ご当地そばと世界のそば

 地方には定番のそばとは別に個性的で特徴のあるご当地そばが多く存在します。日本三大そばとも呼ばれるそばと一緒に個性的な地方のそばを紹介していきます。また、日本とは違った形で食べられている世界のそば料理も紹介していきます。

日本三大そばはどこのそば?

日本には三大そばと呼ばれるそばがあります。岩手県のわんこそば、島根の出雲そば、長野の戸隠そばです。今回はその3種類についてご紹介します。

わんこそば/岩手

一般的なそばとは違い食べ方に特徴のあるわんこそばは、一口サイズに小分けされた温かいそばを何度もおかわりして食べる、岩手の盛岡・花巻の郷土料理です。岩手の方言ではお椀のことを“わんこ”と呼び、小分けされたそばがお椀に入れられて出てくることからその名前がついています。

濃いめのつゆが少量かかった状態で出てくるためそのままでも美味しく食べられますが、わんこそばは薬味の種類が豊富でいろいろな味わいを楽しむことも出来ます。人によりますが1人前は10~15杯程度、お給仕さんが掛け声とともにお椀に新しいそばを入れてくれるのがわんこそばの特徴になります。

わんこそばは岩手県発祥の蕎麦ですが、花巻発祥という説と盛岡発祥という2つの説があります。
花巻発祥説では江戸時代、南部利直が江戸に向かう際、花巻で食事をしました。その際、立ち寄った店の店主が他のお客と同じ食事では失礼と思い、お椀に1口分程度のそばを出したところ、南部利直がそれを気に入り何度もおかわりしたことが発祥と呼ばれる説です。
盛岡発祥説は、盛岡市出身の政治家、原敬が市民を招き中蓋にそばを少し入れて訪れた方をもてなしたことが発祥と呼ばれるものです。盛岡では客人に対してそばを振るまる風習があったそうで、多くの人に同時に振る舞う場合、1人前のそばを提供すると全員に行き渡る前に伸びてしまうため、一気に茹でて少しずつ全員に配るという文化が広まっていたそうです。盛岡ではじゃじゃ麺、冷麺、わんこそばの3つの麺で盛岡三大麺とされています。

岩手、盛岡どちらが発祥かはわかっていませんが、どちらもそばを食べる人に対して伸びることなく美味しいお蕎麦を食べさせたいというもてなしの心から生まれた食べ方であることは共通しています。そこから岩手県内でも少しずつ地域やお店によって形態が異なり、たくさん食べられるようパフォーマンスのように掛け声をかけてくれるお店から、茹でたてをすこずつ出してくれるお店など様々です。また、かなり減ってはいるようですが年末の年越しそばを年齢の数だけ食べるという家庭もかつてはあったそうです。テレビなどでは早食い、大食いの種目として取り上げられることの多いわんこそばですが、本質的にはゆでたてのそばをゆっくり会話と楽しみながら少しずつ食べるというスタイルがわんこそばの本来の姿です。

出雲そば/島根

出雲そばは、殻付きのそばの実をそのままそば粉にした挽きぐるみを使って作られています。出雲そばは栄養価と香りが高く、風味と食感の良く、つなぎに使われる小麦粉も2割程度と少ないのも特徴の1つです。黒っぽい見た目が特徴のそばを使った出雲そばは2種類あり、「割子そば」という冷たいそばと「釜揚げそば」という温かいそばに分かれます。


割子そば赤く丸い3段の器に盛られており食べ方にも特徴があります。1段目のそばに薬味とつゆをかけて食べた後、器に残ったつゆや薬味を2段目にかけて食べます。空になった器は1番下に重ねそれを3段目まで繰り返します。もともとは外で食べるためにお弁当のように四角く何段も重なった器で提供されていたのが始まりとされています。
出雲大社周辺が発祥とされている釜揚げそばは、茹でたそばとそば湯をそのまま器に盛り付け、つゆや薬味をかけて食べるとろみのあるそばです。出雲で有名な神在祭の時に、屋台で出されていた温かいそばがそのまま定着し、割子そばと合わせて出雲そばとされています。
割子そば、釜揚げそばが主流ですが、近年玄丹そばと呼ばれるそばも現れました。1997年の減反政策により休耕田でそばを育て、そこでできるそばを【げんたん】そばとよび、戊辰戦争時、政府軍を相手に無血で松江藩を救った玄丹(げんたん)お加代という女傑にあやかってつけ玄丹そばと呼ばれるようになりました。

出雲そばは江戸時代初期、松江藩・松平家初代藩主松平直政公が信州松本藩から移ってきた際に、そば職人を連れてきたことから出雲地方にそばが広まったといわれています。そばは気温が低く、痩せた土地でも栽培が可能ことから当時の出雲地方の気候と土壌によく合ったということも現在の出雲そばの発展に影響しました。

