な料理となっていますが、もともとは終戦後の食料難の時代に貴重な食材を無駄なく食べられるようにと、イカや野菜の余った部分を使って作られた知恵と工夫が詰まった料理でした。しかし、食感や風味のよさからいかめんちはそのまま家庭料理として浸透し、商店街や郷土料理を提供している飲食店でも食べられることから、地元の方だけでなく観光客にも人気が高くなっています。イカや野菜を強く感じられるものから、長芋などを加えてふわふわ食感を作り出しているもの、紅ショウガなどのアクセントがある食材を加わえているものなど、お店によってもいかめんちの特徴が大きく違ってくるため、食べ比べてみるのもおすすめです。また、いかめんちをバンズで挟んだイカメンチバーガーやいかめんちをトッピングしたいかめんちカレー・いかめんち丼など、アレンジした料理を提供しているお店も多いため、青森県を訪れた際にはイカだけでなく、アレンジ豊かないかめんちにも注目してみて下さい。