京都といえば歴史的文化遺産や四季を感じられるスポットが多いため観光地としての印象が強いですが、自然が非常に豊かで良質な土や恵まれた水源などが身近にあったことにより農産物がよく育ち、歴史と共に文化や技術が発展してきたことで古くから独自の食文化が根付いてきました。そのため、他県よりも京都らしさを感じられる特産物が多く、それらを使った特産品やグルメ、スイーツなどの人気も非常に高いです。今回は地元の方にはもちろんですが、観光客からも旅行時のお土産などに絶大な人気があり幅広い世代に愛されている代表的な京都の特産物・特産品を中心に紹介したいと思います。
京野菜
全国には伝統野菜という特定の地域において、その土地の風土や気候、環境に合わせて古くから栽培されてきた野菜がたくさんあります。郷土料理などに使われることが多く歴史や文化の流れを感じることも出来る野菜ですが、数ある伝統野菜の中でも特に有名なのが“京野菜”です。一度は耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。京野菜はその名の通り、京都府で古くから育てられている伝統野菜であり、京都の質の高い水源や肥沃な土壌、進化する栽培技術によって豊富な栄養素を含んでいる品種が多く、その数は奈良時代から明治時代までに50品種にも及びます。一般的な野菜よりも味が濃く、独特な香りや彩り、個性的な見た目を持っているものが多いため、京都の薄めの味つけでも野菜本来の味わいが際立ち、歴史ある京都の食文化には欠かせない大切な一部分となっています。特に京野菜は、九条ねぎをはじめに加茂なす、京みず菜、伏見とうがらし、堀川ごぼう、鹿々谷かぼちゃ、聖護院大根など京都の地名が付いている品種が多く、種類が少なくなってしまった現在でも35品種の京野菜が作られ愛されているのです。また、京野菜の中には伝統野菜には認定されていないものの「優れた品質が保証され、安心・安全と環境に配慮した生産方法に取り組んでいるもの」を“ブランド京野菜”として認定しており、伝統野菜の中でも特に消費向けに出荷が多い13品種に加えて、京こかぶや新丹波黒(黒大豆)などの伝統野菜以外の18品種を含めた31品種の野菜には「京マーク」という認定マークが付けられ京野菜として扱われています。
京都は1000年以上も前から都として栄えてきましたが、山々に囲まれ海が遠い土地柄から海産物が手に入りづらく、野菜が食生活の中心となっていました。そのため、宮廷や寺社への献上品も各地で育てられた野菜が多く、それらを京都の風土や気候に合うように工夫や改良をされたものが京野菜のルーツとなっています。水源や土壌以外にも盆地である京都は朝夜や夏冬の寒暖差が大きく、こういった条件も個性豊かな京野菜を育てるのに適していたとされています。明治時代以降にはレタスやキャベツ、トマトなどの西洋野菜が入ってくるようになり、現在主流となっている野菜の中にはこれらの野菜とかけ合わせて改良をした品種も多いですが、京都の伝統野菜の定義には明治時代以前から生産されているものが対象となっているため、西洋野菜などがかけ合わされていないというのも大きな特徴になります。戦後には流通や農業の発展とは反対に手間がかかることや病気に弱いといったことから生産する農家が減り、京野菜の存続の危機にさらされてしまいますが、農家と政府が一体となって次世代に伝えていこうという努力が実ったことで現在でも美味しい京野菜が食べられているのです。府内では高級料亭をはじめとする日本料理店や和食を扱う店舗で使われているイメージも多いですが、家庭でも広く使われていることから、京都の家庭料理を表すおばんざいのお店、さらに和食だけでなくお店によっては府内にあるフレンチやイタリアンのお店でも京野菜が使われており、気軽に旬の京野菜を味わえる店舗が増えています。また、府内のスーパーで購入することやJAやネットから取り寄せすることも出来るため、京都の個性豊かで美味しい野菜を味わってみてはいかがでしょうか。
京漬物