戸隠そば/長野

戸隠そばの特徴は、「ぼっち盛り」と呼ばれるそばの水をほとんど切らずに少量を束ね、円形のざるに乗せた盛り方です。1人前が5束になって盛られているのが一般的であり、ざるそばと同じように食べますが、辛味の大根おろしが薬味に出されるのも戸隠そばならではとなっています。戸隠そばも出雲そばと同じように、殻付きのそばの実をそのままそば粉にした挽きぐるみを使って作られています。そのため、香り高く黒っぽい見た目となります。また伝統的な戸隠は海苔をかけないことから、戸隠そばにおいては海苔をかけるそばは存在しないそうです。

長野県戸隠山は、山岳信仰の聖地で修験道場として知られていました。山を訪れた修行僧が、簡単に栄養補給できる携帯食としてそば粉を水で溶いて食べていたことが発祥とされています。江戸時代に、江戸からそばきりと呼ばれる現在のようにそばを麺状にして食べる手法が伝わると、戸隠そばは現在のかたちとなりました。

信州そばが有名な理由

 そばといえば「信州そば」というほど、長野ではそばが有名です。そばの原型である”そばきり”発祥の地でもある長野は寒暖差が激しく、霧が発生しやすいことが霜を抑えてくれるなど、長野の環境が美味しいそばの実を栽培するために適していました。合わせて山水がおいしいことも栽培や調理をする際に大きく影響し、特徴のある美味しいそばがたくさん生まれ、国内でもそばが有名な県として認知されるようになりました。日本三大そばの1つである戸隠そばに並んで特徴のある信州そばを一部を紹介します。

  • 韃靼そば:ポリフェノールの1種であるルチンが豊富に含まれており、黄みがかっている韃靼(だったん)そばは”苦そば”と呼ばれるほど苦みを感じるのが特徴です。しかし、長野の長和で作られている韃靼そばは通常の韃靼そばより苦みが少なく食べやすいのが特徴です。
  • 唐沢そば:やまっちそばとも呼ばれ、とろろではなく細長く切った長芋が乗っているのが特徴です。シャキシャキの食感が人気の秘訣にもなっています。
  • とうじそば:松本中心に食べられており、鍋に山菜やきのこが入ったつゆにそばを入れ、麺を温めてから食べます。麺にきのこなどのうま味が染みわたり、心も体も温まるそばです。
  • 行者そば:焼き味噌と辛味大根のおろし汁をつゆに入れた辛つゆで食べるのが特徴です。
  • くるみそば:くるみ味噌やペーストなどをそばつゆで溶かしたくるみだれにつけて食べます。甘みのあるたれは子供から大人まで人気があり、くるみそば発祥のお店も長野にあります。

個性的なご当地そば

へぎそば/新潟
へぎという木の器にそばを一口サイズに盛り付けられたそばです。布海苔がねりこまれているため、少し緑がかっておりつるつるとしたのどごしと特有の風味が感じられます。

茶そば/京都・静岡
抹茶が練り込まれた濃い緑色のそばです。お茶の生産として有名な京都や静岡で作られていることが多く、抹茶の香りが感じられるのが最大の特徴です。

瓦そば/山口
器に瓦を使い、茶そばの上に錦糸たまごや肉などの具材を乗せた見た目にもインパクトのあるご当地そばです。つゆにつけて食べますが、薬味として乗せてあるレモンやもみじおろしを加えるとさっぱりとした味わいとなり、1度も2度も楽しめるソウルフードとなっています。

にしんそば/京都
かけそばに骨まで食べられるほど柔らかく煮詰めたにしんの甘露煮が入っています。そばのつゆは薄めの味付が多く、甘辛いにしんとの相性が抜群です。後半になるとつゆに甘露煮のうま味がにじみ出て味に深みが出てくるのも特徴です。

世界のそば料理

 そばの実から作られているそばは日本食の代表とも言われていますが、実はそばの実は遥か昔に中国から伝わっています。そのため、世界中でもそばの実は栽培されており、各地でさまざまな食文化として食べられています。日本のそばとは違うそばの実を使った料理を紹介します。

ガレット/フランス
そば粉を使ったクレープのような薄い生地に野菜や卵、ハムなどをトッピングしたもちもちした食感が特徴のフランス料理です。近年では、日本でも食べられるお店が増えています。

ピッツォケリ/イタリア
そば粉を伝統的な使ったパスタです。タリアテッレに似た太めの茶色い麺が特徴で、産地の野菜やチーズをバターと一緒に混ぜて食べるのが基本となっています。

冷麺/韓国
日本でも人気の高い冷麺は主原料にそば粉を使い、とうもろこしやジャガイモのデンプンや小麦粉を加え練って作られています。韓国には冷麺が2種類ありますが、そば粉を使った麺を使っているのは平壌冷麺になります。つるつるとしたのどごしとうま味のあるさっぱりとした冷たいスープが特徴です。日本で有名な盛岡冷麺は食べやすいように小麦粉で作られた麺を使っています。

他にもロシアでは朝ごはんの定番であるおかゆのようなカーシャやパンケーキに似たブリニ、ネパール・インドではナンに近いロティなど世界各地でもそばを使った料理は食べられています。

日本三大そばや地方ならではのご当地そばだけではなく、ぜひ世界のそば料理も味わって食文化の違いやそばの違った美味しさを味わってみて下さい。