食品添加物と聞くと、できれば食べないほうが良い、無添加のほうが体に良いというようなメディアやSNSでの投稿を多く見かけます。しかし、食品添加物は日常的にも接種をしており、食品添加物とはなんでしょうか?と聞かれ正確に答えられる人は少ないと思います。今回は食品添加物について簡単に解説をします。
食品添加物とは?
食品添加物については⾷品衛⽣法にて下記のように定義されています。
食品の製造の過程において又は食品の加工もしくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物
つまり、食品の保存目的や見た目をよくすることを目的に添加する物質のことです。現在の食品衛生法では食品添加物は4つに分類されています。
指定添加物:国が指定した添加物
既存添加物:いわゆる天然添加物
天然香料:いわゆる天然添加物
一般飲食物添加物:いわゆる天然添加物
指定添加物
食品衛生法施行規則別表1に収載されており、食品衛生法第12条に基づき、厚生労働大臣が使用してよいと定めた食品添加物です。後ほど解説をしますが、指定添加物は内閣府の食品安全委員会がリスク評価を行い、安全性や使用可能な量などを評価した上で使用が可能になります。
例えば、保存期間を長くすることを目的に添加されるビタミンC(L-アスコルビン酸ナトリウム)、食品を膨らませること効果のある重曹(炭酸水素ナトリウム)などが代表例です。2024年3月時点では476種類が指定添加物として指定されています。指定添加物の多くが合成化学物質ですが、中には天然素材も含まれています。
既存添加物
化学合成品以外の添加物。そのうち、日本で広く使用されており、長い食経験があるものは、例外的に指定を受けることなく使用・販売等が認められています。
例えば、健康食材に含まれていたり、個別のサプリメントして売られているイメージの強い活性炭、酵素、鉄、銅、ヘム鉄も既存添加物に含まれます。
天然香料
天然香料は読んで字の如くで自然界の動植物から抽出される成分で、食品の香り漬け目的に使用される成分です。例えばレモン、ライムなどの柑橘系や、シソ、ローズマリーなどのハーブ系などがあります。
一般飲食物添加物
一般に食品として飲食されていて、保存や着色などの効果がることがある成分です。例えば昔理科の実験でpHによって色が変わる紫キャベツの色素が代表的で、ウコンやベリー系の果汁なども該当します。
このように食品添加物と一言でいっても大きく4種類あり、普段から口にしているものやサプリメントなどとして積極的に摂取しているものまで様々です。
食品添加物の見方
ここまでは法的な定義と少しだけ例をもとに解説をしてきました。具体的な例を見ると、そもそも何が食品添加物なのか?と少し難しくなってきます。そのような方のために、スーパーで売っている食品を見る際にどこを見れば食品添加物を使用しているかが分かるか解説をします。
スーパーでチルド品や冷凍食品、お菓子などを手に取ると、カロリーや製造者の名前が入っている欄を見る機会はないでしょうか?一般的には一括表示、裏面表記などと呼ばれています。そこを見ると原材料という表記があります。原材料はその商品を構成している材料の量が多いものから記載されていることが一般的で、最後のほうに【/】が入っていることがあります。この【/】以下に書かれている成分が食品添加物です。
例)
いちご、砂糖/ゲル化剤(ペクチン)、酸化防止剤(ビタミンC)
一括表示のスペースの関係性上、【/】を入れることが多いですが、改行して書いたり、線を1本書き別枠で記載することもあります。ほとんどの商品で【/】を採用しているしているため、どうしても無添加(食品添加物が使用されていないもの)を食べたい!という方はこの表記を確認すると良いでしょう。
