神奈川県の歴史ある特産物と郷土料理

鶴岡八幡宮や横浜赤レンガ倉庫、中華街、箱根温泉など人気スポットも多い神奈川県には、横浜家系ラーメンをはじめサンマーメンやニュータンタンメンといった個性的なご当地ラーメンが多くありますが、もちろん神奈川県で作られた特産物や古くから伝わる郷土料理も数多くあります。今回は、流行や最先端だけでなく自然や歴史文化も多く残る神奈川県ならではの特産物や郷土料理に注目して紹介していきます。

湘南ゴールド

ここ近年ではお土産やスイーツなどを中心に“湘南ゴールド”という名前を聞く機会が増えています。湘南ゴールドとは神奈川県が品種改良し開発した柑橘類で、かながわブランドにも選ばれているオレンジの1種になります。オレンジやみかんと言えば鮮やかなオレンジ色をしていますが、湘南ゴールドの見た目はレモンのような明るい黄色をしており、爽やかな香りが強いのが特徴です。また、大きさは普通のみかんより小さめで酸味を感じますが糖度が高いため甘く、柔らかいのも特徴になります。旬の3月下旬から5月にかけて出荷されますが、基本的には神奈川県内でのみで生産しているため生産量が非常に少なく、他の柑橘類に比べると生産期間も短いため他県では生の湘南ゴールドを見かける機会はほとんどありません。

湘南ゴールドは2003年に品種登録された新種であり、ほとんど市場に出回ることがない幻のオレンジ「ゴールデンオレンジ(黄金柑)」と「今村温州」という温州みかんを掛け合わせて作られました。ゴールデンオレンジは生産量が少なく、ぼこぼこした見た目や小さすぎることから食べにくいといった難点がありましたが、強い香りと甘みが口いっぱいに広がるため忘れられないほど美味しいと評判で、華やかにも感じられる香りはまるで香水のようと例えられるほどでした。そのため、生産量や食べやすさを改善するために温州みかんと掛け合わせて開発されたのが湘南ゴールドになりますが、開発するまでには12年もの歳月がかかったと言われています。とはいえ、一般的な品種などに比べると湘南ゴールドも出荷量は多いとは言えないため、1年を通して楽しんでもらえるよう果汁や果肉を使った加工品が多く販売されているのです。ジュースやお菓子、お酒などさまざまな種類が販売されていますが、どれも今までの柑橘類を使った加工品とは比べ物にならないほど香りが高く爽やかな味わいも感じると好評で年々注目度が上がってきています。特にゼリーは果汁や果肉をそのまま使っているものも多く、より湘南ゴールドの風味をダイレクトに感じられるためおすすめです。加工品でも十分に楽しめますが手に取る機会が増えているからこそ、希少価値の高い生の湘南ゴールドを見かけた際にはぜひ手に取ってみて下さい。柑橘類が苦手な方でも食べられる、皮まで余すことなく使いたいという声も多く今までの概念を変えられる品種です。

小田原かまぼこ

おつまみとしてそのまま食べても料理の具材やアレンジをしておかずとしても食べられる“かまぼこ”は魚肉のすり身を加工した練り製品になります。蒸し・焼き・揚げなど製法や形による違いから全国にはさまざまな種類があり、ちくわなども全てかまぼこに含まれますが、中でも木の板にすり身を半円状に盛り付け蒸しあげる板付きかまぼこが一般的で、この板付きかまぼこが小田原市では特産品となっています。“小田原かまぼこ”とも呼ばれており、表面のつやがよくしなやかな食感と弾力を感じられ、他のかまぼこに比べるとみりんなどの甘みを強く感じられるのが特徴です。主原料にはスケトウダラが使われることが多いですが、小田原かまぼこは沖ギスやグチと呼ばれる魚を使っており、さらにすり身にする前に何度も水にさらして不純物などを取り除く、すり身にしたものを裏ごしするなどの手間をかけているため、きめが細かく滑らかになることで特徴的な食感が生まれます。

昔から相模湾が近かった小田原は、魚がよく獲れるだけでなく箱根から流れるミネラル豊富な水源が手に入ったことや東海道の宿場町として多くの人が行きかう場所であったことから作られるようになりました。盛んに作られるようになり名物として広まったのは江戸時代後期ですが、かまぼこ自体の歴史は非常に古く、平安時代にはちくわのような形をしたかまぼこが存在していたと言われています。小田原でも室町時代にはすでにかまぼこが作られていたと言われており、新鮮な魚の保存方法として作られるようになりました。保存性のよい小田原かまぼこは食膳として出された宿泊客に評判となり、さらには参勤交代で近隣を通る大名たちにも賞賛されたことで全国まで認知されるようになりました。現在も伝統製法を守りながら作られるかまぼこはいくつもあり、食感・味と一緒に見た目の美しさも魅力となっています。各店舗では小田原かまぼこ以外にもちくわや伊達巻、焼き蒲鉾などバリエーションも豊富に取り揃えていることが多いですが、中には季節をモチーフにした和菓子のようなかまぼこや切ると絵柄が出てくるかまぼこ、季節の素材を練り込んだもの、さらには表面に彫りを入れて細かい模様を表現しているものなど、職人技が光る見たことのない美しいかまぼこもいくつかあるため、小田原かまぼこと一緒にぜひ注目してみて下さい。

