山形県の代表的な名産品とソウルフード

日本海側に面した山形県は日本百名山に数えられる山々や最上川など豊かな自然に恵まれており、沿岸部や内陸部によっては積雪量や降水量、気温の温暖具合など気候にも大きな特性が見られます。そのため、土地によってさくらんぼをはじめとする農産物や畜産、稲作、海産物、酒など幅広い特産品があり美味しい食べ物に溢れています。今回はそんな山形県の中でも代表的な名産品やソウルフードについて紹介していきます。

さくらんぼ

山形県では洋ナシやぶどう、スイカ、桃などさまざまな果物を生産していますが、中でもその印象が強いのが“さくらんぼ”です。山形県で栽培・生産されているさくらんぼは全国生産量の8割弱を占めており、シェア率は日本一を誇ります。さくらんぼはもともとトルコが原産のバラ科の植物で、日本での栽培は開拓使が明治の初め頃(1860年)にアメリカから輸入したのが始まりとされています。しかし、梅雨のシーズンに収穫期を迎えるさくらんぼは雨や霜に弱い性質を持っていたため、なかなか上手く育てられず失敗する地域が増えていきます。そんな中、山に囲まれた山形県は梅雨の時期でも降水量が少なく、風も強くなかったことや梅雨の期間が比較的短かったことからさくらんぼを栽培するのに非常に適した環境をしており、県内では盛んに栽培されるようになりました。

山形県で栽培されているさくらんぼの種類は約30種類以上あり、その種類によって収穫期も変わってきます。特に人気が高いのが、さくらんぼの王様とも呼ばれ糖度が高く酸味やみずみずしさのバランスもよい「佐藤錦」です。佐藤錦に次いで、大粒で食べ応えがあり糖度の高い「紅秀峰」やジューシーで柔らかい「紅さやか」など佐藤錦を品種改良した甘みの強い種類の人気が高く、ギフトなどにもよく選ばれています。甘みも人気も高い品種が多い山形のさくらんぼですが、まだまだ品種改良に力を入れており次世代さくらんぼの登場にも期待が高いです。そんなさくらんぼ大国だけあって、さくらんぼを使った加工品も多く、定番のジャムやジュース、焼き菓子、まるまる1個使ったゼリーなどそのバリエーションや種類も豊富となっています。せっかくであれば、山形県を訪れた際や取り寄せなどを利用して生のさくらんぼの美味しさを味わってもらいたいですが、シーズンを過ぎてしまった場合やお土産として持ち帰れない場合にはさくらんぼを使ったこだわりの加工品にもぜひ注目してみて下さい。

だだちゃ豆

山形県には伝統野菜と呼ばれる地域の人々が古くから受け継いできた在来の作物がいくつもあります。かぼちゃやほうれん草など馴染みある野菜がその土地や環境の影響を受け一味違った特徴を持つ種類から聞き馴染みの少ない種類の野菜までさまざまな伝統野菜が山形にはありますが、ここ数年で全国的にも浸透しつつある伝統野菜があります。それが“だだちゃ豆”です。100年以上も前から栽培されているだだちゃ豆は、枝豆(茶豆)の一種で、庄内地方にある鶴岡市の名産品となっています。甘みと旨み、香りが強く独特の風味を持ち、産毛が生えた小さく茶色のサヤはくびれが深いのが特徴であり、枝豆の王様や日本一の枝豆と呼ばれるほど評価が高いです。

