東北の中でも最南端にあり広大な土地を持つ福島県は、雄大な自然と恵まれた気候、盆地という土地を活かしてお米やもも、りんごなどを中心とする農業が盛んな県です。他にも日本酒や伝統工芸品などお土産としても人気のある特産品が多い福島ですが、どのようなご当地グルメや銘菓が食べられているのでしょうか。今回は福島県の特産品の中でも、地元で愛されているグルメを中心に紹介していきます。
喜多方ラーメン
福島県には日本三大ラーメンの1つである“喜多方ラーメン”があります。名前の通り福島県喜多方市発祥のラーメンで地元の方はもちろん、全国のラーメンファンからの人気も非常に高く、喜多方ラーメンを食べるために福島県に訪れることも少なくありません。基本的には、豚骨などからとったダシと醤油ベースの澄んだスープに独特のちぢれを持つ太めの麺が特徴的なあっさりとした醤油ラーメンが多いため、オーソドックスなラーメンと捉えられることも多いですが、お店によってはダシや麺の太さ、塩・味噌というベースにも違いがあるため、実は同じ味わいのラーメンがないのも喜多方ラーメンの魅力になります。また、ラーメン店よりも食堂で販売されていることの方が多いため、ラーメン店・食堂を合わせると合併前の旧喜多方市では人口数に対しての店舗数が日本で一番多かったとされています。
今でこそ認知度も人気も高い喜多方ラーメンですが、もともと市内にラーメン店はなく馴染みのない食べ物でした。大正から昭和に変わる頃、一人の中国人が日本で中華麺に近い支那そばを屋台で販売し始めたのが喜多方ラーメンの始まりと言われています。後に、市内では支那そば作りを継承する人が増え、その多くは食堂のメニューとして取り入れたことから現在も食堂で提供していることの方が多いのです。古くから醤油や味噌などの醸造業が盛んだった喜多方には、昔から蔵を見学するために観光客が集まることが多く、その観光客の休憩や昼食場所として紹介したのが喜多方ラーメンを取り扱う食堂だったのです。これがきっかけでメディアでも取り上げられ、全国的に知名度が広まりました。古くからラーメンが身近にあっただけでなく、老舗の多くは朝早くから店を開けるところが多いため、ラーメンを食べてから出社するなど朝食にラーメンを食べる文化も喜多方では根付いています。
ラーメンはスープや麺、調理時などには多くの水を使い、さらに、喜多方ラーメンは他の麺に比べると水分量の多い多加水麺を使っているため水の質がラーメンの美味しさにも直接繋がりますが、飯豊山の雪解け水や名水にも選ばれている栂峰渓流水といった上質な水が身近にあるため、喜多方ラーメンの美味しさとして大きく影響しているのです。そのため、喜多方ラーメンを味わう際には福島県の水の美味しさにも注目してみて下さい。また、ラーメン店だけでなく老舗に多い食堂や支那そばと表記されているお店もチェックして欲しいです。福島県には喜多方ラーメンと並んで、さらにちぢれの強い手打ち麺が特徴の白河ラーメン、真っ黒な見た目とまろやかな味わいが特徴の郡山ブラックを合わせた福島三大ラーメンも人気が高いため、どのラーメンが好みか食べ比べてみるのもおすすめです。
なみえ焼きそば
福島県東部の沿岸部に近い浪江町で誕生したのが“なみえ焼きそば”です。安くて美味しいご当地グルメとして親しまれており、2013年に開かれたB-1グランプリでは1位を獲得しています。一般的な焼きそばに比べると3倍近い太めの麺を使うのが大きな特徴で、豚肉ともやしだけのシンプルな具材ですが、ラードで炒めた濃い味付けは旨みと食べ応えを強く感じられます。また、各店舗のテーブルには一味唐辛子が置いてあるのが定番で、一般的な紅ショウガや青のりではなく一味唐辛子をかけて食べるのがなみえ焼きそばの通の食べ方となっています。
昭和30年に浪江町にある駅近くの居酒屋で極太麺を使った焼きそばを販売したのが始まりとされており、それが定着して地元の名物となっていきました。極太の麺を使ったのは、当時の労働者たちの腹持ちと食べ応えをよくするために考えられた背景があり、そのまま大きな特徴として現在まで受け継がれています。そのため、なみえ焼きそばには定義が3つあり、具材にもやし・豚肉を使うこと、ソース味であることを抑えて定義の1つめには中華麺の太麺を使うことが含まれています。しかし、東日本大震災の際に被災し、避難指示区域となってしまったため、当然地元では販売することが出来ない中、町おこしとして設立した「浪江焼麺太国」のメンバーが中心となって参加したご当地グルメイベントでは、幾度も上位を獲得していきました。こうした町おこしや町残しのための働きによって、なみえ焼きそばは全国的にも知名度が広がり、数は減ってしまったものの、市内の移転先や浪江町に新設された飲食店で震災後も食べることが出来ます。また、具材を用意すれば簡単になみえ焼きそばが作れる生麺タイプも販売しているため、自宅用やお土産用として購入して手軽になみえ焼そばの美味しさを味わってみてはいかがでしょうか。
