石川県には金沢城や兼六園、石畳が続くひがし茶屋をはじめとする観光地や輪島塗・山中漆器・加賀友禅など古くから伝わる伝統工芸が多く、歴史を身近に感じられる街として人気が高いです。しかし、歴史だけでなく金沢駅や金沢21世紀美術館など現代アートを体感出来る場所や特徴のある海産物・農産物、ソウルフードも多いため非常に魅力的な県となっています。今回はそんな魅力たっぷりな石川県の個性豊かな特産物や歴史を感じられるソウルフードについて紹介していきたいと思います。
ガスエビ
日本海に面した石川県ではブリやのどぐろ、蟹、スルメイカ、カレイなどをはじめとする新鮮でおいしい海産物がたくさん獲れますが、県外の人にとってはあまり馴染みの少ない種類もいくつかあります。その1つが“ガスエビ”です。ガスエビとは石川県や富山県で食べられているエビの1種であり、鮮度を保つのが難しいためなかなか県外に出回ることがないことから「幻のエビ」とも呼ばれています。やや茶色い殻と棘感の強い荒々しい見た目をしていることから、県内でも甘エビなどの方がよく販売されるているそうですが、味は甘エビよりも甘みと旨みが強く濃厚でプリっとした歯ごたえのよい食感を楽しめるのが大きな特徴です。そのため、地元の人を中心に食通の方の間では人気のある種類となっています。ガスエビを食べる方法としては、特徴をダイレクトに楽しめる刺身と香ばしくパリッとした食感が楽しいから揚げが特におすすめですが、焼き物や天ぷら、揚げ物など調理方法の違いによって美味しさや食感が変わってくるため、違った種類の料理を食べ比べるのもおすすめです。
地元では古くから愛されているガスエビは、正式には「トゲザコエビ」と「クロザコエビ」と呼ばれるエビの種類であり、石川県を含む北陸での通称としてガスエビと呼ばれています。さらに細かく分けると、漁獲量が多くよく使われているトゲザコエビは黒ガスエビ、大きく食感の良いクロザコエビは白ガスエビと呼び分けられており、それぞれに食感や風味に違いを感じられるのも特徴となっています。ガスエビは北陸での通称として使われているため、山形県や鳥取県ではガラエビ、福井県では越前エビなど他県ではまた違った名称で呼ばれているのもおもしろい特徴です。昔は味も見た目もよい甘エビに比べると見た目の悪さなどが影響して使いがって悪く、卸値なども数段落ちてしまうことから漁師などの間では「カスエビ」と呼ばれていたことがガスエビと呼ばれるようになったきっかけとされています。しかし、現在はその美味しさや流通量の少なさから希少価値が高まり、石川県を代表する海産物と並んで高級エビとして人気や需要が増えているのです。トゲザコエビは春先から初夏にかけて、クロザコエビは秋から春にかけてと旬の時期が異なるため、県内ではほぼ1年を通してガスエビを食べることが出来ます。金沢駅を中心に料亭や居酒屋などのお店で食べられるため、他の海産物と一緒に石川県でしか食べられない幻のガスエビにも注目してみて下さい。
ルビーロマン
石川県には“ルビーロマン”と呼ばれるぶどうの品種があるのをご存じですか?ぶどうといえば山梨県や長野県のイメージが強く、巨峰やピオーネ、デラウェアなどをはじめに種類は増え続けており、近年ではマスカットの品種も増えています。しかし、その中でもひと際大粒で、国内だけでなく世界一高級なぶどうとされているのがルビーロマンです。石川県ではぶどうの高級ブランドを築くために県内の農家とJAが協力して14年もの歳月をかけてルビーロマンという新しい品種を作りました。鮮やかな赤色をした粒の大きさは巨峰の約2倍と国内でもトップレベルの大きさとなっており、大きさに加えて酸味が少なく甘くてジューシーであることも特徴となっています。糖度は十分に高いものの、しつこい甘さではないためさっぱりとした上質な甘さを感じられるでしょう。しかし、暑さなどの気候条件によって赤色の大粒品種は色がつきにくい性質を持っているため、鮮やかな赤色をしたルビーロマンは非常に希少価値が高く、大きさや甘さなどの品質の高さから初競りでは一房110万円もの値段がついた高級なぶどうとなっているのです。
