知っているようで意外と知らない?愛知県の特産物・特産品

日本のほぼ中心に位置する愛知県は、三大都市の1つである名古屋市があることから都会のイメージが強いですが、北部には山、南部には海があり自然も豊かに共存しているため農業も水産業も盛んに行われており、地域によって幅広い特産物があります。知名度の高い特産物も多いですが、なかには愛知県で生産・漁獲されているものだとあまり知られていない種類も多いため、代表的なものだけでなく意外と知られていない特産物・特産品にも注目して紹介していきます。

名古屋コーチン

“名古屋コーチン”とは愛知県を代表するブランド地鶏です。比内地鶏・さつま地鶏と並んで日本三大地鶏の1つでもあるため全国的にも知名度が高く、「地鶏の王様」とも呼ばれています。お肉がおいしいだけでなく、卵もよく生むことから卵肉兼用種となっており、肉・卵ともに評価が高く希少価値も高いため高級食材として扱われています。肉質は筋肉質で脂肪が少なく弾力やしっかりとした歯ごたえを感じられ、噛むほどにコクや旨み、甘みを味わえるのが特徴です。また、一般的なブロイラー(食用若鶏)と比べると高タンパク質・低脂肪であるのも特徴となっており、健康志向の方からの人気も高くなっています。卵の方は小ぶりですが黄身の色が濃く、濃厚な味わいと滑らかな口当たりが特徴です。卵の殻は美しい桜色をしていますが、なかには白い斑点があるものも見られ、花びらが舞っているように見えることから「桜吹雪」とも呼ばれています。よく卵を産むものの年間250個ほどと希少で、数日に一度しか産卵しないこともあり流通量が少ないため、高級食材となっているのです。

愛知県での養鶏は江戸時代末期から始まったと言われており、明治時代の半ばに在来の地鶏と中国のバフコーチンという種類の鶏を交配させて誕生したのが名古屋コーチンになります。大正初期に正式な品種名として「名古屋種」へと改名しましたが、現在でも名古屋コーチンという名称を使うことの方が多く親しまれています。肉・卵の品質がよい以外にも、比較的温厚な性格と強い肉体を持っていたことから飼育しやすく、次第に全国でも広く飼育されるようになりました。明治時代には国産実用品種第一号の鶏としても認定され、明治から昭和中期までの養鶏産業を大きく支えてきましたが、外国産の親鶏が輸入されるようになると次第に養鶏場で大量生産される鶏は欧米系の品種に変化していき、名古屋コーチンは絶滅の危機に瀕するほど減少してしまいました。しかし、昭和後期に鶏肉本来の旨みや歯ごたえを感じられるかしわ肉を求める声が大きくなったことで再度注目されるようになり、飼育方法などの見直しや改良を加え、現在は名高いブランド地鶏として親しまれています。一般的な鶏肉は十分な運動が出来ないほどの狭い鶏舎の中、短い期間で育てられるため肉質が柔らかいのが特徴となりますが、名古屋コーチンは3倍以上の飼育期間と飼育密度が1㎡あたり10羽以下という条件が課されていることもあり、運動量がまったく違うことが筋肉量を増やし特有の歯ごたえが生まれています。こうした環境の整備や手間をかけて育てられていること、大量生産されていないことなどにより、卵と同じく鶏肉も高級食材として扱われているのです。

