灰汁(アク)は取るべきか

料理を作るときに出てきた灰汁は取るべきか迷ったことはありませんか?レシピや作り方の中にも灰汁を取る工程が度々出てきます。そもそも灰汁とは何なのか?なぜ出てくるのか?取る理由は何か実は知らない人も多いのかもしれません。今回はこの灰汁の正体や素材ごとの灰汁の取り方について紹介していきます。

灰汁は取るべき

灰汁は肉や魚、野菜などの食材に含まれている苦味・えぐみ・渋みなどの総称のことになります。これらは味以外にもにおいや色といった風味・見た目にも影響を与えるため、基本的には取り除く工程として記載されていることが多いのです。よって、灰汁は取るべきという結論になります。灰汁には大きく分けると植物性の灰汁と動物性の灰汁の2種類があり、含まれている成分や灰汁の取り方が変わってきます。

灰汁が与える悪い影響

味:苦味、えぐみ、渋みの発生
見た目:素材の変色を加速させる
栄養:素材に含まれる栄養成分吸収の阻害

植物性の灰汁

野菜や山菜には植物性の灰汁が含まれており、本来は草食動物などの外敵から身を守るための役割を持っていると言われています。植物性の灰汁はえぐみを感じられる成分が多く、取り除かなかった場合には味が損なわれる・色が変色するといった影響が出ます。中には、素材に含まれる栄養成分を体内へ吸収を妨げるような物質が含まれているものもあるため注意が必要です。

えぐみや苦味に繋がる成分としては、ほうれん草・春菊などに多く含まれる「シュウ酸」、タケノコ・ごぼうなどに含まれる「ポリフェノール」などがあげられ、ポリフェノールは空気に触れることで“酸化酵素”が働いて野菜などの色を変色させてしまいます。よくナスやじゃがいもを切ってそのまま置いておくと変色してしまうのはこのポリフェノールによる酸化酵素の働きが原因となっています。

また、じゃがいもの芽や青梅には青酸と呼ばれる灰汁の成分や山菜をはじめとした春野菜などにはサイカシンという成分が含まれています。青酸は吐き気や腹痛、サイカシンは長期間に渡って摂取していると発がん性が認められている成分にもなるため、これらの成分が含まれている灰汁はしっかり取り除く必要があります。

しかし、植物性の灰汁には体によい影響を与えるポリフェノールやタンニンといった成分も含まれていることや、灰汁を取る中で野菜の持つビタミンなどの栄養も取り除かれてしまうこと、そもそも灰汁があまり含まれていない野菜もあるため、料理の目的や使う野菜の種類によって灰汁の取り方を変える・取り除く量を調整することが大切です。

植物性の灰汁の取り方

植物性の灰汁は基本的には料理中ではなく事前に下処理をして取り除いておきます。灰汁の取り方がいくつかあるため、取り方の種類と向いている野菜も一緒に紹介していきます。

水にさらす
該当する野菜:ナス・じゃがいも・サツマイモ・ごぼう・れんこんなど
皮をむく、または必要な大きさに切ったあとすぐに水に3~5分ほどさらしておく

野菜の灰汁はほとんどが水に溶けやすい性質を持ち合わせているため、水にさらしておくだけで灰汁を取り除くことが出来るものが多いです。また、水に浸けることで変色を防ぐことが出来るためなるべく空気に触れる時間を減らしすぐ水に浸けるのがベストです。しかし、浸けておく時間が長いと水っぽくなってしまったり、必要な栄養素も溶け出してしまうため3~5分を目安に調整して下さい。灰汁を取り除く必要のない野菜でも気になる場合は短時間水にさらしておくとよいです。

酢水にさらす
該当する野菜:ごぼう・れんこん・うどなど
水500mlに対し酢小さじ1の酢水に5分ほどさらしておく

ごぼうやれんこんは水でさらしただけでは変色することがあります。白っぽく綺麗な仕上がりにしたい場合は酢水にさらすことでより綺麗な色を保つことが出来るため、変色しやすいごぼうやれんこんは酢水に浸けることもおすすめです。量によってはさらす時間を調整し時間が経ったら軽く水で洗い流してから使うようにして下さい。

ゆでる
該当する野菜:ほうれん草・春菊・ブロッコリー・さやいんげん・アスパラガスなど
塩をひとつまみ入れた熱湯でさっとゆでたあと水にさらす

水では取り除くことが出来ない灰汁の場合はさっとゆでることで野菜の細胞が破壊され、灰汁の成分が溶け出しやすくなるため取り除きやすくなります。しかし、ゆですぎると野菜の栄養素も一緒に取り除かれてしまうため長時間ゆでないように気を付けて下さい。また、ゆでた後に水にさらすと色止めになり綺麗な色の仕上がりとなることから水にさらすまでを1つの流れとしておきましょう。残ったゆで汁には灰汁の成分がたくさん含まれているため違うものに使わず捨ててしまいましょう。

