ホットドッグやハンバーガーなどの肉料理をメインにさまざまな料理に使われているマスタード。黄色くピリッとしたイメージの強いマスタードには種類がいくつかあるのをご存じですか?
マスタードにはどのような種類や特徴があるのか、また、日本食との相性も良いからしとは同じものなのか、その違いも一緒に紹介していきます。
マスタードとは
アブラナ科である“からし菜の種子”を加工したものがマスタード・からしになります。
基本的にはマスタードもからしもからし菜の種子から作られていることは同じになりますが、主原料として使われる種子の種類によって味や辛みが違い、さらに製法の違いによっても大きく変わってきます。
マスタード
別名 洋からし
主原料 からし菜の種子:イエローマスタード(ホワイト)・ブラウンマスタード・ブラックマスタード
製法 からし菜の種子にワイン・ビネガー・塩・砂糖などを加えて作られる
味・特徴 ビネガーなど他の素材が加わるため刺激や辛味は少なくマイルドで風味がよいものが多い
ペースト状のものや粒が入っているものなど種類が多い
からし
別名 和からし
主原料 からし菜の種子:オリエンタルマスタード・ブラウンマスタード
製法 からし菜の種子をすりつぶした粉からしに水やぬるま湯を加え溶いて作られる
味・特徴 刺激が強くわさびのような鼻を抜けるような辛みが強い
種類は粉からしを溶いた練りからしのみ
マスタードに使われる種子の種類
種子の種類は大きく分けると4つに分かれ、種子を乾燥させたものをマスタードシードと呼びます。
マスタードに使われているのは、辛みが特に強い“ブラックマスタードシード”、ブラックほどは辛くなく粒入りマスタードにもよく使われている“ブラウンマスタードシード”、粒が大きく辛みより風味重視の“イエローマスタードシード(ホワイトマスタード)”の3つです。
そして日本で馴染み深い和からしは “オリエンタルマスタードシード”を使っており、ブラウン種と似たような辛みの強い特徴を持っています。
マスタードシードをすりつぶして粉末にし、加工したものがマスタード・からしとなりますが、種子によっては粒のまま使うこともあります。そして、この種子は4つとも原産国が違います。
ブラックマスタードシードの原産国は中東です。黒や濃い褐色をしており、4つの中では1番辛みが強いため肉料理や魚料理にもよく使われています。濃い褐色をしたブラウンマスタードシードの原産国はインド、濃い黄色をしたオリエンタルマスタードシードの原産国は中央アジアです。和からしを作る際によく使われるのはオリエンタル種ですが、辛みや特徴が似ているブラウン種が使われていたり、2種類を使っていることも多いです。イエローマスタードシードはヨーロッパ諸国や北アメリカが原産国となり、粒が1番大きく黄色をしています。イエロー種と同じ種子でも色が薄いものはホワイトマスタードシードとも呼んでおり、どちらも風味がよいためピクルスやマリネにもそのまま使われています。
香りや辛みが強いのがブラック・ブラウン・オリエンタル、香りや辛みが弱いのがイエローと分かれますが、これは実は同じアブラナ科の中でも属性が違い、辛みの成分も違うためです。日本や中国ではどちらかというとからしの辛さを重視しており、ヨーロッパでは一時期辛みの強いブラック種を使ったマスタードが主流でしたが現在は辛さより風味を重視していることが多いです。
マスタード・からしの種類
1つ前で種子の種類があることをお伝えしましたが、実はからし菜の種子は粒の状態のままでは噛んでみたとしても香りどころか辛みも感じられないのです。1度粉末にして水を加えて練ることでマスタードやからし特有の香りや辛みが生まれ、そこに何を加えるかによってマスタード・からしの種類が変わってきます。
アメリカンマスタード・イエローマスタード
イエローやホワイト種を使い砂糖やお酢が入るため辛さが控えめでマイルド、さらにターメリックを使っているため鮮やかな黄色が特徴です。
アメリカやカナダなど北アメリカを中心に使われており、日本でもホットドッグやハンバーガーによく使われています。他にもフランクフルトや肉料理、サラダのドレッシングなどに使われ甘みや酸味も感じられるマスタードです。
イギリスマスタード(イングリッシュマスタード)
アメリカンマスタード同様、ターメリックを使った鮮やかな黄色が特徴のマスタードで、イエロー・ブラウン種に小麦粉・砂糖・塩などを加えて作っています。しかし、ワインビネガーなどは使っていないため和からしほどではないですが近い辛みがあります。より肉や素材のうま味を感じられるソーセージやローストビーフ、サンドイッチに使われることが多く、またイギリスでは肉料理や脂の多い魚料理にかかせないマスタードソースにもよく使われています。
フレンチマスタード