会津わっぱ飯
わっぱ飯とは、薄い木の板を曲げて作られる伝統工芸品の曲げわっぱにお米や具材を入れ蒸した会津地方の郷土料理です。隣県の新潟県でも郷土料理として有名ですが、新潟県では杉の板、福島県ではヒノキの板で作られたわっぱを使っており、海鮮が中心の新潟に比べると海鮮以外にもきのこや山菜といった山の幸も使用するのが特徴となっています。そのため、好きな具材を使う会津地方のわっぱ飯はなんでもありという傾向が強く、お店によっては全く違ったわっぱ飯を食べることが出来ます。また、わっぱを使って調理するためヒノキの香りがお米や具材にも染みつき、蓋を開けた時の香りは釜めしや混ぜご飯などでは味わうことが出来ないのもわっぱ飯ならではの楽しみ方です。
会津地方のわっぱ飯に使われる曲げわっぱは「檜枝岐(ひのえまた)ワッパ」というものを使っています。檜枝岐ワッパとは、会津地方南西部にある檜枝岐村の山間部で採取したヒノキやミズキなどの樹木を使って作られる曲げわっぱです。この地域には古くから山人(やもうど)と呼ばれる山稼ぎを生業とする人々が暮らしており、収入源として木工工芸品の製造が盛んに行われていました。約600年物もの歴史がある伝統工芸品ですが会津地方では長いこと木工工芸品が身近にあり、地元の人はお弁当箱として昔から愛用していたそうです。そんな桧枝岐ワッパに出会い、会津の食材を活かした料理を曲げわっぱに入れて提供したいという思いから、昭和後期に割烹料理店を開業したのが会津若松市の有名店「田季野」の先代であり、同時に会津わっぱ飯の始まりとなっています。会津に訪れた観光客から少しずつ広まっていき、美味しいお米の産地だからこそ郷土料理としてもご当地グルメとしてもその人気は現在も続いているのです。最初にもお伝えしたように、お店によってわっぱ飯の具材が違い種類も豊富なのが会津わっぱ飯の魅力でもあります。わっぱ飯の美味しさや奥深い香りを楽しみながら、桧枝岐ワッパの魅力にもぜひ注目してみて下さい。
ゆべし/くるみゆべし
ゆべしとは本来は柚子の実を使ったお菓子のことであり全国各地に存在していますが、地域によって形状や味の違うお菓子であったり、柚子を使った珍味として扱われています。しかし、東北では柚子ではなく主にくるみを使った餅菓子のことを“ゆべし”や“くるみゆべし”と呼び、四角い形をしているのが一般的です。
もち粉にくるみと醤油を混ぜて作られるゆべしは、甘すぎない醤油味とくるみのザクっとした食感が味わえるのが特徴にもなっていますが、ごま入りのものや何も入っていないもの、薄めに伸ばした生地で餡を包んでいるもの、三方をつまんだ形のものなど、東北だけでもさまざまなゆべしがあります。
山形県や秋田県、岩手県などでも親しまれそれぞれの土地で変化していったゆべしですが、どれも柚子を使ったものではありません。江戸時代に関西から伝わった当初は、柚子を使った柔らかい餅菓子だったそうですが、東北では柚子の栽培が盛んではなかったことや昔から独自の餅文化が根付いていたことが大きく影響し、次第にくるみを使うなど地域性が出る別物のゆべしとして定着していきました。そして、この福島県には昭和や大正、さらには江戸時代や江戸時代よりも前の嘉永から続く老舗のお菓子屋さんが多く、各店舗でも代表的なお菓子としてゆべしが取り扱われていることが多いです。そのため、東北の中でも特に福島県では福島の銘菓としてゆべしが紹介されていることが多いのです。素朴でシンプルであるからこそ、味わいやくちどけ・柔らかさ・モチモチ感といった食感などの違いを感じやすく、その美味しさから今ではゆべしと言えば東北のくるみゆべしが紐づくほど全国的にも愛されているお菓子となっています。個包装で少ないものだとバラ売りしているものもあるため、食べたことがないという方はぜひ歴史あるお菓子屋さんが作った福島のゆべしを一度味わってみて下さい。
あんぽ柿
