醤油の作り方と原料

日本食には馴染み深く欠かせない調味料はいくつかあります。その中でも特に使用頻度が高く古くから使われている醤油は、香り豊かでうま味が強い調味料です。常備している人も多く身近にある醤油ですが、どのように作られているのかご存じですか?今回は醤油の作り方や何を使って作られているのかご紹介します。

醤油の原材料

大豆

醤油の原材料は“大豆・小麦・塩”ととてもシンプルです。基本的にはどれも同じ原材料を基準として作られていますが、JAS規格によって“大豆を原料に使用する”ことが定められています。そのため、大豆を使用してない場合は醤油と呼ぶことが出来ず、大豆以外の穀物から出来ている穀醤や魚を原料にした魚醤などは醤油とは別物になります。

そこからさらに色や味、香りなどの特性を細かく分類することで、万能な“こいくち醤油”、素材の良さを引き立たせる“うすくち醤油”、クセが少なくうま味がある“白醤油”、濃厚な“再仕込み醤油”、大豆のうま味が詰まった“たまり醤油”の5種類に醤油の種類を分けています。他にも、製法の違いから3種類、成分の違いから等級を3段階に分けています。

醤油に使われる大豆は「丸大豆」と呼ばれる丸い状態の大豆を使う場合もありますが、大豆から油分を取り除いた「脱脂加工大豆」を使っていることの方が多いです。大豆の成分は全体の20%が油分、35%はたんぱく質から出来ており、日本での大豆の加工食品の約75%は大豆油へ加工されています。その大豆油を搾った際に出る副産物が脱脂加工大豆となり、醤油へ加工されているのです。

醤油の主原料である大豆と小麦は1番始めに熱を加えて下処理されていますが、これは、殺菌とたんぱく質を分解しやすい状態にするためです。コーンフレークのような押し潰された形状をした脱脂加工大豆は効率的にたんぱく質を分解しやすく、うま味が強い醤油を作ることが出来るため、大豆油の副産物が多いことと重なって脱脂加工大豆を使うことが多くなっています。

小麦

小麦は熱を通した後、細かく砕かれ大豆と混ぜ合わされますが、これは大豆との間に空間を作り麹を作る際に通気性をよくする働きをしてくれています。また、塩も高い塩分濃度により雑菌から守り、醤油を作るのに適した環境を整える働きをしてくれます。このように、シンプルな原材料はそれぞれ重要な働きをしており、この働きによって美味しい醤油へと変化していきます。

シンプルであるがゆえに大豆と小麦の割合が違う、米など他の素材が加わる、製法や熟成期間が違うなどによって醤油の特徴や見た目、風味も大きく変わっていくのが醤油のおもしろいところです。

塩水

醤油作りには塩も欠かせません。塩を入れることで麹をもろみへと変化させていきます。醤油蔵によって使用する大豆や麦も産地や種類などこだわりが分かれるとこですが、塩も醤油蔵によって異なります。天然塩を使用する場合は塩にミネラルが含まれるため、そのミネラルの分だけ味は複雑になります。また一方で精製塩などを使用する場合は塩自体にミネラルがほとんど踏まれないため、ストレートな塩気となります。

塩のミネラルについてより詳しい解説はこちら

また塩は水に溶かして塩水として使用をします。そのため水も天然水を使用する醤油蔵もあり、水についても地域性などがあります。また水によっては天然水のように微量のミネラルを含むこともあり、またその微妙な差異が醤油の味の差に影響を与えています。

醤油の作り方

5つ醤油の種類の中では“こいくち醤油”が1番一般的で多くの人に使われています。それだけでなく、国内での生産率も約80%強と他の醤油より圧倒的に多く全国的に広く生産されています。では、1番生産率が高く使用も多いこいくち醤油にフォーカスを当てて醤油の作り方の流れを見ていきましょう。

1.主原料の下処理
主原料は大豆と小麦になります。大豆は蒸す、小麦は火で炒って下処理をしておきます。この工程をすることによって大豆と小麦は麹菌の酵素の影響を受けやすくなるのです。