石川県には日本海に沿って長い砂浜海岸があり、この地域では砂丘特産の農産物の生産が盛んでした。その中にはぶどうも含まれていましたが、石川県の環境や夏季の温暖な気候などから品質の高い大粒品種は作れず、県内で作られる品種はデラウェアなどの小粒品種が大半を占めていました。しかし、大粒で高級感のあるぶどうが年々好まれるようになっていったことから、県内でも赤色大粒品種の開発が始まり、1995年に藤みのりという黒色大粒品種の種400粒を蒔き、そのうちの苗40個をぶどう畑に定植しました。2年をかけて大切に育てた木のうち赤い実をつけ、味や色、粒の大きさなどの品質や栽培のしやすさなどを考慮して選ばれた1本がルビーロマンの原木となったのです。見た目や味などの品質の高さや気候の適合などから「奇跡のフルーツ」とも呼ばれており、その1粒は一口では食べられないほど大きく、直径31mm以上、重さ20g以上、糖度18度以上をクリアしていないとルビーロマンと呼ぶことが出来ません。これはぶどうが1本の木に20房程度成るのが一般的な中、ルビーロマンは6房しか成らず、その分一房一房に栄養が行き渡っているため実現しているのです。さらにぶどうの色の具合をみて色の違う袋に付け替えるなど細かい調整をしているからこそ鮮やかな赤色が生まれます。
手間ひまかけて大切に育てられ、厳しい検査や規格をクリアしたルビーロマンには生産者シールや認証シールが付けられます。さらに厳しい品質基準をクリアしたものには認証タグも付けられ、丁寧に梱包されて出荷されていきます。まだまだ生産量が少ないため、なかなか手に入らないのが現状ですが、9月頃にある販売を事前にチェックしておけば購入することも出来るようです。一房10,000円以上と高級にはなりますが、その大きさや美味しさにきっと驚くことでしょう。また、農家によってはルビーロマンから作られたワインも販売しており、生の果実を食べたような風味を感じられると評判であるため、お酒好きな方はそちらもぜひチェックしてみて下さい。
金沢おでん
石川県では冬の定番料理であるおでんを1年通して食べるほど県民から愛されているため、日本で1番おでんの消費量が高い県でもあります。そんなおでん好きな石川県で食べられている郷土料理が“金沢おでん”です。金沢市を中心に家庭やお店で食べられており、金沢の食材を使うことと1年中食べられることが出来れば金沢おでんと名乗ることが出来るそうです。そのため、出汁に決まりはなく各家庭やお店によって異なりますが、にぼしや鰹節、昆布を使った出汁に金沢で好まれている甘みのある醤油を使っていることが多く、コクがありながらも出汁の風味を重視した優しくあっさりとした味つけとなっていることが多いです。具材には大根やこんにゃく、昆布など定番の具材も入っていますが、金沢にゆかりのある食材を使っていることから、金沢市を中心に栽培されている加賀野菜や車麩、魚のすり身を蒸したふかし、ひろずと呼ばれるがんもどき、バイ貝、蟹の甲羅に内子・外子・身などを詰めたカニ面、赤巻きと呼ばれる渦巻き模様のかまぼこ、メギス(ニギス)のつみれなど他県では見られないような具材がたくさん入っているのが大きな特徴となります。そのため、定番の大根も源助大根と呼ばれる加賀野菜となり、おでんだけで金沢の美味しい特産物が多種類も食べられる夢のような郷土料理となっているのです。
金沢でおでんが食べられるようになったのは明治末頃と言われています。当時は江戸で生まれたおでんの影響から東京の醤油の強い汁が特徴のおでんが食べられていましたが、大正初期頃、関西では食文化に合わせて出汁で煮込み後から醤油をつける形のおでんに変化したことで、後に金沢でも出汁が効いた薄味のおでんへと変わっていきました。関東大震災時には炊き出しのために逆輸入として関西風のおでんを作ったところ人気が出たことがきっかけで、薄味のおでんの認知度も徐々に全国へと広がっていきます。金沢では大正後期から昭和初期にかけておでんブームが起こり、おでんを提供するお店も増えたことや外食をする習慣が広まったことなどによりおでんが身近なものへと定着していきました。