歴史を感じる滋賀県の特産品

日本のほぼ中心に位置する滋賀県は日本最大の湖である琵琶湖があることやかつて地方行政区分の一つである近江国であったことでも有名な県です。そのため、現在でも近江の名前がついた近江牛や近江米などの認知度が高く人気がありますが、琵琶湖や愛知県から流れる川の影響から豊富な水資源に恵まれているため琵琶湖で獲れる魚を中心とした漁業や稲作などの農業も盛んで関連した特産物も多いです。今回は近江牛にも負けず滋賀県の食文化を支える魅力ある特産物やご当地グルメについて紹介していきたいと思います。

湖魚料理

日本最大の淡水湖である「琵琶湖」は今から約400万年も前に誕生した日本最古の湖でもあり、世界に20ほどしかない古代湖の一つとなっています。そのため、長い年月をかけて誕生・進化を遂げた水生動植物が1700種以上生息していると言われており、そのうちの60種類が琵琶湖にしかいない固有種になります。現在は環境の変化や外来種の増加などによって減少してしまい16種類ほどしか生息していませんが、特にビワマス・ニゴロブナ・ホンモロコ・イサザ・ゴリ・コアユ・スジエビ・ハスの8種類が代表的な湖魚として知られています。「琵琶湖八珍」とも呼ばれている種類を中心に、滋賀県では古くから湖魚を食材として扱い食文化を支えてきたため、郷土料理にも湖魚を使ったものが多く親しまれているのです。

琵琶湖には多種多様な湖魚が生息しているため料理のジャンルも幅広いのが特徴です。サケの仲間に属するビワマスは脂のりがよく甘みもあり、クセが少ないため人気が高く刺身や塩焼き炊き込みごはんなど、調理方法を問わず美味しく食べられるのが特徴になります。琵琶湖で獲れるアユはあまり大きくならないのが特徴で、成魚でも10cmほどの大きさしかないことからコアユと呼ばれ、そのまま佃煮や天ぷらなどに調理することが多いです。骨が柔らかいため小さいお子さんでも食べやすく、コアユの稚魚も釜揚げなどにして美味しく食べることが出来ます。さらに、滋賀県の郷土料理として有名なふなずしの原料として使われるニゴロブナやじゅんじゅん・いさざ豆という郷土料理に使われるハゼ科のイサザ、腰が曲がるまでマメに暮らせるようにという願いを込めて作るえび豆には欠かせないスジエビなど琵琶湖で育ってきたからこそ持っている特有の特徴を楽しむことが出来るのも湖魚料理ならではとなっています。また、海と同じく湖にも旬があり、季節の移り変わりに合わせて1年を通して旬の湖魚料理が味わえるのも醍醐味の一つです。

琵琶湖八珍以外にも春が旬のタテボシ貝や夏に旬を迎えるセタシジミなどの固有種の貝類の人気も高く、味噌汁やしぐれ煮、パスタなどに使うと固有種特有の貝の旨みや食感をダイレクトに感じられるため重宝されています。琵琶湖周辺を中心に滋賀県では固有種の魚介類が深く根付き、地元の方からも非常に愛されているため、出来るだけ多くの固有種を未来へ残すための活動も精力的に行われ、PR活動にも力を入れているため、近年は郷土料理だけでなく和食や懐石料理、さらにはイタリアン、フレンチ、中華料理、ハンバーガー、サンドイッチなど市内のさまざまな飲食店で湖魚を使った料理を提供しているのです。観光客からの注目も浴びていることからホテルや旅館でも提供していることが多いため、滋賀県でしか食べることが出来ない固有種の美味しさを味わうために訪れてみてはいかがでしょうか。