米ぬか・米のとぎ汁・重曹を入れてゆでる
該当する野菜: 米のとぎ汁を使う  大根・さといも
       米ぬかを入れる  大根・たけのこ・ごぼう
       重曹を入れる   わらび・ゼンマイ・豆類

大根やさといもを下茹でする時に水の代わりに米のとぎ汁を使ってゆでることで灰汁をとぎ汁が吸収し白く仕上げてくれます。しかし、中にはお湯でゆでるだけでは灰汁を取り除くことが出来ない野菜もあり、そのような種類には米ぬかや重曹を加えてゆでる方法を使います。
米ぬかを入れるのはたけのこの下処理をする際によく使う方法ですが、これは米ぬかのカルシウムやアミノ酸の働きによりえぐみを感じにくくさせ、たけのこの硬い繊維をほぐしてくれる役割も持っています。米ぬかを使う場合は1カップの米ぬかと唐辛子1本、たけのこが隠れるくらい水を鍋に入れてゆでていきます。大根やごぼうにも使えますが手間が増えてしまうため、他の方法で灰汁を取る方が手軽でおすすめです。

また、山菜は他の野菜に比べるとえぐみや灰汁が強く、毒性のある成分も含んでいるため重曹を使って灰汁を取り除いていきます。ふきは沸騰したお湯1Ⅼに対して小さじ半分の重曹を入れて柔らかくなるまでゆでるだけですが、わらびやぜんまいは重曹入りのお湯に一晩さらしておく必要があります。種類によって処理が違ってくるため適切な処理をするようにしましょう。

動物性の灰汁と取り方

動物性の灰汁は肉や魚などを使った料理中に表面に浮かんでくる泡状のものが灰汁となります。この泡にはたんぱく質や脂肪分、血液などが含まれており、熱を加えることで浮かんできます。そのため、野菜と違い下処理の段階で灰汁を取り除くのではなく料理をしている途中で取り除くようにしましょう。

基本の取り方
動物性の灰汁は基本的には表面に浮かび上がってきた灰汁をおたまなどですくい取るだけとなり、強火で沸騰させてしっかり灰汁を浮かび上がらせることが上手に取り除くポイントになります。沸騰させると自然と灰汁が中央に集まり取りやすくなりますが具材の量などによっては広がってしまうため、取りにくい場合は一度弱火にすると取り除きやすくなります。また網状のおたまを使うと灰汁だけをすくい取ることが出来るためおすすめです。

キッチンペーパー・アルミホイルを使う
おたまなどを使った灰汁取りが上手くいかない場合や一度に取り除いて時間短縮をしたい時にはキッチンペーパーやアルミホイルを使うと簡単に取り除くことが出来ます。

灰汁が浮かんで来たらキッチンペーパーや軽く丸めて凸凹を作ったアルミホイルを落とし入れるとキッチンペーパーやアルミホイルが灰汁を吸着してくれるため、そっと取り出せば手軽に灰汁が取れます。最近は灰汁取り専用のシートも販売しており、キッチンペーパーなどに比べるとさらにしっかり灰汁を吸着してくれるだけでなく、脂分も吸い取ってくれるため角煮のような脂もたくさん出る料理をする際には常備しておくと便利です。

また、アルミホイルやフェルトタイプのキッチンペーパーは灰汁取りと同時に落とし蓋としても使うことも出来るため、煮ながら灰汁を取ることが出来て手間を省くことにも繋がります。ただし、おたまなどを使って灰汁を取る場合は、灰汁が出ている時に鍋の蓋をしてしまうと具材と混ざり溶け込んでしまうため、灰汁を取り終わるまでは蓋はしない方がよいです。

動物性の灰汁は取り除かないと出来上がった際の見た目以外に、においにも大きく影響します。特に魚を使った料理で灰汁取りをしないと魚の生臭さが残ってしまうことが多く、煮汁も濁りやすくなります。灰汁が出てしまった場合は取り除いた方がよいですが、ある程度取り出してしまえば残っていても問題はありません。また、灰汁は沸騰のように温度が高温になり食材同士がぶつかることで出やすくなるため、料理によっては80℃くらいで加熱し灰汁を必要以上に出さないということも大切です。

植物性・動物性の灰汁のすべてが不純物であるというわけではありませんが、灰汁を取る1番の理由としては仕上がった時の見た目や香り、味のよさに繋がります。下処理や取り除く工程は手間かもしれませんが、そのひと手間をかけることでワンランク上の仕上がりになることや種類によっては体に悪影響のある成分を取り除くことも出来るため、上手に取り除いて仕上がりの違いを感じてみて下さい。