しかし、キャリーオーバーという考え方があり、例えばドーナツを揚げる際に使用される油の中に含まれるシリコーン樹脂、シュークリームの原材料の中でごく少量使用されているマーガリンに含まれる乳化剤など、材料の材料に使用されている食品添加物については記載する必要がないというルールになっています。余談にはなりますが、無添加という表現が厳格化され、キャリーオーバーにより材料の材料に添加物が使用されている場合、添加物の表記は不要ですが、【無添加】という表記は使用できません。また、無添加と書かれていてい具体的に何が添加されていないのかが不明確であるため、甘味料 無添加というように無添加になっているものを明記することとなっています。
食品添加物の安全評価
さて、ここまで食品添加物についての定義やみ見方を解説してきました。ここでは最も気にある食品添加物が安全かどうか?ということについて解説をします。
結論から言うと、現在使用が許可されている食品添加物については安全であることが科学的に証明されています。冒頭でも少し説明しましたが、内閣府の食品安全委員会によりリスク評価が行われ、最終的に厚生労働大臣の許可をもって使用が承認されます。ここでポイントとなることは【科学的に安全が証明されている】ということでしょう。
では、科学的な安全性が証明されているとはどういうことか?少し詳しくみていきましょう。食品添加物について、内閣府の食品安全委員会によるリスク評価と呼ばれる試験が行われます。試験科目は下記のとおりです。
化学物質の同定
実験動物を用いた毒性試験
ADIの設定
使用基準の設定
まず、化学物質の同定という作業がおこなれます。試験を行う科学物質がどういうものであるかを明確にする作業です。例えば、試験を行う対象の科学物質が未知のものでは、今後試験も正確にできないため、どの物質に対して試験を行うのかということを明らかにします。
化学物質の同定が終わると、次に動物を使用した試験を行います。ラットと呼ばれる野生のドブネズミを改良して作られたネズミを使用します。ラットを50匹用意い、10匹ずつのグループに分けます。そして最初のグループは何も与えず、次のグループには対象の化学物質を1g、次のグループは2g・・・といようにグループごとに与える量を増やしながら観察をしていき、有害な影響が出ないかどうかを試験します(グループの数、匹数、与える量は例であり正確な数値ではない)。そしてそのラット単体に影響がすぐに出たかどうかではなく、その後も観察を続け、子どもに悪影響が出ていないか、発がん性物質として後々影響がでないか、継続的に化学物質を与えても影響が出ないかなど観察を続け、影響が出る量を明らかにしていきます。
それら試験を経て、一日接種許容量(ADI:Accetable Daily Intake)を求めていきます。このADIとは毎日摂取をしても健康に悪影響が出ない量です。計算式は、ADI=NOAEL×安全係数となります。
ラットによる試験で具体的な影響の出ない量を求め、そこにさらに安全係数を掛け算します。安全係数とは食費添加物だけでなく化学物質等の安全性をさらに高めるために用いられる係数で、NOAELという数値は毎日摂取しても影響が出ない量ですが、そこに安全係数(1/100)をかけさらに安全性を高めると言うことです。可能性は高くありませんが、対象となっている化学物質が非常に汎用性が高くほとんどの食品に含まれており毎日摂取している可能性が高く、日によっては基準を上回る・・・という事態になってしまった場合、健康害が出る可能性があります。そのような背景からギリギリではリスクとなるため安全係数を乗じてより安全にしていくとなったのです。
以上の試験と計算を経て使用基準が設定されます。この使用基準をもってこの化学物質を食品に添加する場合は、基準を下回る量での使用が許可されます。最終的には厚生労働大臣による承認をもって使用が可能となります。
ここまでリスク評価の流れを説明してきました。科学的に試験を行っていますが、それでも食品添加物について危険だ!という方も少なくはありません。そのような意見を論破するわけではないのですが、実際に上がっている声を少し例にとって解説していきます。
例①ラットでの試験で良いのか?