三崎マグロ(三崎まぐろ)

日本にはマグロ好きという方が非常に多く、世界で漁獲されるマグロの約5分の1が日本で消費されているほどです。マグロの産地は日本全国にあり、場所によって養殖と遠洋漁業が盛んな場所に分かれますが、神奈川県内にある三崎港は遠洋漁業が盛んに行われ、その水揚げ量は国内でもトップクラスとなっています。また、三崎港には質のよいさまざまな種類のマグロが全国だけでなく世界から集まるのが特徴となっており、新鮮なうちに冷凍されたメバチマグロを主にクロマグロやミナミマグロなど質のよい多種類のマグロが毎日400~1000本も取引されているのです。この三崎港で水揚げされるマグロを総称して“三崎マグロ”と呼びます。

三浦港は神奈川県の三浦半島沖に位置する場所に大正11年に開設され、地形が漁港に適していたことや首都圏が近く魚の卸値の高さから全国でも指折りの港となりました。三浦での漁業の歴史は古く室町時代から始まったとされており、江戸時代には江戸と各地の海運を盛んにしたことで江戸の繁栄にも大きく貢献したと言われています。日本で初めてセリが行われた場所でもある三崎港では、開港当初からマグロの取引が行われていましたが、昭和30年代までは生の状態で取引されていました。しかし、その後冷凍庫を完備した船が開発されるとマグロを冷凍保存出来るようになったことにより、より美味しい旬のマグロを追い求めて世界まで足を延ばし、遠洋漁業が盛んになっていったのです。早いうちから遠洋漁業の拠点となっていたことや冷凍保存を取り入れ新鮮なマグロが取引出来ることから昭和初期にはすでにマグロの水揚げで有名な港として全国に知れ渡っていきました。こういった背景があったからこそ三崎港を中心に三浦市内には新鮮でおいしいマグロを使った料理が食べられるお店が多数存在しているのです。

市内のお店では、刺身やお寿司、海鮮丼など生のマグロを使った料理を中心にマグロのから揚げや焼き物、煮物、あら汁、マグロを使ったカレー、さらにはマグロのアイスなど定番のものから珍しいものまでバリエーション豊かなマグロ料理が食べられます。また、目玉やホホ肉に加えて内臓、眼肉、のどの身、ハチの身など他ではあまり見かけない部位を提供しているお店も多く、珍しい部位や希少部位など余すことなく食べられるのも古くからマグロを食べてきた土地ならではと言えるでしょう。三崎マグロは現在取引時にはほとんどが冷凍で取引されていますが、徹底された温度管理と解凍方法、経験を積んだ目利きによって生よりも鮮度がよいマグロを食べることが出来るため、三浦市がある神奈川県の南東部に訪れる際やマグロ好きの方は三崎港で獲れる新鮮なマグロも味わってみて下さいね。

けんちん汁

家庭料理でも汁物の1つとして食べられる“けんちん汁”ですが、実は神奈川県が発祥ということをご存じですか?大根やにんじん、ゴボウなどの野菜やこんにゃくをごま油で炒めてからダシ汁を入れて煮込み、醤油で味付けをした澄まし汁になります。日本各地で食べられていますが発祥地である神奈川県では郷土料理の1つでもあり、火が通った後、木綿豆腐を手で崩しながら入れるのが本来の作り方になりますが、使う具材や豆腐の種類、豆腐を入れるタイミングなどは家庭によって少しずつ違っています。

けんちん汁の発祥には諸説あると言われており、中国の精進料理の1つが語源とも言われていますが、鎌倉にある建長寺で作られていた「建長汁」がなまって「けんちん汁」になったという説が有力です。建長寺は鎌倉時代に建てられたお寺であることから700年以上も前から食べられており、修行僧が作る精進料理だったため修行に訪れた僧侶が各地に出向いたことで全国にけんちん汁が広まったとされています。そのため、具材には肉や魚を使わず、ダシも鰹節や煮干しではなく昆布や椎茸など動物性ではないものからとるのが正しいとされています。野菜を使い醤油味にしてあるものがけんちん汁と呼ばれ、味噌味のものは味噌けんちん、または国清汁(こくしょうじる)になり、さらにここに豚肉が入ると豚汁となります。味付けや具材など少しの違いで別物の料理となりますが、現在はアレンジ方法がいくつもあるためそれぞれの違いや特徴が分かりにくくなってきています。また、各地に広がった後、地域の特性などを加えて新たな郷土料理として根付いているものや、決まった期間に食べる習慣になった地域など地域差がみられるのもおもしろいポイントです。根菜を使う温かい料理と言うことから冬に食べることが多いですが、各季節の野菜を使っても美味しく食べられるため、お気に入りの食材やレシピで作ってみて下さい。