近江鴨/鴨鍋

滋賀県ではきめが細かく柔らかいと評判のブランド和牛「近江牛」の知名度が高いですが、近江牛に負けず人気や知名度が高まっているのが“近江鴨”です。県の北西部に位置する高島市で飼育・生産されている近江鴨は県内で初のブランド合鴨となっており、非常に質がよく柔らかいのが大きな特徴になります。鴨肉といえば赤身と脂身がはっきり分かれており、しっかりとした肉質や少し血の味を感じる独特な味わいからクセが強いと思ってしまう方もいますが、近江鴨は食べやすいように改良された合鴨であるうえにストレスを感じさせないような環境下で手寧に育てられたことが鴨肉特有のクセや硬さ、臭みを抑え、柔らかい食感と旨みを感じられるため今までの鴨肉の概念が変わったという声が寄せられるほど評判が高いです。さらに、脂肪の融点が体温よりも低いためくちどけもよく脂身の甘さもしっかり感じつつ、脂っこくなくさっぱりと食べられるのも近江鴨の特徴となっています。

近江鴨はアヒルと野生の真鴨の交雑交配種から生まれた合鴨になります。臆病な性格をしていたため、静かな環境を整えることや飼料・水にこだわる、足もとにウッドチップを敷き詰める、成長剤を使わないなどヒナたちにストレスがかからないようさまざまな工夫を行ってきました。こうした努力が近江鴨の質の高さに繋がっており、クセがなく柔らかい食感や味わいを作り出しているのです。滋賀県の琵琶湖には毎年冬になるとシベリアから真鴨が飛来するため、真鴨猟が盛んに行われていた時代がありました。淡水魚の網に引っかかった真鴨を漁師が扱うようになったことがきっかけで真鴨を食べる機会が増え「鴨鍋」という郷土料理も誕生します。飛来してきた真鴨は長旅をしてきたことによりギュッと引き締まった肉質を作り出し、同時に冬の寒さから身を守るための脂肪も蓄えていたことが特有の歯ごたえと甘みが美味しいと評判が広まり、さらに、野菜との相性も非常によかったことから鴨鍋の人気が高まっていきました。江戸時代には将軍家に献上していたほど絶品と言われていましたが、昭和中期に琵琶湖が鳥獣保護区となり禁猟になると他県から取り寄せた真鴨を使うようになり、古くから鴨肉が身近にあったにもかかわらず、近江牛や近江米のような滋賀県を代表する食材として生産していなかったことに着目したことがきっかけとなって近江鴨という新しい畜産に取り掛かるようになったのです。

一から始めた近江鴨の生産は親鴨の飼育から孵化、肥育、加工などまで一貫して行われており、努力や工夫、手間ひまをかけてきたからこそ質の高いブランド合鴨として評価されるまでに成長していきました。現在は、県内だけでなく全国のホテルや飲食店でも取り扱われるほど評価が高く、わざわざ産地まで見学に来る料理人もいると言われているため、鴨肉が好きな方はもちろんのこと、特に苦手意識がある方にはぜひ近江鴨を食べて通常の鴨肉との違いを感じてみてもらいたいです。冬場には鴨鍋もおすすめですが、県内ではグリルやしゃぶしゃぶなど違う調理方法で提供しているお店も多く、鴨肉の厚みや使う部位によっても食感や味わいの違いを楽しむことが出来ます。また、琵琶湖では禁猟ですが、全国では地域によって11月~2月まで狩猟が解禁されるため、この時期だけ県内の旅館などでも天然の真鴨料理を味わうことが出来るため、天然の真鴨と近江鴨のそれぞれの特徴や美味しさを食べ比べてみるのもおすすめです。

焼鯖そうめん

滋賀県の湖北地方に位置する長浜市には焼いた鯖を甘辛く煮付け、その煮汁を使ってそうめんを味つけした“焼鯖そうめん”という定番の郷土料理があります。そうめんといえば冷たくさっぱりとした味わいやつるっとしたのどごし、白い見た目が夏の暑い日には特に好まれる料理ですが、焼鯖そうめんは鯖を煮付けた煮汁に下茹でしておいたそうめんを入れて軽く加熱するため温かく、茶色く色づいたそうめんと盛り付けてある焼鯖の見た目、さらには汁やつけ汁がないというところに驚く方も多い料理となっています。しかし、焼いた鯖の香ばしい風味と旨みをたっぷり吸収したそうめんは絶品で、普段食べているそうめんとは全く違った美味しさが味わえます。また、数日かけて煮付けた焼鯖も臭みがなく肉厚で骨まで食べられるほど柔らかいものが多いため、年齢や性別問わずに人気があり、全体のバランスが整っているのも特徴となっています。お店や家庭によって味つけや作り方に多少の違いはありますが、しっかりと濃いめに味付けをすることが多く、地元では主食として食べるよりもごはんのおかずや酒のつまみとして食べられることが多いです。

