みなさんは鯛そうめんという料理を知っていますか?料理名からなんとなく鯛とそうめんを使った料理だと想像することは出来るかと思いますが、実際はどのような料理でどこで食べられるものなのでしょう。ゆかりのある地域では馴染み深い料理ですが、馴染みのない地域に住んでいる人からしてみたら謎につつまれた料理の「鯛そうめん」について紹介していきます。
鯛そうめんとは
鯛そうめんとは鯛をまるごと一匹使った見た目も豪華な麺料理であり、“鯛・そうめん”どちらも縁起物とされていることから結婚式や年祝い、誕生日などのお祝いの際に食べられる伝統料理になります。瀬戸内海周辺の地域を中心に食べられることが多いため、愛媛・香川・岡山・大分・熊本・志賀・兵庫など多数の県では郷土料理としても馴染み深い料理でもあります。どの地域でも鯛・そうめんを使いお祝いの際に食べられるということは変わりませんが、調理法や味付け、使う食材、盛り付け方、呼び方などが少しずつ違い、郷土料理ならではの地域による違いや特徴があらわれているところが大きなポイントとなっています。
各県の鯛そうめん
愛媛県の特徴
愛媛県では波のような形に盛り付けたそうめんと調味料で甘辛く煮付けた鯛を使うのが特徴です。県内全域で食べられますが、南予地方では干ししいたけ・錦糸卵、小口ネギなどの薬味と一緒に食べるのが主流であり、松山市周辺では一般的な白いそうめんと一緒に色とりどりな五色そうめんを使うことが多くなります。呼び方も南予は「鯛のめんかけ」、松山は「鯛めん」と呼ばれ県内でも地域によって違いがありますが、他の県に比べると色彩豊かで華やかな印象が強いです。
結婚式以外にも喜寿・還暦・お食い初めといった家族や親族のお祝いの席でごちそうとして食べられ、飲食店・仕出し屋以外にも家庭で作られることもあります。また、宇和島では鯛そうめんと一緒に“ふくめん”と呼ばれる細切りのこんにゃくに紅白そぼろやみかんの皮といったカラフルなトッピングをこんにゃくが見えなくなるほど盛り付けた郷土料理を上座に2皿並べる風習もあります。愛媛ではそうめんを天の川と見たてて、幸せが細く長く続くという意味から縁起物として食べる風習が室町時代から続いており、鯛を加えることでより特別な料理として愛されている料理となっています。
香川県の特徴
香川県では塩でしめた鯛を調味料と一緒に大鍋で煮込み、鯛・ゆでたそうめん・刻みネギを大皿に盛り付けます。そうめんはゆでた後、鯛の煮汁で温めてから盛り付けることが多いため茶色い見た目をしており、地域差はあるものの薬味も刻みネギのみを使うことからその見た目はとてもシンプルでダイナミックな印象があります。浜焼きが盛んな地域では煮付けた鯛ではなく焼いた鯛を盛り付けるところもあり、新家の棟上げ式や船の進水式といったお祝い事にも振舞われてきたとされています。
香川県では「鯛麺」と呼ばれており県内全域で食べられますが、現在、鯛一匹を使った鯛そうめんを家庭で作られることはほとんどなく、一部のホテルや飲食店など限られた場所でのみの提供となっているようです。ただし、鯛の切り身を使った手軽に食べられる鯛そうめんは販売され食べることが出来ます。
広島県の特徴
広島県では県内全域ではなく、尾道市や廿日市市などの瀬戸内海沿岸の地域で食べられています。大皿にゆでたそうめんを波型に盛り付け、その上に薄め味に煮付けた鯛を一匹乗せています。甘辛く煮たしいたけや錦糸卵以外に木の芽やキュウリを添えるのが大きな特徴であり、場合によっては松の小枝を飾ることもあります。食べる際には小皿に取り分け、鯛を煮付けた汁をかけ汁として使い薬味は入れないで食べるのが一般的です。また、福山市では酒蒸し風に調理されている白っぽい見た目の鯛そうめんを提供しているお店もあり、あっさりした出汁が効いた鯛やしいたけやいりこから作ったつゆにそうめんをつけて食べるスタイルは全く違った料理にも感じさせます。