シューマイ

“シューマイ”は豚や鶏などのひき肉と野菜を混ぜ合わせたタネを小麦粉で出来た皮で包み蒸した料理です。中華料理の一種類であるため神奈川県で生まれた郷土料理とは少し違いますが、神奈川県はシューマイの消費額は日本一であり、市町村まで見たとしても1位が横浜市、続く2位も川崎市となっています。年間の平均支出額は全国平均と比べると横浜市が2倍以上、川崎市も2倍弱と非常に多く、郷土料理と言ってもいいほど古くから親しまれているのです。横浜市には中華街があり本場の中華料理店から日本人シェフが経営する店舗までシューマイが食べられるお店が非常に多いことと、横浜名物として有名な崎陽軒が身近にあることが大きく影響しています。

横浜中華街は1859年に横浜港が開港されたことをきっかけに多くの外国人が商人や貿易商として入国し、その際に欧米人の通訳として呼ばれた中国人が増え発展していったことで中華街が出来たとされています。そのため、横浜には古くから中華料理が身近に存在していました。そして、その中華街で突き出しとして出されていたシューマイを横浜の名物にしようと注目したのが、当時は駅の売店として営業していた崎陽軒だったのです。昭和初期に冷めても美味しい「シウマイ」を開発し駅で販売すると、駅の利用客が横浜名物やお土産として購入するようになり全国に広まりました。これによって横浜の名物としてシューマイが定着し、地元の方はもちろんのこと、神奈川県を訪れる観光客にも親しまれる料理となっていきました。現在、横浜市では中華街を中心にシューマイが食べられるお店が数多く存在しており、大きさや見た目、味など特徴の違うシューマイがたくさんあります。崎陽軒をはじめ、お土産として持ち帰ることが出来るものも多いためお気に入りのシューマイを見つけてみて下さい。

牛鍋

神奈川県横浜市発祥の郷土料理には“牛鍋”と呼ばれる料理があります。鉄鍋に醤油や味噌、砂糖などを使ったタレ(割り下)を入れ、牛肉・野菜・豆腐などの具材を入れて煮るのが牛鍋です。これだけを聞くとすき焼きではないかと思う方もいると思いますが、すき焼きは牛脂を引いた鉄鍋で牛肉を焼いてから野菜を一緒に煮込み、牛鍋は焼く工程はなく始めから鍋のようにタレで煮込むという違いがあります。というのも、すき焼きは牛鍋がルーツの料理であり、東京都内にも昔は牛鍋屋しかなかったのです。遅れて関西に牛鍋が伝わると、初めに牛肉を焼く工程が加わり、割り下ではなく砂糖と醤油で味付けをする調理法に変わります。もともと関西では農具の鋤を使って魚を焼く「鋤焼(すきやき)」という料理が存在しており、調理法が似ていたことや牛肉の方が主流となったことで牛肉鍋のことをすき焼きと呼ぶようになりました。この関西風すき焼きに変わった牛鍋が関東に再度入ってきたことで、本来の牛鍋と関西風すき焼きの両方の特徴を持った調理法が生まれ、現在の関東風すき焼きとして浸透し広まっていったのです。

江戸時代末期(1859年)に横浜港が開港したことでさまざまな外国文化が入ってくるようになり、それまでは一般的に食べられてこなかった牛肉や食パン、牛乳などの食品も多く出回るようになりました。そのため、日本で一番早くに肉食文化が広まったのも横浜を中心とした神奈川県であったとされています。横浜港の近くには外国人が多く住むようになり、そこで食べられていた牛肉料理をもとに開発されたのが牛肉鍋でした。初めは食べ慣れない牛肉に嫌悪する人も多かったそうですが、日本人好みの味つけをしたことで注目を浴び、一気に庶民の味として人気が広まりました。明治に入るにつれて県内や東京都内に店舗が増え、一番多い時には都内に550軒の牛鍋屋があったとされています。現在も横浜や都内には明治から続く老舗が牛鍋屋として残っており、すき焼きとは全く違った美味しさを味わうことが出来ます。他にも場所によっては居酒屋や牛肉専門店などで牛鍋を取り扱っているお店があるため、すき焼きとは一味違った風味や食感を楽しんでみてはいかがでしょうか。