古くから養鶏産業が身近にあったことや県内には山鳥が多かったことも影響して、愛知県の郷土料理やご当地グルメには鶏肉を使った料理が多く、手羽先や焼き鳥をはじめに「かきまし」という鶏肉の混ぜご飯や鶏肉を使ったすき焼きの「かしわのひきずり」など多種類の鶏料理が食べられています。また、名古屋コーチンは独特な香りやコクがあるため出汁やスープとしても使われることも多く、食べ方や調理方法によって風味・食感ともに違った美味しさを味わうことが出来るでしょう。卵としては本来の旨みやコクを楽しむのであれば卵かけごはんにして食べるのがおすすめですが、火を通しても名古屋コーチンならではの濃厚な味わいを味わうことが出来、一般的な卵よりも歯ごたえを感じられるなど食感の違いも楽しむことが出来ます。近年では濃厚な味わいから名古屋コーチンの卵を使ったプリンやアイスなどのスイーツも多く販売されており、鶏肉・卵ともにお土産やギフトとしても人気が高いです。加工品なども含めると種類も豊富であるため、大切な方に送る場合にも最適ですよ。ぜひ、名古屋コーチンだからこそ作り出せる鶏肉・卵の風味や食感、旨みをじっくり味わってみて下さい。

いちじく

不老長寿の果物ともいわれる“いちじく”は栄養が豊富に含まれており、消化作用を促進するフィシンや女性ホルモンのバランスを整えるペクチン、ポリフェノールの1種であるアントシアニン、他にもビタミン類やカルシウム、鉄分などの栄養素によって美容や健康面でさまざまな効果を期待することが出来るため、女性を中心に人気の高い果物となっています。愛知県では安城市や常滑市、知多市を中心にいちじくの生産が盛んに行われており、ハウス栽培と露地栽培の両方を使って春から秋まで長期的に出荷出来るのが特徴です。また、栽培面積・生産量は全国1位、収穫量も全国2位とトップクラスに位置づけしており、柔らかくジューシーな果実と種のプチプチっとした食感に加えて、愛知県のいちじくは果実が大きく濃厚な甘さを感じられるのが特徴になります。旬の時期は栽培方法によって変わり、ハウス栽培は5月から7月、露地栽培は8月から10月となっていますが、愛知県のいちじくは品質がよく加工もしやすいことから、ドライフルーツやピューレ、ジャム、ジュースなどにも加工され、旬の季節以外にも1年を通して食べることが出来ます。

旧約聖書やギリシャ神話にも登場するほど古い歴史を持ついちじくはアラビア地方が原産地となっており、中国に伝わった後、江戸時代初期に長崎に伝わったと言われています。当初は薬用として栽培されていましたが、生産量が増えたことで食用としても扱われるようになり、昭和初期から安城市や碧南市などでも出荷を目的とした栽培が始まりました。もともと、温暖な気候や平地が多い立地、明治用水という安城市を中心に8市をまたがる農業用水があったこともあり、いちじくを栽培するには適した環境をしていましたが、昭和後期に水田転作作物として栽培するようになったことをきっかけに栽培面積が拡大し、日本を代表するいちじくの産地として成長していきました。いちじくは傷みやすく、日持ちしないため加工して販売されることも多いですが、県内では朝に収穫して基準をクリアしたいちじくが販売されていることも多く、採れたてのいちじくからでしか味わえないみずみずしさや食感、甘さを味わえるのも産地ならではのよさとなっています。また、雨や暑さに弱い性質を持っていることから、出荷前に予冷処理等を行う、露地栽培の一部では枝に傘をつけた傘かけ栽培やビニール屋根をつけた雨よけ栽培など雨に対する対策をするなど、品質の向上や保持を行っているのもいちじくの品質の高さに繋がっており、手間をかけているからこそ他県のものよりも大きさや甘さに特徴を感じられるのです。品種も桝井ドーフィンやサマーレッド、蓬莱柿など特徴の違う種類を何種類も栽培しているため、愛知県でいちじくを見かけた際には加工されていない新鮮な生のいちじくを味わってみてもらいたいです。

あさり・大あさり

愛知県の南部には渥美半島と知多半島があり、県全体を見るとカニのような形をしています。このカニのツメに囲まれたような場所に位置する三河湾を中心に愛知県には “あさり”が多く生息しており、その漁獲量は19年連続で日本1を誇るほど多いです。渥美半島・知多半島でも獲れますが、特に干潟域が多い西尾市や蒲郡市での漁獲量が圧倒的に多く、3月~5月の春に旬を迎える愛知県のあさりは身が柔らかくふっくらしており、甘みを感じられるのが特徴になります。また、殻が割れそうなほど身がしっかり詰まっているため酒蒸しなどあさり単体でも美味しく食べられるうえに、旨み成分のグリコーゲンやコハク酸もたくさん含んでいることから、さまざまな料理に加えると出汁が出て他の食材の美味しさを引き立たたせる役割も果たしてくれます。