辛みが穏やかなイエロー種などを使った山吹色のなめらかなマスタードです。フランスでよく使われており、白ワインビネガーを加えて作られているため、辛みが控えめで少し酸味があります。砂糖も加えられているためマスタードが苦手な人にも食べやすい味になっており、ドレッシングや料理の下味、煮込み料理にも使うことが出来ます。
ディジョンマスタード(フランス)
フランスのブルゴーニュ地方にある“ディジョン”という土地が発祥のマスタードです。種子の外皮を取り除いてすり潰し、ワインビネガーではなくブドウ果汁の「ヴェルジュ」を使っているため酸味とフルーティーな香りがするのが特徴です。舌ざわりはなめらかで他のマスタードに比べるとクリーム色や白っぽい黄色のものが多くまろやかではありますが、その見ために反して辛みが強いのも特徴になっています。肉や魚料理のソースやフレンチドレッシング、サンドイッチに使うことが多いです。
デュッセルドルフマスタード(ドイツ)
ソーセージとビールで有名なドイツの西部にあるデュッセルドルフで昔から作られているマスタードで、ブラウン種とホワイト種の種子を完全にすり潰して作られています。ディジョンマスタードに似ていますが、ディジョンマスタードより辛みは強いです。
バイエルンマスタード(ドイツ)
ドイツの南部にあるバイエルンで作られたバイエルンマスタードは、デュッセルドルフマスタードと同じくブラウン種とホワイト種を使っていますが、「甘い粒マスタード」と呼ばれるほどしっかり甘いのが特徴です。
辛さはほとんどなく、マスタードによっては低糖ジャムに近い甘さがあるものもあり、バイエルン州伝統料理のヴァイスヴルストと言う白いソーセージと合わせて食べるのが定番となっています。そのため、見ためも黄色ではなく茶色っぽく知らない人はマスタードと言われないと気付かないこともあるでしょう。
粒マスタード
粒マスタードは名前の通りブラウンマスタードを粉状にせず、皮ごと粗挽きにして使っているため、粒のプチプチした食感を楽しめます。イエロー種とブラウン種の2種を使っていることが多く粗挽きにしている事から、辛みが少ない中にもスパイシーな辛みを感じられるバランスのよいマスタードです。ソーセージやポトフなどのつけ合わせとして使われることが多いですが、サラダやサンドイッチ、肉料理、ソースなど料理の幅も広く使うことが出来ます。
ハニーマスタード
料理に使われることが多く、つまみやスナック菓子の味にも使われているハニーマスタードは粒マスタードにはちみつを加えたものです。料理のソースとして使われており、その甘辛い味は子供から大人まで年齢問わず人気があります。
からし(和からし)
オリエンタルマスタードの種をすり潰して粉末状にしたものを“粉からし”、その粉からしに水またはぬるま湯を加えて溶いたものを“練りからし”と言います。ものによってはブラウン種を使っているものもあり、オリエンタル種・ブラウン種が辛みのある種子であるうえに、マスタードのようにビネガーや砂糖などを加えずに作るため、わさびのようなツーンとする刺激の強い辛みが特徴です。
市販の練りからしは、保存性を高めるためにオリエンタル種・ブラウン種にイエロー種を加えて作られているものが一般的で、香りや辛さの強さによって配合を変えています。
和食との相性がとてもよく、おでんやシュウマイ、漬物、炒め物、和え物など幅広く使われています。からし本来の辛さが欲しい場合は練からしではなく、粉からしを使う直前に使う分量だけ水で溶いて使うのがおすすめです。また、水より40℃くらいのぬるま湯で溶くと辛み成分がよく出ると言われています。
マスタード・からしの歴史と料理以外の使い方
マスタードの歴史はとても古く紀元前、古代エジプトまで遡ります。当時、ギリシャ人にとってマスタードは種子を直接肉にかけるなど調味料として使用していただけでなく、食用以外にも医薬品として使用していました。それを真似たローマ人によってフランスへ広まり、フランスの北部にある修道院で未発酵のワインを加えたマスタードが作られ、現在のマスタードの原形が生まれています。
日本では奈良時代から貴族の間では香辛料として使われていましたが、当時は種子ではなくからし菜の葉を薬味として使用しており、種子が使われ始めたのは室町以降とされています。また、日本でもからしは医薬品など食用以外にも使われていたと言われています。
普段何気なく使うことが多いからしやマスタードは実はとても古い歴史があり、長い年月多くの人に重宝されてきたのは驚きでした。さらに、種子の違いや製法、加える材料の違いによって種類が違い、日本やアメリカ、ヨーロッパ以外にもたくさんの国で使われている香辛料でもあることが分かりました。
同じように見えていたマスタードもこれだけ種類があると、味や香り、辛さの違いを比べてみてみたいですね。中には有名画家のゴッホが愛したと言われ、絵の中にも描かれているマスタードもあるそうです。自分の好きな料理に合うものや気になる風味、パッケージなど興味のあるマスタードから手に取ってみて、ぜひマスタードの奥深さを感じてみてください。