京都に訪れると観光地や土産店などさまざまなところで漬物が販売されているのをよく見かけます。販売している漬物の多くは京都府で生産された野菜を使った“京漬物”と呼ばれており、京料理と並んで京都の食文化を古くから支えている伝統的な特産品でもあります。漬物はもともと野菜などの食材を長く保存するための貯蔵方法として使われており、古くから日本で親しまれてきた食品の1つです。そのため、作られる地域の気候や環境によっても漬け方や味つけの方法がさまざまで、漬物の種類も多数存在しています。作る過程では塩や醤油、米ぬかなど何を使って漬けるのか、発酵するのかしないのか、また、どのくらいの期間をかけて漬けるのかなどによって風味や見た目がまったく異なり、食べやすさも大きく変わります。しかし、多種類ある漬物の中でも京都の漬物は全体的に野菜本来の味わいや旨みが楽しめるよう薄めの塩味で作られているものが多く、あっさりとした上品な味わいが非常に食べやすいため年齢層関係なく人気が高いです。もちろん塩漬け以外にも漬物はありますが、ゆずやわさび、鰹節、山椒、みりんなどを加えて風味豊かに仕上げているものが多く、クセの強い種類は少ない傾向にあります。さらに、定番の大根やかぶ、きゅうり、茄子などの食材の他にも長芋や壬生菜、たけのこ、スイカ、ねぎ、かぼちゃなど京野菜を中心とした野菜が多く使われており、見た目も色鮮やかなものが多いです。美味しく食べやすいことに加えて珍しい種類の食材を使っていることや種類の豊富さ、彩りのよさなどが京都の漬物の人気の高さや魅力に繋がっています。
原始時代にはすでに漬物の原形が出来ており、奈良時代には主に寺院の僧侶の食用として塩漬けにした野菜や果物が食べられていました。さらに、平安時代になると高級な保存食として貴族たちの間で親しまれるようになり、式典などでは約50種類の漬物が食べられていたとされています。この辺りから四季によって変わる旬の食材を使って漬物が作られるようになり、一部の身分の高いものだけが漬物を副菜として取り入れるようになりました。需要が増えていくと茶の湯や聞香(もんこう)にも取り入れられるようになり、次第に一般庶民でも食べることが出来るようになっていったのです。漬物のバリエーションが増えた江戸時代には京野菜の種類も増えて京漬物が確立していき、明治時代に「京つけもの」というブランドとして商標登録されたことでより認知されるようになっていきました。京都は海から離れた土地柄などの影響から古くから野菜を栽培することに力を入れており、さらに夏と冬の寒暖差や良質な水が手に入る環境から保存食としての漬物作りが盛んに行われてきたのです。こうした歴史や環境により、京漬物は他の地域よりも春夏秋冬で変わる旬の野菜を使った漬物も多く、季節を大切にする京都だからこそ、その時にしか味わえない旬の美味しさを楽しめるのも魅力となっています。もちろん1年を通して食べられる漬物も人気があり、特に茄子やきゅうりを赤しその葉で塩漬けにした「しば漬け」、薄く切ったカブを昆布と漬け込む「千枚漬け」、すぐき菜を乳酸発酵させた「すぐき漬け」は“京の三大漬物”として京料理には欠かせない漬物となっています。美味しい水と美味しい京野菜を使い、歴史と共に改良されてきた京漬物だからこそ野菜の甘みや旨みが凝縮され、あっさりした味わいの中に深みを感じられるのでしょう。漬物が苦手でも京都の漬物は食べられるという方もいるほど食べやすいため、ぜひお気に入りの漬物を見つけてみて下さい。
ちりめん山椒
“ちりめん山椒”とはイワシ類の稚魚を加工したちりめんじゃこと山椒の実を佃煮にした京都市の名物であり、お土産としても人気があります。醤油・酒・みりん・ダシ汁などの調味料と一緒に炊き合わせて作られますが、本来は京都の家庭料理であるおばんざいと(惣菜)として食べられてきたものであるため、甘みや味、見た目の濃さ、山椒の量、食感などは作る人やメーカーによって異なるのが特徴です。また、ちりめん山椒の他に山椒ちりめんや山椒じゃこ、じゃこ山椒など商品などによって名称や呼び方もさまざまとなっています。京都の名物でもあるちりめん山椒は、特に地域ブランドなどに認定されていないことから京都だけでなく現在は全国でも広く生産されていますが、発祥地の京都市内には専門店も多く、美味しく質がよいと評価が高い店舗も多いです。そのため、ちりめん山椒一つとってもあっさりしているものからコクの深いもの、山椒のパンチが強いもの、さらには白醤油を使い魚のうま味がたっぷりと味わえる白いちりめん山椒や味噌で炊き上げる優しい味わいのちりめん山椒などこだわりを感じられる商品がたくさん販売されており、全く違った印象を受けることも多々あります。