湖北地方はサバの産地である若狭湾が近く、福井県で獲れた海産物を京都へ運ぶ「鯖街道」というルートに近かったこともあり、内陸に位置していたにもかかわらず古くからサバが手に入りやすい環境でした。そのため、焼鯖やなれずし、へしこといったサバを使った料理が身近にあり、米どころでもある湖北地方では昔から農家へ嫁いだ娘のもとに焼鯖を届ける「五月見舞い」という風習も根付いていました。この贈られてきた焼き鯖を近所の親戚や知人に配り、農繁期の忙しい際に手軽に作られる料理として重宝されてきたのが焼鯖そうめんになります。また、客人をもてなす際の料理や冠婚葬祭などハレの日に作る料理としても食べられてきた郷土料理であり、毎年4月に行われる「曳山(ひきやま)まつり」ではご馳走として焼鯖そうめんがふるまわれています。本来は親から子へ受け継がれていく歴史ある家庭料理ですが、平成初期に長浜の名物料理として観光客に提供するようになったことをきっかけに現在は長浜市中心部にあるホテルや旅館、飲食店などで食べることが出来ます。また、今でも家庭で作る機会があることやテイクアウトが出来る飲食店、惣菜として販売しているスーパーなどがあることから、焼鯖そうめんは若い世代にも親しまれ愛されている郷土料理となっています。家庭でも手軽に作ることが出来るのがよさでもありますが、時間や手間をかけているからこそ味わえる風味や食感を市内の飲食店では楽しむことが出来るため、長浜市に訪れる機会があればぜひ地元で愛され続けている焼鯖そうめんにも注目してみて下さい。

赤こんにゃく

滋賀県には朱色のような色をした赤いこんにゃくがあるのをご存じですか?その名の通り“赤こんにゃく”と呼ばれており、近江八幡市の特産品にもなっていますが、個性的な見た目からはこんにゃくとは想像出来ないという方も多いのではないでしょうか。しかし、地元では日常的に食べられている馴染みある食材で、見た目とは反対に普通のこんにゃくよりも臭みがなく、柔らかくてきめも細かいためプリプリとした食感やモチっとした食感を楽しめるのが大きな特徴になります。色合いからは辛そうなイメージもありますが、特有の赤みはミニ酸化鉄という鉄分で赤く色付けをしているため辛みなどは全くなく、普通のこんにゃくとほとんど変わらない味をしています。また、調理をしても脱色せず、鉄分や食物繊維、カルシウムが豊富に含まれているため、見た目によらず普通のこんにゃくよりも食べやすく体にも優しい特徴を持っているのです。