金沢おでんは出汁の味を重視しているため、食べる際にはからしなどはつけず出汁の風味を感じられるようそのまま食べるのが一般的となっています。また、1年を通して食べられることから春にはたけのこやフキ、秋には里芋やレンコンなどの季節を感じられる食材が使われ、さらに夏には冷静おでんとしてトマトやきゅうりといった夏野菜を冷たい状態で食べられるのも金沢おでんならではの楽しみ方となっています。日本各地には特徴のあるご当地おでんがいくつかありますが、ここまで旬の地元食材を使っているおでんは石川県だけになるのかもしれません。どの季節に訪れても美味しい金沢おでんが食べられるため、季節ごとに一味も二味も違った味わいを楽しむのもおすすめですよ。
治部煮
“治部煮”とは加賀料理としても知られている石川県を代表する郷土料理の1つであり、金沢伝統の鴨肉やすだれ麩、季節の野菜、きのこなどを使った煮物になります。大きめにそぎ切りをした鴨肉に小麦粉をまぶして作るためとろみが生まれ、旨みもとじこめられることから寒い冬には体の温まる料理として親しまれています。また、薬味にわさびを使うのも特徴となっており印象的でもありますが、わさびと鴨肉の相性は非常によく、出汁と甘めの馴染み深い醤油の味わいを全体的に引き締める役割をしてくれます。治部煮は現在も飲食店や総菜店などで販売されており、家庭でも特別な日やおもてなし料理として作ることがありますが、鴨肉は季節によっては手に入れにくく高級食材でもあるため、代用として合鴨や購入しやすい鶏肉を使うことも多いです。また、肉以外にも季節によってはブリやカジキなどの旬の魚介を加えて作ることもあり、魚介の旨みや深みが加わってまた違った美味しさを感じられます。
江戸時代から食べたられていた治部煮は、武家料理として武家や庶民の間で古くから親しまれてきました。今でこそ牛肉や豚肉などを食べる機会は多いですが、海外との交流が始まる明治時代より前は牛をはじめとする4足の動物を食べる習慣がなかったため、金沢の人にとって鴨肉は重要で貴重なタンパク源とされていました。さらに、冬場は寒く天候も悪い日が続く環境であったことから滋養強壮という点でも非常に重宝されていたそうです。治部煮という名前は、豊臣秀吉軍の食料を調達していた岡部治部衛門が考案したためという説や鍋で煮る時にとろみのついた汁が「じぶじぶ」という音を立てることからという説、鴨肉を使うためフランス料理のジビエが変化したという説など、方向性がまったく違う説がいくつも存在しているため、はっきりとした由来は分かっていません。しかし、今でも金沢を中心に県全域で食べられていることから、長い年月が経っても地元の方に愛されている郷土料理であるということが分かります。また、加賀地方の特産品であるすだれ麩を使っているのも特徴的であり、治部煮には欠かせない食材の1つでもあります。すだれを巻いて作られたお麩の表面にはギザギザした特有の凹凸が生まれ、そこから鴨肉や野菜などの旨みや出汁がたっぷり染み込むため、鴨肉にも負けない美味しさを持つ名脇役となっています。おもてなし料理という点から見た目の美しさにもこだわりを感じられるため、お店ごとの盛り付けにも注目しながら歴史ある金沢の治部煮を味わってみてはいかがでしょうか。
ハントンライス
石川県内には美味しい食べ物がたくさんありますが、金沢市には地元で愛され続けている“ハントンライス”というご当地グルメがあります。ハントンライスはケチャップで味つけをしたバターライスの上に薄焼きにした卵を乗せているため、一見オムライスのようにも見えますが、トッピングに白身魚のフライ、さらにケチャップとタルタルソースの2種類がかかったボリュームたっぷりな料理となっています。この形がスタンダードとなりますがお店ごとに少しずつ特徴が変わり、バターライスの代わりにチキンライス・ベーキライスという洋風焼きめし・雑穀米、薄焼き卵の代わりに半熟卵やスクランブルエッグ、トッピングもエビフライ・カキフライ・トンカツ・グリル野菜、デミグラスソースやオリジナルソースを使うなどバリエーションが非常に豊富となっているのもハントンライスの特徴です。卵とごはん、さらにフライという組み合わせは子供から大人まで年齢関係なく人気があり、それに加えてボリュームたっぷりでリーズナブルというところが長年愛されてきた秘訣となっています。