だだちゃ豆の“だだちゃ”は庄内地方の方言で「お父さん・おじさん」と言う意味を表します。江戸時代から鶴岡にある農家数軒のみで栽培されており、この地域で作られる茶豆を食べた当時の庄内藩の殿様がその美味しさから「これはどこのだだちゃの枝豆か?あのだだちゃの作った枝豆が食べたい」と言ったことからだだちゃ豆という名前がついたとされています。大豆が完熟する前の状態(緑色の状態)である枝豆は、大豆の種類によって白毛豆(青豆)・茶豆・黒豆に分かれ、茶豆に分類されブランド化しているのがだだちゃ豆です。茶豆自体は他の地域でも栽培されていますが、枝豆の中でも特にデリケートなだだちゃ豆は鶴岡市の限られた地域の土壌や環境でしか栽培することが出来ず、他の地域では美味しいだだちゃ豆を栽培することが出来ません。濃厚な甘さを感じられるだだちゃ豆はそのまま食べるのが一番美味しいため、地元ではおやつとして食べることもよくあることだそうです。また、東北では枝豆をすりつぶしたずんだを甘味として食べる習慣があり、山形県でも甘みや旨みの強いだだちゃ豆を使ったスイーツや甘味は多くあります。饅頭など風味をしっかり感じられる和菓子をはじめ、だだちゃ豆入りのクリームを使ったロールケーキや焼き菓子、アイスなど実は和菓子だけでなく洋菓子との相性も非常によく人気が高いのです。そのまま食べた時にしか伝わらないだだちゃ豆の持つ本来の美味しさや一般的な枝豆との違いを味わった後には、ぜひだだちゃ豆を使ったスイーツや甘味も味わって相性のよさやスイーツでしか感じられない旨みを楽しんでみて下さい。

玉こんにゃく

玉こんとも呼ばれ、県民に広く親しまれている“玉こんにゃく”は山形県のソウルフードの1つでもあります。山寺や羽黒山などの観光地をはじめにお祭りや居酒屋、飲食店などさまざまなところで見かける玉こんにゃくは、串に3cmほどの大きさをした丸いこんにゃくが3~5個刺さっており、団子のように食べるのが定番です。スルメのダシが入った醤油でじっくり煮込んで作られるため茶色い見た目をしており、そのまま食べても美味しく風味豊かな味わいとモチモチした食感を味わうことが出来ます。また、和からしをつけると一味違った味わいを楽しむことが出来るため、からしが苦手でない場合はつけない時とつけた時の違いを比べてみるのもおすすめです。この調理法と食べ方が一般的になりますが、地域によっては煮込まず、こんにゃくを炒った後、タレを絡めて食べるのが主流となるところもあります。

山形県にこんにゃくが伝わったのは今からはるか昔の平安時代、観光名所でもある山寺立石寺を開山した慈覚大師が中国から持ち帰り精進料理に使ったのが始まりで、周辺住民を通じて県内に広まったとされています。現在のような丸い玉こんにゃくを串に刺して食べるようになったのにはいくつか説があり、明治中期頃、老舗の食品会社がこんにゃくを団子のようにおやつ感覚で食べられるように考案した事や別のこんにゃく店が手で丸めてこんにゃくを作り提供したこと、昭和中期頃の戦後、食料不足の時にちぎったこんにゃくを煮付け串にさして花見やお祭りの際に振舞われたこと、家庭料理の名残などが起源とされています。いずれにしても、古くからこんにゃくが身近にあった歴史があるため、山形県はこんにゃくの消費量が全国で一番多く、お正月などの行事料理にはもちろんのこと、お弁当などにも玉こんにゃくが入っていることは頻繁にあるそうです。板こんにゃくや糸こんにゃくが一般的な中で玉こんにゃくが身近にあるのは山形県ならではとなっており、シンプルな見た目からは想像しにくいほど奥深い美味しさが詰まった魅力的なソウルフードとして愛されているのです。

