愛知県で親しまれているご当地グルメ

愛知県では古くから醸造文化が栄えていたため豆みそやたまり醤油の発祥地でもあり、みりんなども含めると特徴の強い調味料が昔から深く根付いていました。そのため、名古屋めしをはじめとする愛知県の料理は味つけが濃いものやクセの強いもの、独自の文化から生まれたものなど個性豊かな種類のグルメが多く、親しまれています。今回はそんな愛知県で愛されているご当地グルメについて紹介していきたいと思います。

ひつまぶし

“ひつまぶし”とは細かく切り分けたうなぎの蒲焼をおひつなどに入ったごはんの上に乗せ、茶碗に取り分けて食べる愛知県の郷土料理です。名古屋市を中心に愛知県以外でも食べられており、提供の仕方や食べ方に特徴があるためうなぎ料理の定番であるうな重やうな丼とは一味違った美味しさを味わえます。基本的にはひつまぶしと一緒に出汁またはお茶と薬味がセットになって提供され、少しずつお茶碗によそって4通りの食べ方を楽しむことが出来るのが特徴です。食べ方としては

1.はじめにそのまま食べてうなぎを味わう

2.ネギなどの薬味乗せて食べる

3.出汁またはお茶をかけてお茶漬けにする

4.自分の好きな組み合わせやトッピングを追加して食べる

食べ方の流れや提供の仕方はあまり変わらないですが、うなぎの量や焼き方、タレの味、薬味の種類、出汁かお茶かなどはお店によって少しずつ違うため、それぞれの店舗において風味の違いやこだわりを味わえるのもひつまぶしのよさになります。

愛知県はうなぎの生産量が全国2位を誇る産地であり、西尾市の一色町を中心に豊橋市や高浜市が主要産地として養殖に力を入れています。天然のシラスウナギを半年から1年半かけて育てた愛知県のうなぎは新仔(しんこ)という若いうなぎが多く、良質な脂と身や皮が柔らかいのが特徴で、ブランド化しているものも多いです。そんなうなぎの養殖が県内で始まったのは明治27年からと言われており、ひつまぶしも同時期の明治中期頃に名古屋市内の割烹料亭で誕生しました。当初は割烹料理の最後にうな丼を提供していましたが、人気が高くなるにつれてうな丼の出前が増えたため破損防止のために木製のおひつに入れるようになり、手間を省くために大きなおひつに複数人分のうな丼をまとめて盛り付けて提供するようになりました。しかし、うなぎの配分が上手く出来ないという問題が発生したため、事前にうなぎを細かく切りごはんにまぶしてから提供すればバランスよく配分出来るのではないかというアイディアからひつまぶしが誕生しました。その後、食べ方の要望が増えたこともあり少しずつ提供の仕方が変わり、現在のスタイルが定着したとされています。

この他にも発祥としては、名古屋市でメニューとして提供するよりも前に三重県の津市で型崩れしたうなぎの蒲焼や不揃いのうなぎをもったいないという理由からひつまぶしのような形をとって食べられていたという話もありますが、始まった時期や場所、メニューとして提供していなかったなどの理由から愛知県発祥説の方が有力とされています。2005年に開催された万博とともにひつまぶしにも注目が集まったことで認知度が上がり、今では愛知県以外のうなぎ店でもひつまぶしを食べられる店舗が増えました。近年は、溶き卵やとろろなどをトッピングして独自のスタイルで食べる方法も増えており、さらなる進化を遂げているため、うなぎそのものの美味しさを味わいながら自分好みのひつまぶしの食べ方を見つけてみて下さい。

味噌料理

愛知県は八丁味噌や名古屋味噌とも呼ばれている「豆みそ」が特産品となっているため、豆みそを使った料理が多く、郷土料理にも広く使われ古くから親しまれています。味噌を使った郷土料理には、味噌煮込みうどんや土手煮、味噌田楽、味噌カツ、味噌おでん、五平餅などがありますが、他にもまぜそばやラーメン、ハヤシライスといった中華料理や洋食など郷土料理以外にもジャンル問わず味噌が使われており、さらにはソフトクリームやかき氷、焼き菓子などのスイーツにも使うほど愛知県ではなくてはならない調味料として愛されています。

日本各地では米みそを中心にその土地柄に合ったさまざまな特徴を持つ味噌が作られていますが、豆みそは主に愛知県や岐阜県、三重県の東海三県で生産されており、原料に大豆、塩、水のみを使って作られています。大豆に麹をつけた豆麹を使い、他の味噌よりも熟成期間が1~3年と長いため、色が濃く濃厚な味わいや旨みなどを感じられるのが特徴です。赤みがかった焦げ茶色をしていることから豆みそを使った味噌料理はどれも濃い茶色をしており、色の濃さから塩辛そうに思いますが、豆みそ自体の塩分は控えめでどちらかといえば大豆の旨みがダイレクトに伝わるため塩辛いというよりもパンチのある味わいを感じられます。しかし、味噌の個性が強いこともあり、食べ慣れていない人からすると大豆の旨みやインパクトが強すぎて全体的に味が濃いという印象になることが多いようですが、食べ慣れてくると不思議とその魅力に取りつかれ、次第となくてはならない存在となってしまうのです。