なぜ近江八幡では赤いこんにゃくが誕生したのか気になるところですが、由来や起源となる文献などはほとんど残っていないため詳しいことは分かっていません。しかし、いくつかある説の中でも近江八幡にある安土城の城主・織田信長の派手好きな性格から赤く染めて華やかにさせたという説や伝統的な火祭りの左義長(さぎちょう)祭りで織田信長が赤い長襦袢を着て踊っていたことからという説など、信長にゆかりがある説が多く有力とされています。普通のこんにゃくとは違った特徴を持つ赤こんにゃくですが、同じように使うことが出来るため煮物や和え物などに使われることが多く、中でも赤こんにゃく煮という郷土料理は冠婚葬祭や学校給食でも定番の料理となっています。この地域は琵琶湖の湖魚を使った料理が多かったこともあり、色味の少ない料理に彩を添えてくれる赤こんにゃくは昔から重宝されていました。そのため、現在でもサラダやちらし寿司の具材などに彩として使われることも多く、今でも変わらず食卓を華やかにしてくれる食材として使われているのです。人によってはレバ刺しのようにも見える見た目や歯ごたえのよさからお肉感覚で食べる人もおり、ステーキや唐揚げ、天ぷら、また、生で食べられるタイプを薄くスライスしてわさび醤油や酢味噌で刺身のように食べるなど肉の代替品として使うことも多いです。四角い形で販売されているものが多い中、糸こんにゃくタイプも販売しているため、すき焼きや鍋、きんぴらの具材に使うなど県内ではこんにゃくと変わらずさまざまな料理に幅広く使われています。赤こんにゃくは見た目こそ手を出しにくい要素ではありますが、一度食べてしまったらやみつきになる方も多く使い勝手の幅も広いことこそが近江八幡ではなくてはならない食材の理由となっているのです。加工済みの味つけ赤こんにゃくも普段使いからお土産まで人気が高いため、勇気を出して赤こんにゃくの美味しさや食感を味わってみて下さい。きっとそのギャップに驚くこと間違いなしです。

糸切餅

白地にピンクと水色の縞模様が入った“糸切餅”は、飴のような見た目が可愛らしい滋賀県を代表する和菓子です。米粉から作られた餅の中にはなめらかなこし餡が包まれており、柔らかくもちもちとしたお餅の食感とほんのり塩味を感じる控えめな甘さ、縞模様の見た目が特徴になります。滋賀県犬上群多賀町多賀で製造・販売をしており、お多賀さんの名で親しまれている多賀大社に参拝した際のお土産としても有名な糸切餅は、もち米ではなく米粉から作られているため真っ白で光沢のあるお餅に仕上がることがよりピンクと水色の縞模様をはっきりと表しています。細長くのばして一口大に糸で切っている過程から「糸切餅」と言われており、賞味期限は夏場は1日、冬場でも2~3日と短く日持ちはしませんが、一口で食べられるサイズ感と甘すぎない味わいが非常に食べやすく、あっという間になくなってしまうと評判です。基本的にはそのまま食べるのが一般的ですが、地域によっては時間が経って硬くなってしまった糸切餅を焼く・炒めるなどの加熱調理をして食べるところがあり、また以前は店頭で余った糸切餅を油で揚げたところ好評だったことから、現在は天ぷらにして販売するなど手を加えても美味しく食べることが出来ます。そのため、アレンジ方法も多様で、天ぷらの他にも春巻きの皮に包んで揚げる、かき氷やぜんざいにトッピングとして加える、表面に砂糖をかけて炙りブリュレのような食感を楽しむなどそのまま食べた時とはまた違った食感を楽しむことが出来るのも特徴となっています。

糸切餅の歴史は古く、今から約700年前の鎌倉時代まで遡り、モンゴル帝国が日本に襲来した事件「蒙古襲来」が起源となっています。二度に渡る襲来に苦戦しつつも突然の天候不良が度々味方してくれたおかげで蒙古軍を撤退させたため、その感謝と平和を祝って蒙古軍の旗印に見立てた赤と青の縞模様を入れた餅をお供えしたのが糸切餅の始まりとなっています。その際にあえて刃物を使わず、弓の弦を使って餅を切ったことが名前の由来となっており、悪霊を断ち切るという意味が込められていることから平和を表しているそうです。最盛期には40軒ほどあった糸切餅を扱うお店も現在は3軒まで減ってしまいましたが、今でも三味線の糸を使って手作業で糸切餅を作っているお店が残っており、平和を願って作られる糸切餅は今も昔も変わらず滋賀県を代表する銘菓として残り続けています。同じように見えても三者三様の糸切餅が食べられ、あんこの甘さや塩味の強さ、お餅の食感など違いを感じられるのも糸切餅のよさに繋がっています。また、お店によってアレンジしたメニューやよもぎ・いちごなどを使った季節限定の糸切餅を食べられるお店もあるため、多賀大社でご利益をもらった帰りには糸切餅を食べてその歴史にも触れてみてはいかがでしょうか。