あさりをはじめとする二枚貝は干潟や浅瀬に生息するため、干潟域の多い三河湾や伊勢湾に面した場所でよく漁獲されますが、この辺りは比較的波が穏やかで塩分濃度も安定しており、さらにエサとなるプランクトンが太平洋から豊富に流れ込んでくることも相まって恵まれた環境が日本一の漁獲量へと繋がっているのです。日本では縄文時代からあさりを食べられていたと言われているほど古くから身近な食べ物であり、たくさん獲れることから「漁る(あさる)」という言葉が語源となっています。江戸時代にはあさりを串に刺して天日干しにした「串あさり」という郷土料理が徳川幕府にも献上されており、庶民から将軍まで幅広く親しまれていました。

さらに渥美半島の最先端にある伊良湖岬や三河湾に浮かぶ離島では「大あさり」の人気も高く名物となっています。名前や形が似ていることから単純にあさりが大きく成長したものなどと思われやすいですが、正式名称は「ウチムラサキ」という直径10cmほどもある二枚貝で、実際にはあさりとは種類の異なる貝になります。賞費期限が非常に短いもののあさりよりもさらに旨みが強く食べ応えがあり、1個数百円程度で購入出来るコストパフォーマンスのよさからも地元の方を中心に好まれています。大あさり自体は全国各地でも獲れますが、小石が混ざった砂泥や砂利などに生息していることが多いのに対して愛知県では砂地に生息しているため、身が大きくて柔らかく、プリっとした食感を楽しめるのが特徴となっています。また、県内では機械などを使わずプロの潜水漁師の手によって一つずつ手掘りで漁獲することも多いため、身に砂が入りにくいことも美味しさに影響しています。こうした環境の違いなどによってあさりと同じく大あさりも三河湾や伊勢湾が産地として有名で知名度も高く、漁獲量も日本で1番多いのです。他にもミル貝やハマグリ、とり貝、平貝など多種多様の貝が愛知県では漁獲されていますが、その中でもあさりと大あさりは圧倒的に人気が高く美味しいと評判がよいため、三河湾周辺や渥美半島・知多半島付近を訪れた際にはぜひ食べてみて下さい。必ずその美味しさや違いに驚くことでしょう。

西尾の抹茶

抹茶といえば京都や宇治を思い浮かべる方も多いかと思いますが、愛知県の西尾市も抹茶が有名なのを知っていますか?西三河地方にある西尾市や隣接する安城市で生産された茶葉を加工して作られた “西尾の抹茶”は地域ブランドとしても登録されており、生産量が宇治に次いで2位、全国生産の約30%を占めています。しかし、生産された抹茶の約90%は茶道用やお菓子などの加工用として使われることが多いため一般の方にとっては馴染みが少ないですが、伝統的な製法にこだわって作られた西尾の抹茶は高品質であり、品評会などでも高く評価されています。深い緑色と上品な香り、深みや苦味、穏やかな旨みなどを感じられる味わいが特徴であるのに対して、宇治抹茶は鮮やかな緑色と渋みの後にくるコクや甘み、旨みなどを感じられる濃厚な味わいが特徴であり、同じように見えても産地によって抹茶の香りや味わい、奥深さといった特徴も大きく異なります。