豆みそは奈良時代よりも前から作られている日本最古の味噌ともいわれるほど歴史が古いため、愛知県で食べられている味噌料理が作られた時代もさまざまです。室町時代や江戸時代に誕生したものもあれば2000年代に入ってから作られたものもあり、非常に長い年月をかけて親しまれてきたからこそ現在でも多くの味噌料理が食べられています。なかでも砂糖やみりんを加えた甘めの味噌ダレが特徴の味噌カツやたくさんの具材が入ることで旨みが増す味噌煮込みうどんは味噌料理の中でも食べやすく、食べ慣れていない方や観光客にも人気が高いです。反対に土手煮という豆みそを使ったもつ煮やしっかり味噌の味が染み込んだ味噌おでんなどはコクや濃厚さがお酒とよく合うため、居酒屋などの飲食店では人気の定番料理となっています。また、日本のお酒だけでなくワインとの相性も非常によいため抵抗がない方やお酒好きの方にはしっかり味つけがしてある味噌料理もおすすめです。はじめはインパクトが強いかもしれないですが、豆みそだからこそ生まれるコクや旨みを味わって愛知県で親しまれている味噌料理の魅力を体感してみて下さい。

いなりずし

甘辛く煮つけた油揚げの中に酢飯を詰めた“いなりずし”は、子供から大人まで幅広い世代に食べられており、全国のスーパーやコンビニといった身近な場所で季節問わず手軽に購入することが出来ます。私たち日本人からすると非常に馴染み深い食べ物ですが、いなりずしは愛知県で誕生した郷土料理と言われているのをご存じですか?江戸時代後期に稲荷という五穀を司る神様にお供えしてあった油揚げの中にごはんを詰めて寿司にしたことが起源と言われており、諸説ある発祥地の中には日本三大稲荷に含まれる「豊川稲荷(妙厳寺)」が位置する豊川市門前町が含まれ有力とされています。現在は全国で広く食べられているため地域によって味や形といった特徴が変わり、東に行くほど俵型をした濃い味つけが増え、西に行くほど三角形味をしたうすめの味つけとなっています。さまざまな種類があるいなりずしですが、古くから食べられていた豊川市ではスタンダードないなりずしの他、味噌カツやうなぎ、天むすといった名古屋飯を代表する具材が上に乗っているものから山菜・小豆・五目などを混ぜ込んでいるものなども多く販売されており、見た目も味わいも個性豊かないなりずしが豊富に作られているのが特徴です。

いなりずし発祥の地とも言われている豊川稲荷の周辺には、いなりずしを販売しているお店がたくさんあり、食べ歩きやお土産として購入する方も多く観光スポットとしても人気が高いです。そんな豊川稲荷周辺や名古屋などではいなりずしのことを別名で「あぶらげずし」とも呼んでおり、油揚げに酢飯をいっぱいに詰めて底が閉じないようにしているのも特徴となっています。また、巻きずしとセットで販売している「助六寿司」は歌舞伎十八番の1つ「助六所縁江戸桜」の主人公の名前から名づけられたと言われており、名古屋が発祥地とも言われています。昔から、豊川稲荷に参拝する人に振舞われてきたこともあり、高級寿司としてではなくあくまで庶民的なお寿司として親しまれてきたため、全国で食べられるようになった今でも地元では変わらず愛され続けられ、豊川市を盛り上げるための要素として地域ブランドにも登録されています。伝統的な作り方を守りつつも進化系のいなりずしがたくさん考案され、近年ではクリームチーズやマリネを使った洋風のいなりずしやクリームやフルーツを使ったスイーツ系、肉巻きや焼いた油揚げを使った創作系など進化系のいなりずしも増え続けており、いなりずしの変化は止まることがありません。普段食べ慣れているものだからこそ、豊川市をはじめとする愛知県でしか食べられない古きよきいなりずしや新しい形のいなりずしを見つけてみてはいかがでしょうか。

あんかけスパゲッティ

ミートソースやカルボナーラ、ペペロンチーノといった定番の種類から和風、創作系なども含めると数えきれないほどのメニューがあるスパゲッティですが、愛知県にはさらに個性豊かなスパゲッティーがあります。それが“あんかけスパゲッティ”です。極太のスパゲッティを玉ねぎやピーマン、マッシュルーム、ベーコンなどの具材と一緒に炒め、コショウが効いたトマトベースのソースをかけた料理になります。濃いめに味付けをしたスパイシーなソースは名前の通り、あんかけのような粘性の高いソースになっているのが大きな特徴で、具材と一緒に炒める過程はナポリタンにも似ていますが後がけしたソースを自分で絡めて食べる点が異なっています。また、ソースがトマトベースになっているのはミートソースやデミグラスソースを改良して作られたためと言われており、スパイシーさの中にある野菜・肉の旨みや奥深さを感じられる濃厚な味わいとなっているのも特徴です。あんかけスパやあんかけパスタとも呼ばれ、何度も食べたくなるような不思議な美味しさから県内には専門店があるほど親しまれているご当地グルメとなっています。

