千葉県の個性あふれる特産物・特産品

関東地方の南東部に位置する千葉県は三方を海に囲まれた県であるため漁業が盛んで、全国でも有数の漁獲量であるスズキ類や外房イセエビなどを中心にさまざまな海産物が漁獲されています。また、県内は冬は暖かく夏は涼しい穏やかな気候であるため農業も盛んであり、落花生や枝豆、マッシュルーム、日本なしなど、千葉県の野菜や果物は全国でも上位に位置付けるほどの生産力があります。主要な生産県として認知されている千葉県ですが、特産物や郷土料理、ご当地グルメにはどのようなものがあるのでしょうか。今回は千葉県の中でも個性あふれる特産物や特産品、郷土料理のついて紹介していきます。

落花生/ピーナッツ

千葉県の代表的な特産物といえば“落花生”です。国内産の約8割の落花生が千葉県で生産されており、現在県内では焙煎に適した3種類とゆでに適した2種類の5種類を中心に栽培しています。食べ方の方法以外にも、粒の大きさや甘みの強さ、風味などそれぞれの品種に特徴がありますが、中でも「おおまさり」というゆでに適した品種は、収穫量が多いうえに今までの品種よりも粒が大きく甘みがあるのが特徴であるため、非常に人気があります。落花生という名前は花が咲き落ちた後、地中で実を生む成長過程の様子から名付けられました。また、本来は落花生もピーナッツも同じものであり、日本語か英語かの違いになりますが、日本では殻付のものを落花生、殻がなく渋皮のついた実だけのものを南京豆、殻も渋皮もない状態のものをピーナッツと呼び分けています。

落花生は県内でも八街市(やちまた)を中心とした北部での生産が盛んになります。この地域は富士山や箱根山などの火山灰が降り積もった火山灰地であるため、土が柔らかく水はけもよいことから落花生を栽培するのに適した環境でした。千葉県では明治初期から落花生の栽培に取り組み、現在の山武市や旭市でも栽培されていましたが、土地の悪条件や当時の品種が干ばつの影響を受けやすかったこともあり衰退していきました。反対に八街市周辺では、栽培に適した環境に加えて安定した栽培をしやすい新しい品種が入ってきたことも重なり少しずつ栽培面積を広げていきます。さらに、昭和に入ると優良品種を開発するために在来種の改良を始め、良質な品種の数を増やしていったことで生産量やニーズが増え、産地として根付いていったのです。こうした努力もあり八街市で生産される落花生は質が高く美味しいと評判であり、落花生の地域ブランドとしても指定されています。品種改良は年月をかけてさらに続けられており、近年では2018年に「Qなっつ」と呼ばれる新たな品種が開発されています。殻が白く強い甘みとカリっとした食感が特徴で口コミでも話題となっていますが、渋皮部分が薄いためむき実ではなく煎り豆で食べる品種でもあります。一見同じように見える落花生ですが、どの品種も特徴の違いや向き不向きがあり、味わいにも大きく影響するため、千葉県産の落花生を購入する際には品種にも注目してみて下さい。また、食べ比べ出来る商品や千葉県産の落花生を使った加工品もたくさん販売しているのでどちらもおすすめです。

ぬれ煎餅

煎餅は日本で古くから親しまれてきたお菓子の1つであり、焼き上げて作られるためパリッとした食感を味わうことが出来ますが、中には一般的な煎餅とは少し違った特徴を持つ種類があります。それが“ぬれ煎餅”です。スーパーやコンビニでも購入出来るほど身近なお菓子ではありますが、実は千葉県銚子市が発祥であるため銚子市を代表する特産品としてお土産などとして購入する方も多くいます。ぬれ煎餅は焼き上げた煎餅を熱いうちに醤油に漬け込みしっかり染み込ませることで、しっとりとした食感とじわーっと広がる醤油の風味を楽しめるのが大きな特徴です。醤油味が定番で、少し甘めに仕上げているものが多いですが、濃口や薄口といった醤油の濃さやソース・味噌味などのバリエーションも豊富にあります。