西尾市周辺で本格的に抹茶の生産が始まったのは明治初期頃ですが、お茶の栽培の歴史は古く、今から750年以上も前の鎌倉時代まで遡ります。西尾に創建された実相寺の境内にてお茶の種を蒔いたことが始まりとなっており、江戸時代初期にお茶の栽培が奨励されたことで少しずつ広まっていきました。明治時代に宇治からお茶の種と製茶技術を導入すると大正にかけて生産技術が発展していき、日本有数の抹茶の生産地へと成長していったのです。抹茶の原料には碾茶(てんちゃ)と呼ばれる抹茶を作るために栽培された茶葉を使っており、茶葉に覆いをかぶせて日光を遮る「被覆栽培」によって育てられていることから通常の緑茶などよりも甘みや旨みが増し、鮮やかな緑色の茶葉を育てることが出来ます。西尾市で生産されている茶葉の96%以上は碾茶であり、ここまで抹茶に特化している生産地は全国的に見ても珍しく西尾市だけとなっています。さらに西尾の抹茶は生産や製造過程などに加えて伝統的な茶臼碾き(びき)が条件として定義されており、御影石で出来た茶臼を使って丁寧に抹茶が作られているのも特徴です。また、水はけのよい地層や長野県から三河湾にかけて流れる矢作川によって適度な湿度が保たれていることも良質な茶葉を作る要因となっているため、高品質な抹茶を作ることに大きく影響しているのです。西尾市内では濃い緑色をした香り豊かな抹茶スイーツを食べられるカフェや茶店も多く、近年はコンビニなどでも西尾の抹茶使用と記載されたお菓子が販売されていることが増えています。宇治抹茶とは一味違う濃厚な香りや味わいを楽しめるため、お土産やお菓子に西尾の抹茶を使っているかにもぜひ注目してみて下さい

海老せんべい

愛知県では“えびせんべい”が特産品として有名であり、えびのすり身とじゃがいもなどのデンプンを混ぜて型にはめて焼く伝統的な水産加工品です。えびせんべいの種類は豊富にあり、サクッと軽い食感のものやバリバリとした歯ごたえがよいもの、しっかりえびの風味を感じられるもの、さらには焼く以外にも揚げるなどの製法の違いや味つけの仕方によっても特徴が変わり、普段のおやつとして食べられる安価なものからお土産やギフトとしても重宝される高級なものまでさまざまです。国内で生産されているえびせんべいの約9割が愛知県で生産されており、西尾市はえびせん発祥の土地でもあります。

昔から沿岸漁業や養殖業が盛んで水揚げされる魚種も多かった愛知県ではえびも豊富に漁獲されていました。明治20年頃には一般的に小エビと呼ばれる「アカシャ海老」が豊富に獲れましたが、当時は食用としての需要はあまりなく、乾燥加工されたものが中国に輸出されると中国で再度加工されて高級なえびせんべいとして輸入されるようになりました。これを何とか地元で加工・消費出来ないかと考えたのが現在のえびせんべいの原形となっています。中国のえびせんべいとは違い、乾燥したえびではなく生のエビを使ったことでえびの旨みも味わえるようになり、その後えびを多量に処理する方法や製法を考案したことで安価で多量のえびせんべいを生産できる産地となっていきました。他にも、江戸時代に地元の漁師が「えびはんぺい」というえびのすり身を薄く伸ばして炙り焼きにしたものがルーツという説もあり、その美味しさから徳川家献上品にもなっていたと言われています。いずれにしても、えびがたくさん獲れた土地柄だったことから誕生したえびせんべいは今では非常に身近なお菓子として幅広い世代に愛されており、現在は、加工したえびせんべいの他にも頭や殻がついた状態でプレスなどをした「姿焼き」も販売され、高級感溢れる見た目や風味が贈答用としても重宝されています。一般的に購入出来るえびせんべいよりも愛知県の特産品となっているえびせんべいの方が風味がよく、さらに食感や見た目、大きさなどの種類の豊富さも大きな特徴となっているため、自分好みのえびせんべいを見つけるのも楽しいですよ。似たように種類のせんべいでもお店によって特徴や美味しさが異なるため食べ比べしてみるのもおすすめです。