あんかけスパゲッティは1960年代に愛知県名古屋市で誕生しました。まだ、イタリア料理が現在のように根付いていない頃、当時市内のホテルに勤務していたシェフがどうしたら日本でイタリア料理の美味しさが広まるのかを考え、試行錯誤を繰り返した結果に生まれたのがあんかけスパゲッティでした。日本人に馴染みのあるうどんに寄せるためスパゲッティの中でも2.2mmという極太の麺を作ったことでもちもち感を生み出し、イタリア料理の定番であるミートソースと旨みの強いデミグラスソースを日本人が食べやすいようにアレンジしたオリジナルソースを作り上げるまでには2年の月日をかけたと言われています。はじめこそ受け入れられなかったものの、徐々に美味しさや話題が広まり、2005年に開催された万博をきっかけに全国まで知名度が広がりました。名古屋市を中心に根付いたあんかけスパゲッティは現在、メニュー数も増え、エビフライやハンバーグ、卵などをトッピングすることも出来ます。粘性のあるソースとトッピングの豊富さなどにより予想以上にボリューミーでコショウの効いたパンチある味わいは特に男性に人気があり、地元ではジャンクフードという扱いでも愛されています。県内では専門店や喫茶店で食べることが出来、さらには岐阜県や三重県の一部でも食べられるお店があることから、知名度とともにその魅力は日に日に全国まで広がっていることでしょう。コーミやオリエンタル、寿がきやといった名古屋の有名な食品会社からはレトルトソースなども販売しているため、愛知県に訪れた際には個性豊かなあんかけスパゲッティにもぜひ注目してみて下さい。

小倉トースト

喫茶店が多くモーニングという文化が根付いている愛知県では“小倉トースト”の人気が高く、名古屋市を中心に東海地方の多くの喫茶店で扱われている人気メニューとなっています。トーストに塗ってあるバターやマーガリンの塩気と小倉あんの優しい甘さがお互いのよさを引き立たせ、絶妙な美味しさを味わうことが出来るのが特徴です。今や全国展開するほどの人気店となった名古屋市発祥のコメダ珈琲によって、朝の限られた時間にコーヒーを頼むとトーストなどが無料でついてくる「モーニング」の文化が認知されたことと同時に小倉トーストの認知度も高まり、その美味しさや魅力も一気に日本全域に広がりました。小倉トーストの提供の仕方は大きく分けると3つあり、トーストとは別添えで小倉あんが提供されるもの、はじめからトーストの上にトッピングされているもの、サンドイッチのように挟まれてくるものに分かれます。別添えやトッピングの場合、お店によってバターやマーガリンが塗られて出てくるか自分で塗る、または小倉あんの上に乗ってくるかなどの違いがあり、バターやマーガリンの塗るタイミングによっても食べた時の風味や食感の違いに繋がります。多くの喫茶店では別添えかトッピングの2パターンで提供されることが多いですが、実際にはパンに挟まれたタイプが名古屋でのオーソドックスな形となっており、老舗の喫茶店では今でも小倉あんが挟まれた昔ながらの小倉トーストを味わえるお店が多いです。

小倉トーストは大正時代に市内で営業をしていた喫茶店で、馴染みの少なかったバタートーストを扱うようになったところ、学生たちがぜんざいに浸して食べているのを見かけたのがきっかけとなって誕生しました。そもそもなぜ愛知県には喫茶店が多いのかというと、江戸時代や徳川家の影響で庶民の間でも「茶の湯」が広まり、古くからお茶を楽しむ文化が身近にあり、それに加えて昭和の時代において名古屋市周辺は都市部の中でも比較的土地代が安く、個人でもお店を出しやすかったことが喫茶店の多い理由となっています。当時はバタートースト自体が珍しかったですが日本人に馴染みのある小豆との相性がよかったこともあり、次第に県内の喫茶店で扱う店舗が増えていきました。小倉トーストにはかかせない小倉あんは、つぶあんやこしあんとは違うものであり、小豆を潰さないように煮て作るのがつぶあん、つぶあんを裏ごしして砂糖を加えたものがこしあんであるのに対して、大納言などの大粒の小豆を密で甘く煮てこしあんと混ぜ合わせたものが小倉あんになります。そのため、この小倉あんの作り方によっても味わいが変わり、滑らかなものや粒感を感じられるもの、甘さが控えめなものなど店舗によって多種多様の小倉あんが楽しめるのです。また、近年では人気の高さからアレンジした小倉トーストも多く、つぶあんやこしあんを使う場合や、アイス・生クリームが添えられているもの、きな粉を混ぜたバターを使っているもの、バターではなくマスカルポーネチーズを使っているものなど、定番の小倉トーストとはまた違った美味しさを楽しめるメニューの人気も高くなっています。他にもパンの厚みや焼き加減など店舗ごとにこだわりのポイントがあり、県内外問わず食べられる機会が増えたからこそ、発祥の名古屋市を中心に老舗のお店から新しいお店までさまざまな小倉トーストを食べ比べてみて欲しいです。