ハントンライスが作られたのは今から60年以上も前になります。市内のとあるレストランで働いていた料理長が「一皿でごはんも料理も食べられるように」と作った賄い料理をもとに考案し、独立した際に名物料理として提供を始めました。ハンガリー料理に似たような料理があったことと当初はマグロのフライを使っており、フランス語でマグロを意味する「トン」を合わせて“ハントンライス”と名付けられたと言われていますが、実際にはハンガリーに類似料理は存在しておらず、発祥のお店も閉店してしまっているためはっきりとしたことは不明となっています。しかし、若者を中心に少しずつ広まっていったハントンライスは、人気と共に地元に深く根付いていき、ソウルフードとなるほど愛され親しまれています。2015年に北陸新幹線が開業したことと全国のご当地グルメが流行したことにより、石川県だけでなく全国にまで認知されるようになり、現在は金沢市に訪れる観光客にも非常に人気が高まっています。市内の洋食店やカフェでハントンライスは提供されており、発祥の店の味を継ぐものからオリジナリティあふれるものまでさまざまなハントンライスに出会うことが出来るでしょう。中には連日行列が出来るほど人気のお店もあるため、食べたことがないという方はぜひ一度、金沢市で生まれたソウルフード・ハントンライスの美味しさを味わってみてもらいたいです。
和菓子
石川県にはあずきをたっぷり使ったきんつばやあんころ餅、落雁の最高峰と呼ばれる長生殿(ちょうせいでん)、可愛らしいデザインのもなかや蒸し饅頭、特産品の金箔を使ったカステラ、水あめ、琥珀糖などなど、伝統菓子や銘菓が非常に多く和菓子の老舗も多いです。県内でも中心都市である金沢は日本三大和菓子処の1つとなっており、人口当たりの和菓子店の軒数は京都に次いで2位となっています。それだけでなく、1世帯当たりの和菓子購入金額や和菓子の美味しい都道府県ランキングでは京都を抑えて1位を取るほど質の高い和菓子が多く、高く評価されているのです。金沢のお菓子は季節の素材を取り入れていることや食感・風味に特徴のあるものが多いため一口食べただけでも美味しさを楽しむことが出来るのも人気の高さに影響しており、地元の方だけでなく観光客にも広く愛されています。また、伝統的な製法や地元素材を大切にしながら新しいお菓子も作られているため、歴史ある伝統菓子だけに留まらず、和菓子を中心とした銘菓や洋菓子などの新商品も多く販売され、種類も豊富に取り揃えられているのです。
金沢の菓子文化は江戸時代まで遡り、加賀藩の時代から茶道を大切にしてきたことが大きく影響しています。藩祖などが千利休の直弟子であったことや藩内に高名な茶人に師事していた人がいたため、加賀藩では茶道を奨励しており、茶道には欠かせない和菓子を城下町で作らせるようになったことが始まりとなっています。当初は位の高い人しか食べられなかった和菓子ですが、後にお寺にお供えされた落雁や饅頭を庶民にふるまうようになったことで、和菓子文化が少しずつ庶民にまで広まっていきました。金沢の和菓子は京都の上菓子が伝わっていることもあり、京都の色を感じられるところもありますが、時代の流れに沿って金沢で独自に発展していき、季節感を大切にしていることから、色鮮やかなものや華やかなもの、可愛らしい見た目のお菓子が多いのも大きな特徴となっています。現在でも金沢市内には歴史を感じる観光地や茶屋街がいくつも残っており、茶道の文化が今でも根付いているからこそ、質の高い和菓子や銘菓が多く存在しているのです。また、老舗の和菓子屋さんが手掛ける風情溢れる和カフェや茶道体験が出来る場所も多く、和菓子が食べられる機会も身近にあるため、石川県の和菓子や茶道の歴史に触れたり感じながらゆっくりとした時間を過ごすのもおすすめです。