銚子市は米の名産地であるだけでなく、日本一の醤油の名産地でもあったことから昔から煎餅を作るお店が多い土地でした。1960年頃、市内で煎餅を作っていたお店で中までタレが染み込みすぎてしまった試作品をおまけとして配ったことがぬれ煎餅のはじまりとなっています。当初は、パリッとした食感が特徴の煎餅に比べると湿気ているように感じた人も多くいましたが、斬新な食感とその美味しさから口コミで広がり数年後には商品化して販売するようになるほど人気が高まったと言われています。また、かつて経営難に直面していた銚子電鉄を手助けする目的で、市内の煎餅屋がぬれせんべいの技術を伝え商品化したことで過去に2度も経営難から救ったことがあります。当時はまだぬれ煎餅が全国的にも珍しかったことや銚子電鉄が経営難を救うためにぬれ煎餅を買って下さいという文章を公式サイトに掲載した話題性などから注文が殺到し、銚子電鉄の経営を立て直すと同時にぬれ煎餅の知名度も全国的に広まりました。現在は、「銚子電鉄のぬれ煎餅」という商品名で千葉県を中心に都内の駅などでも購入することが出来るため、見かけた際にはチェックしてみて下さい。また、県内には昔ながらの煎餅屋が何軒もあるため、市販では味わえない美味しさや食感も味わってもらいたいです。

てんもんどう

千葉県の中央に近い場所に位置する東金市には“てんもんどう”と呼ばれる郷土料理があります。全国でもトップクラスの生産量を誇る千葉県では昔から野菜や果物が豊富に収穫されたため、それらを使い砂糖や蜜で煮て乾燥させた砂糖菓子がてんもんどうになります。ドライフルーツに近いですが、果物よりも野菜の割合が多く、ごぼう・にんじん・しょうが・れんこん・なす・ゆず・プチトマト・しいたけ・そら豆など、使われる野菜の種類はさまざまです。防腐剤を使わなくても10カ月ほどの長期間保存が可能であるため保存食としても使われてきました。

てんもんどうという名前は、クサキカズラというユリ科の塊茎を蜂蜜に漬けた漢方薬の「天門冬」から名付けられたと言われています。もともとはゆずや根しょうがを密で煮て乾燥させたものでしたが、年月の経過とともに使われる野菜の種類が増えたとされており、長期保存出来ることから大量に作り、おやつだけでなく農作業の合間のエネルギー補給としても食べられています。下処理した食材を砂糖で煮て乾燥させ、砂糖をまぶせば出来るため家庭でも簡単に作ることが出来ますが、シンプルであるがゆえに本格的なてんもんどうはさらに手間と時間をかけて作られることから、現在商品として販売しているものは少ないです。しかし、東金市では地元で収穫された野菜を使って手作りしたてんもんどうを銘菓として道の駅などで販売し、地元の歴史や文化を伝えています。他の特産品に比べると見かける機会は少ないですが、希少なてんもんどうに出会った際にはぜひ手に取ってみて下さい。野菜を使った砂糖菓子であるため、体によいおやつとして手作りするのもおすすめです。

なめろう/さんが焼き

千葉県の大部分を占める房総半島の沿岸部には古くから伝わる“なめろう”という郷土料理があります。漁師飯でもあるなめろうは、細かく刻んだアジにみじん切りをしたねぎ・しょうが・しそ・ミョウガなどを混ぜて粘りが出てくるまで包丁でたたいて仕上げる魚のたたき料理です。アジを使うことが多いですが、代わりにサンマやカツオ、イカなど他の魚を使う場合もあり、現在は千葉県に限らず全国の居酒屋などでも食べられることが増えています。醤油ではなく味噌を使って味つけするのも特徴ですが、これは漁師が新鮮な魚を荒波の船上でもすぐに調理出来るようこぼれにくい味噌を使ったためであり、お皿を舐め尽くしたいほど美味しいという意味からなめろうという名前がついたと言われています。また、お店では魚の食感を楽しめるように粗めにしているものが多いですが、細かくなるまでしっかりたたくと粘り気が強くなり、舐めるように食べないと取れないという意味や滑らかという意味からなめろうと呼ばれるようになったという説もあります。