大豆は昔ながらの製法では煮て加熱していましたが、現在は時短で効率的にたんぱく質を分解することが出来る蒸す方法を使っていることが多いです。また、小麦は直火で炒る方法より砂と一緒に混ぜて加熱する方法を取り入れているメーカーが一般的でしたが、現在は熱風により加熱する方法を取り入れるメーカーが増えており、長い年月をかけて製法も変化してします。

2.麹をつくる
下処理した大豆と小麦に麹菌を加え、湿度や温度が管理された部屋(室/むろ・製麹室/せいぎくしつ)で3日間かけて麹を作っていきます。この工程を製麹(せいぎく)と言います。

3.発酵・熟成
作った麹に塩水を加えたものを「もろみ」と言い、メーカーや商品によって違いますがもろみを約半年から1年かけて発酵・熟成させていきます。麹からもろみにすると、麹菌の繁殖が止まり麹菌の持つ酵素が動き出します。酵素の働きにより1週間ほどで大豆の持つたんぱく質はうま味の素となるアミノ酸に、小麦の持つでんぷんは糖分に分解され、分解された糖分はさらに酵母や乳酸菌の力により、甘味や酸味、香りの素となる成分へと変化していきます。そして、これらが影響することにより醤油の色も作り出され、この一連の流れを「仕込み」と言います。

4.醤油を搾る
熟成させたもろみを布に包んで積み重ね、プレス機などで圧力をかけて醤油を搾り出します。この工程を「圧搾」と言い、醤油と醤油粕に分けられます。もろみから搾られた状態の醤油は「生揚げ醤油(きあげ)」と呼ばれタンクなどで寝かせて油や沈殿物を分離させます。分けられた醤油粕は大豆の成分が多く含まれているため、家畜の飼料として再利用されることが多いですが、その他の利用方法はまだ少なく廃棄されてしまう方が多いようです。

5.加熱する
搾ったままの生揚げ醤油には酵母や乳酸菌などの微生物が残った状態です。そのため加熱をして殺菌をします。この工程を「火入れ」と呼び、火入れすることで残った微生物を殺菌するだけでなく、醤油らしい香ばしい香りや味を引き出し、濃い茶色へと変化していきます。

また、あえて火入れせず専用の特殊なフィルターで微生物を除去する方法を「ろ過」と呼び、ろ過によって作られた醤油は「生醤油(なま)」と言う種類の醤油になります。生醤油は火入れしていない分、淡い色合いをしており、味や香りは穏やかですが、料理中に火が加わることで醤油の香りを強く感じられます。

余談ですが、この火入れの過程で醤油に含まれる大豆アレルギー、小麦アレルギーの元となるアレルゲンは分解されるとされています。そのため、大豆、小麦アレルギーを持つ人でもこの過程を終えている醤油であれば食べられると研究レベルでは明らかになっており、逆にアレルギーのある人は生醤油は避けたいところです。

醤油のアレルギーについてより詳しい解説はこちら

6.完成
出来上がった醤油の品質をチェックし、それぞれの容器に詰めラベル等を貼り、検品されたら完成です。

このように普段何気なく使っている醤油は長い時間をかけて丁寧に作られています。時間はかかりますが複雑な工程ではないため、自家製の醤油を作っている家庭もあり、簡単に醤油づくりを体験してもらえるように醤油づくり用のキットを販売しているメーカーや醸造所もあります。自分で作ってみることでよりどのような工程なのか知ることが出来、本来の醤油の美味しさを感じることが出来ますね。

また、全国には醤油を作っている様子が見学出来る工場や醸造所がいくつもあるため、直接見学するのも新しい発見が見つかるかもしれません。地域によっては作られている醤油の種類で作り方も変わってくるため、気になる人はぜひお住まいの地域にあるメーカーや醸造所とどのような違いがあるかなども含めて見学するとより醤油の奥深さに気づくでしょう。