祝いの席では“鯛めん”、家庭で食べる場合には“鯛そうめん”と地域ではなく食べる時の環境によって呼び方が変わるのも広島ならではの特徴です。結婚式・棟上げ・船おろし・家族や親族のお祝いの際に振舞われる以外にはお盆や厳島神社の管絃祭といった行事にも食べられており、鯛めんを食べる機会が多いことから地元の小料理屋や居酒屋など鯛めんを食べられる飲食店も多めです。
日常的に家庭で食べる際には、鯛ではなくメバル・クロダイ・オコゼ・イサキといった小魚を使うことも多く、他の県に比べると今でも身近な存在にある郷土料理となっています。
兵庫県の特徴
兵庫県は他の県に比べると鯛の調理の仕方が違うのが特徴です。赤穂市では塩焼きした鯛を出汁で煮付け硬めにゆでたそうめんを一緒に盛り付けています。南あわじ市では片栗粉をまぶして揚げた鯛をカツオの出汁で煮たもの、または、唐揚げにした後に蒸して油抜きをした鯛を使ってそうめんと一緒に盛り付けています。そのため、全体的に白っぽい見た目をした鯛そうめんが多く、錦糸卵や薬味などの色がよく映える印象が強いです。出汁を使って煮ているため鯛の旨みも感じやすく、一味違った美味しさを味わうことが出来る鯛そうめんとなっています。
熊本県の特徴
熊本県も県内全域ではなく、甘草地域や上益城地域など一部の地域で食べられている郷土料理です。特に甘草地域では鯛を刺身にした後のアラ(頭や中骨など)をアラ炊きにして、鯛の旨みがたっぷり詰まった煮汁をかけて食べるのが主流となっています。また、鯛の煮付けには砂糖を使わない傾向があるのも特徴です。
近年は結婚式で鯛をまるごと一匹使った鯛そうめんが出てくることは少なくなっていますが、アラ炊きで作る甘草の鯛そうめんに関しては、地域の集まりや行事では現在も作ることが多いです。全国の中でも熊本県では真鯛が豊富にとれ、消費量も全国上位であることから、真鯛の旬である春・秋、クロダイが旬の夏といった旬の時期には居酒屋を中心に飲食店でもメニューとして食べられることが多くなります。そうめんは波型よりも一口サイズほどに丸めた形状で盛り付けられているものも多く、見た目の印象も他の県との違いに繋がりやすいです。
鯛そうめんが食べられるお店
郷土料理 五志喜 愛媛県松山市
すし丸 本店 愛媛県松山市
甘草地魚料理 いけすやまもと 熊本県天草市
あわぢ 阿呍 兵庫県あわじ市
千とせ 広島県福島市
割烹かどや 岡山県岡山市
このように鯛そうめんと一言で言ってもさまざまな地域差があり、今回紹介した県以外にも岡山県では真鯛の頭部を使った兜煮を盛り付ける、大分県ではそうめんではなくうどんを使う、滋賀県では鯛のみをむしって食べることから“ムシリ”呼ばれているといった違いのある鯛そうめんを郷土料理として古くから各地で食べられてきました。使われる鯛の種類も真鯛だけでなく、地域によってはクロダイ・もみじ鯛・桜鯛といった種類を使うことがあります。
基本的にはお祝いの際に食べられる縁起物であることや、地域によっては出される機会が減っていることなどにより飲食店で手軽に食べられる料理ではありませんが、比較的、愛媛・広島・熊本では日本料理屋や居酒屋を中心に食べられるお店はいくつかあります。他の県や東京では郷土料理を提供しているお店や寿司屋で食べられることもあるため、旅行などで鯛そうめんのゆかりの地に訪れた際にはぜひ鯛そうめんを食べてみて下さい。