同じく房総半島の郷土料理には“さんが焼き”というものがあります。さんが焼きは、なめろうを焼いたものの総称であり、アワビやホタテなどの貝殻になめろうを詰めて焼く、またはなめろうをハンバーグのように形を作りそのまま焼くなど何かしらの方法でなめろうに火を通した料理です。さんが焼きの発祥としては、日持ちしない余ったなめろうを持ち帰って焼いたことからや漁師が貝に詰めたなめろうを山仕事の際に持って行き山小屋で焼いて食べたことから、山に住む人達に食べさせるために貝に詰めて持って行ったことからなどいくつかの説がありますが、千葉の古い方言で山家のことを「さんが」と呼ぶことから、山や山小屋で食べたという説が強いです。火を通すことでアジの脂が染み出て旨みがギュッと凝縮されるため、なめろうとは全く違った美味しさを味わうことが出来ます。また、なめろうを作る際にはしっかりとたたいて粘りを出すことでふんわり柔らかい食感を楽しむことが出来るのもさんが焼きの特徴となっています。さらには、なめろうを油で揚げると“房総揚げ”、冷たいみそ汁に入れると“水なます”、ご飯に乗せて煎茶をかけると“孫茶(まごちゃ)”という別の料理としても食べられているため、房総半島を訪れた際にはなめろうと一緒に違った味わい方をして味や食感の違いを食べ比べるのもおもしろいですよ。

勝浦タンタンメン

“勝浦タンタンメン”とは勝浦市で圧倒的な人気のあるご当地ラーメンです。担担麺といえば、練りごまを使った芝麻醤(チーマージャン)とラー油から作られるスープに肉味噌が乗っているイメージが強いですが、勝浦タンタンメンは練りごまなどは使わず、醤油ベースのスープにたっぷりのラー油を使った激辛スープは見るからにも辛そうなインパクトのある真っ赤な色をしているのが特徴です。具材には炒めた玉ねぎや豚ひき肉を使うのが一般的ですが、ニラやニンニク、ねぎなどお店によって使う具材が変わり、モツやワンタンなどのトッピングが出来るところもあります。基本的にはどのお店も辛いのがベースとなっていますが、辛さが控えめなものやマイルドなものもあればむせるほどの辛さのもの、辛さの中にもダシの旨みを感じられるものなど辛さのレベルはお店によってさまざまです。また、辛さの調整が出来るお店やベースが醤油ではなく味噌で作っているお店などもあり、スープだけでお店の特徴が出るのも勝浦タンタンメンの魅力となっています。

勝浦タンタンメンは昭和29年に勝浦市に創業された大衆食堂で販売されたのがはじまりです。当初は、練りごまを使った担担麺を再現しようとしましたが、芝麻醤が手に入らず試行錯誤した結果、ラー油の強いラーメンが生まれました。しかし、漁業が盛んだった勝浦市には漁師や海女が多く働いており、冬場の冷えた体を温めるためには大好評だったことから市内でも勝浦タンタンメンを取り扱う飲食店が増えていきました。当時は、練りごまを使った担担麺は今のように馴染みがなかったこともあり、地元の人にとっては醤油ベースのスープにたっぷりのラー油が使われたラーメンがタンタンメンとして自然に定着していったそうです。勝浦市内では中華料理店以外にも焼肉店や喫茶店などでも提供していることが多く身近なグルメだということが分かります。さらに、コンビニやカップラーメンとして商品化したことやB級グルメフェスなどにも出店し優勝したことにより知名度が広がり、今や全国のラーメンファンにも親しまれています。ラーメン自体は辛いものの、基本的には醤油ベースでスープが作られているため意外とさっぱりとしており、辛さの後に感じられる具材の玉ねぎなどの旨みや甘みが病みつきになる人も多いです。ぜひ寒い日には勝浦タンタンメンを食べて体の芯から温まってみてはいかがでしょうか。