福島県の特産品には“あんぽ柿”というものがあるのをご存じですか?全国的にも知名度が高いあんぽ柿は、伊達市五十沢(いさざわ)地区発祥の干し柿やドライフルーツの一種で、11月~2月頃の冬の時期に蜂屋柿(はちやかき)や平核無柿(ひらたねなしかき)という渋柿を加工して作られています。オレンジ色の鮮やかな見た目と柔らかくトロっとしたゼリー状の食感が特徴ですが、これは干して作る一般的な干し柿とは製法が少し違い、硫黄で燻蒸し、その後に自然乾燥させて作られています。干すだけだと次第に色が黒ずみ肉質も硬くなり、白い粉が表面に付いてきますが、燻蒸させることでポリフェノールの酸化を抑え、色が黒ずまず鮮やかな状態を保つことが出来るのです。また、20~30%の水分量である干し柿に対してこの製法で作られたあんぽ柿は50%前後も水分が含まれるため、ジューシーで特徴的なトロっとした食感が生まれ、干し柿が苦手な方でも食べやすいとされています。
あんぽ柿の歴史も古く、江戸時代まで遡ります。江戸時代中期に五十沢で蜂屋柿を栽培したのが始まりとされていますが、当初は一般的な干し柿と同じように乾燥させて作っていたため普通の干し柿と変わりませんでした。天日干ししていたことから天干し柿(あまぼしかき)と呼ばれていましたがこれが訛り、明治時代に入った頃にあんぽ柿という名称に変わったと言われています。大正中期頃にカリフォルニア州に行っていた人から、干しぶどうを乾燥するのに硫黄燻蒸を取り入れていることを教えてもらったことがきっかけで、あんぽ柿にも硫黄燻蒸の製法を取り入れるようになりました。また、全国でも有数の養蚕地帯であった現在の伊達市や福島市では大正にかけて生糸相場の変動が大きくなったことで衰退していき、代わりとしてあんぽ柿を中心とした農業に力を入れていったことが現在の特産品として繋がっているのです。水分量の多いあんぽ柿は一般的な干し柿よりは日持ちしませんが、涼しい場所や冷蔵庫で保存すれば3か月~半年以上長期保存することが出来ます。そのまま食べる以外にも、天ぷらや羊羹、なます、サラダ・ヨーグルト・チーズに加えるなどさまざまな料理やお菓子作りに使うことも甘さの強いあんぽ柿の特徴です。お土産やギフトとしての人気も高いため、干し柿やドライフルーツでは味わえない食感や美味しさを味わってもらいたいです。
クリームボックス
“クリームボックス”とは、福島県郡山市で親しまれているご当地グルメ・ご当地パンです。厚めに切られた正方形の食パンに生クリームや牛乳、練乳などを使って作られたミルククリームがたっぷり塗ってあるのがスタンダードになります。シンプルな見た目ですが、ふんわりとした食パンの軽さと甘さ控えめのクリームの相性がよく、スイーツのような美味しさとお手頃な価格であることから2枚3枚と食べてしまう方もいるそうです。市内のパン屋やスーパーをはじめ学校の売店などでも販売されているため、子供から大人まで幅広い年齢層の方に人気があり馴染み深いソウルフードとなっています。クリームボックスはお店によってパンの食感やクリームの風味、形、焼いたパンにクリームを塗るか塗ってから焼いているかなどの違いを楽しむことが出来るのも特徴であり、そのまま食べても美味しいですが、食べる前に軽く焼くと風味が増して一味違った美味しさを楽しむことが出来ます。
クリームボックスは昭和後期に郡山市に創業した「ロミオ」というパン屋で誕生し、駅前のお店で販売したことが始まりとなります。当時はまだパン屋が少なく、洋風を取り入れた新しいものを食べてもらいたいという思いと、デニッシュ生地に使っていたクリームを改良し食パンに塗ったところ非常に美味しかったことからクリームボックスという新しい商品が生まれました。若者を中心に人気商品となったクリームボックスは次第に他のパン屋にも広がっていき、今では多くのお店で購入することが出来ます。そのため、地元の方にとっては身近にありすぎてご当地パンだと知らず、県外に出て初めて気づく方も多いそうですが、実際は近隣の市町村でもなかなか販売されていない郡山市ならではのパンでもあるのです。
近年はスタンダードなミルククリームの他にもコーヒーや桜、抹茶、チョコ風味のクリームを使っているものやジャム・フルーツ・ナッツ・あんこ・ずんだなどをトッピングしているもの、丸型やメープルなどが入ったパンを使うなど進化系のクリームボックスも多数販売しているため食べ比べてみるのもおすすめです。日持ちしないため郡山市に訪れた際に購入し食べるのがおすすめですが、お店やふるさと納税のサイトによっては取り寄せ出来るものや塗るだけで自宅で簡単にクリームボックスが食べられるスプレットも販売しているため、クリームボックスの美味しさに魅了された方は一度チェックしてみて下さい。近場であればお土産としても最適ですよ。