ラットはネズミであり、確かに人間とは異なる動物です。ラットは飼育コストがかからず繁殖能力も高いことから試験期間をも自覚できると言うコスト的なメリットもありますがラットを採用する最大の理由は遺伝子のばらつきが少ないと言うことです。実験に使用されるラットは改良された品種であり、野生のものと異なりそれぞれの個体の遺伝子が近いことから、試験結果に個体差と呼ばれるよな差が生まれにくく純粋に化学物質の評価試験を行うことができる点です。そのような背景から正確な試験ができることから、従前より世界的に用いられてきました。
例②:現在の科学でという範囲であり未来はわからない
これは確かにそうです。現在我々が使用している化学物質、例えば薬もそうですが、現在の科学レベルで効果が証明されているものを使用しています。そのため未来この科学的な知見が見直されることはあるかもしれません。つまり可能性としては0ではありませんが、現在の化学においては危険性がないという判断であるため、今後どうなるかわからない未来については危険と言える証明もないし、安全とも言え証明もないという悪魔の証明になります。
例③:海外の基準と比べると日本の基準は緩い
物質によっては海外よりも日本のほうが基準が緩いものは存在します。しかし、それには理由があり、体質と文化の違いです。まず日本人と海外の人を比べた時に骨格や内臓の作りも少しずつ異なります。そのため、海外の人は少量しか摂取できない物質でも日本人は多く摂取できるというようなものもあり、その国によって自分たちの体質に沿った基準を設ける必要があります。そしてもう1つは文化です。例えばお隣韓国でキムチを日常的に食べることから唐辛子や白菜の1人あたりの摂取量は日本人と比べたら段違いです。そのため、韓国はそれらを食べる機会が多いことから、キムチ等の含まれる食品添加物の基準値を高めに設定しておかないといけません。このように文化の違いも基準値に反映されてきます。そのため一概に緩いとも言えず、国ごとの判断となります。
具体的な危険性を指摘する反論を少しピックアップしましたが、最終的には自分で判断する内容になってきます。乗った飛行機が落ちる可能性は極めて低いですが、なんとなくハラハラする、安全は証明されているが安心できないと、といような安全と安心の差ではないでしょうか。
食品添加物における健康被害、事件
食品添加物が危険ということについて少し解説をしましたが、食品添加物を原因とする健康被害や事件が起きたことがあるのでしょうか?過去の健康被害事件とその内容を解説します。
1955年:森永ヒ素ミルク中毒事件
森永乳業が製造していた粉ミルクにヒ素が混入し、全国12,000人以上に健康被害が発生し130人が死亡した事件です。食品添加物の安全性と品質管理の重要性が強く認識されるきっかけとなり、規制が強化されました。この事件をきかっけに食品添加物が危険と言われるきっかけともなりました。しかし、実際は食品添加物としてヒ素が使用されていたわけではなく、工業用ヒ素が誤って混入してしまったという事件でした。そのため食品添加物そのものに毒性が認められたわけではありません。
1998年:輸入ポテトチップスの着色料問題
米国から輸入されたポテトチップスに使用されていた着色料が、日本の基準を超えていたことが判明し商品の回収が行われた件です。この事件をきかっけに、輸入食品の添加物に関する規制と監視体制が強化されるようになりましたが、これは規制と監視体制が甘かったことと、規定値以上の添加をしていたという人為的なミスが原因で食品添加物そのものの有害性が問題となったものではありませんでした。
2001年:チクロ(サイクラミン酸ナトリウム)の問題
発がん性の可能性が指摘された人工甘味料「チクロ」の使用が、国内外で問題視されました。日本ではすでに使用が禁止されていましたが、輸入品に含まれていることが判明し、食品添加物の国際基準との整合性が求められ、輸入食品の監視体制がさらに強化されました。
このように具体的な事件や問題が発生したことはあるのですが、いずれも、人為的なミス等であり、食品添加物そのものが原因となり健康被害が発生した事件ではないようです。
使用が制限、禁止された事例
そのほかで有名となった食品添加物はサッカリンです。サッカリンはチクロと同様に人工甘味料として広く使用されていましたが、発がん性の可能性が指摘され、一時期使用が制限されました。しかし、後ほど国際的な評価に基づいて使用基準が再評価され世界的には規制が緩和されましたが、日本ではまだ規制の対象となっています。
サッカリンは結果的に問題がないという結論に至った食品添加物ですが、当時規制されるタイミングで発がん性の可能性があるとメディア等でも報じられ、サッカリンは危険、食品添加物が危険という論調が加速していきます。
その後も、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)タール色素、フマル酸、防腐剤(ソルビン酸、ソルビン酸カリウム)などに健康被害をおよぼす食品添加物、発がん性のある食品添加物が見つかり使用の規制が強化されたり、制限されたりした物質もあります。しかし、事前にリスク評価を行い安全係数をかけていたことから、即座に健康被害が生じるというような事件、問題には発展せず、今後使用可能な量を見直すというような方向性で改善がされています。
実験当時は分からなかったものの、後ほど危険性が確認され制限されることがあっても、適切な試験を行い、安全(当時)な数値基準にさらに安全係数をかけることで、健康被害が出ることなく、改善できているという点では、現在の日本の制度、リスク評価については十分評価できるのではないでしょうか?
しかし途中でも触れたよう未来はわからず、安全と安心は違うものです。そのため最終的には個人の判断となりますが、一方で食品添加物を使用していることを危険だと煽り、自社の無添加商品を売りつけるといような他社を陥れて優位に立ちふるまう、そんなマーケティングの道具であってほしくないと編集部では考えています。