芋煮

玉こんにゃくと並んで、郷土料理でもありソウルフードでもあるのが“芋煮”です。甘めの醤油ベースに里芋・こんにゃく・ねぎ・きのこ・牛肉などが入った村山地方の芋煮が旅館や飲食店などでは多く提供されていますが、県内の4つに分かれた地方や各家庭によっては豚肉を使う、根菜類を入れる、豆腐を入れる、味噌で味付けをするなど使う具材や味付けの仕方に大きな違いが出るのがおもしろい特徴となっています。秋から冬にかけてよく食べられる芋煮は、地元の人々からとても愛されており、家庭で作るほかにもバーベキューをする感覚と同じように家族や友達と河川敷で芋煮を楽しむ芋煮会を開いたり、運動会や地域の行事で振舞われたりと非常にポピュラーな料理なのです。さらに毎年9月には山形市で「日本一の芋煮フェスティバル」が開催されています。直径5~6mある鍋と専用のショベルカーで作る日本一大きな芋煮は秋の風物詩として県民をはじめ毎年多くの芋煮好きのファンが訪れる一大イベントとなっています。

県民にとってなくてはならないほど身近な芋煮ですが、発祥は江戸時代まで遡ります。当時、山形県には最上川舟運の終点地があり、運ばれてきた荷物の取引をしていましたが、すぐに相手と連絡を取る手段がなかったため、船頭が何日も待つなんてことはよくあったそうです。そんな退屈な時間を利用して、船着場近くの名産物であった里芋と積み荷にあった棒ダラなどを鍋で煮て、河原で宴を開いていたのが芋煮の原点とされています。具材に牛肉を使うようになったのは昭和からと言われており、時代の流れに沿って使う具材の変化はあったものの、里芋だけは発祥当初から変わらず使っていたため、東北地方の里芋の収穫時期である10月頃に1番多く芋煮会が開かれているのは発祥の名残かもしれません。地域による味や具材の違いはもちろんですが、ベースが同じ芋煮であってもお店や家庭によって味やこだわりが違うのも芋煮のよい点になります。そのため、山形県に訪れた際には何種類か食べ比べて好みの芋煮を探してみるのも楽しいですよ。レトルトタイプの芋煮も販売しているので現地で食べられない場合やお土産としてもおすすめです。きっと芋煮の魅力と奥深さに気づくはずです。

だし/山形のだし

だしと言うと昆布やかつお節からとった出汁をイメージしますが、山形県村山地方にはきゅうり・なす・ミョウガ・青じそなどを使った“だし”と呼ばれる郷土料理があります。夏には日常的に食べられる定番の家庭料理で、細かく切った夏野菜や香味野菜を醤油・めんつゆなどで和え、ごはんやうどん、納豆、豆腐、刺身などにかけて食べます。火を使わず簡単に作ることが出来るうえに非常に万能であるため、多めに作って作り置きしている家庭も多く、家庭によって、オクラや山芋、納豆昆布、ショウガ、ネギなど粘りやアクセントになる食材を加えることもあります。切る大きさや調味料の違いによって食べ応えなども変わるため、まったく同じだしがないと言えるほど多彩なものとなっているのも1つの特徴です。甘みや旨みが強いとうもろこしや枝豆を入れるのと色合いが鮮やかになり、大人だけでなく子供にも評判がよいとされています。

発祥地である村山地方は山で囲まれた土地であるため、夏は高温多湿で暑さが厳しく食欲がなくなりやすい環境でした。そんな時に手早く作れ、さっぱりと食べられるだしが生まれ浸透していったのです。また、村山地方には養蚕業が盛んな場所があり、農産業の忙しい時期におかずを作る手間を省けるように作っていたとも言われています。このだしと言う名前は、出汁と同じように他の食材を引き立てる役割を持っていることからや野菜を細かく切り出すこと、手早く作り食卓に出すことからついたなど、由来にもいくつか説があるとされています。また、一般的な出汁と区別するために「山形のだし」と呼ぶことも多いです。実は2000年前後までは県内でも認知している人や地域が限られていましたが、メディアで紹介されたことで認知度が首都圏まで広がりました。近年は料理研究家などがSNSでだしの作り方を紹介したことで認知度が全国的にも広がり、チェーン店などで夏季限定メニューとして取り入れられていることが増えています。家庭にある食材や調味料でも簡単に作れるため、夏の暑い日にはだしを作って山形郷土料理の美味しさを身近に感じてみてはいかがですか。