京都では今のように冷凍技術などの保存技術がなかった頃、盆地という山々に囲まれた環境から簡単には海産物が手に入らず、生の魚を食べる習慣がありませんでした。その代わり、古くから漬物をはじめとする保存食の生産に力を入れていたことから、ちりめんじゃこを甘辛く炊き上げ、保存性のあるおばんざいとして取り入れるようになりました。これが後のちりめん山椒の原形となっています。また、近隣の山から豊富に採れた山椒の実も保存食として扱われ、さまざまなおばんざいに使われてきました。京都の家庭では馴染み深かったちりめんじゃこと山椒の実を府内の料理人が一緒に炊いてみたところ相性がよく、昭和の半ばごろに初めてちりめん山椒が誕生しました。当初は商品として販売するつもりはなく、作っては親しい人に手土産として配っていたそうです。しかし、その美味しさから次第に評判が広まっていき、第一人者の病気に伴ってその家族が家計を支えるために販売するようになったことが商品としてのはじまりとなります。少しずつ業者によって類似品が増え、東京などでも販売されるようになり、それがきっかけで認知度も広まっていきました。歴史は浅いものの、シンプルな美味しさから名物として名を残し、今や京都を代表する特産品として親しまれています。たくさんあるちりめん山椒の中から好みのものを探すのも醍醐味ですが、有名どころのちりめん山椒は他県の百貨店などでも購入することが出来るため、京都でなくても気軽に美味しいちりめん山椒を食べることが出来ます。また、山椒が苦手な方は、山椒の実の代わりにごまや梅、鮭、青菜などを組み合わせたちりめんもメーカーによっては販売しており、違った美味しさを味わえるためおすすめです。
宇治茶
古くからお茶と縁がある京都には老舗のお茶専門店だけでなく、茶そばや茶懐石などが味わえる飲食店、お茶を楽しめる甘味処や茶店、スイーツを取り揃えるカフェなど、お茶に関連する店舗が数えきれないほどあります。近年は全国的にも特に抹茶を使ったスイーツの人気が非常に高く、カフェ巡りなど抹茶スイーツを堪能するために京都を訪れる方も多いです。その人気は国内に留まらず海外にまで及び、お土産として抹茶のお菓子を大量に購入していく方もよく見かけます。2010年に始まった抹茶の流行は衰えるどころかさらに人気に拍車がかかり、今や京都=抹茶のイメージは強くなる一方です。しかし、抹茶だけでなく日本茶としての質も高いのが京都のお茶の良さであり、中でも高級ブランドとしての人気も高い“宇治茶”は、静岡茶や狭山茶と並んで日本三大茶の1つ、また、日本を代表するお茶として有名です。宇治市周辺を中心に和束町や南山城村など府内の南部が主な産地となっていますが、近隣の奈良県や滋賀県、三重県で栽培された茶葉も含まれるため、これらの土地で作られた茶葉を京都府内の職人や業者によって加工し、仕上げたもののみが宇治茶と呼ぶことが出来るのです。
宇治茶は日本茶の1種であることから、抹茶だけでなく煎茶や玉露、かぶせ茶、ほうじ茶など多種類のお茶も製造・販売されています。摘み取られた茶葉は蒸して熱を加えることで発酵するのを防ぎ、緑茶へと加工されていきますが、蒸す時間によって仕上がり具合が異なるため水色や風味といった特徴にも大きく影響します。最近は茶葉を長めに蒸す「深蒸し」を取り入れることが多いそうですが、山間部に産地がある宇治茶は日照時間が短く、時間をかけて栽培していることから茶葉が薄く柔らかく育つため「浅蒸し~普通蒸し」と通常よりも短い時間で蒸すのが適しているとされています。蒸す時間が短い宇治茶は明るい黄緑色の鮮やかな水色が抽出されますが、その見た目と違ってお茶の旨みや甘みがしっかり感じられる濃厚な味わいと爽やかな香り、すっきりとした後味も楽しめるのが最大の特徴です。特に1番茶を贅沢に使った玉露は緑茶の中でも高級品となっていますが、宇治茶から作られる宇治玉露は渋みが少なく、まろやかな甘みや旨み、茶葉本来の香りを強く感じられ、高級であっても根強いファンがいるほど人気が高いです。
京都の中でも宇治茶の歴史は非常に古く、日本茶の起源にもなっています。鎌倉時代に中国から持ち帰った茶種を宇治に植えたのが始まりとなっており、地形や気候など茶葉を栽培するのに適した環境をしていたことから質の高い茶葉が育ち、贈呈用として扱われるなど次第に評判も生産も拡大していきました。室町時代以降、茶の湯が盛んになったことや千利休が茶道を完成させたことで宇治茶の名もさらに広がっていき、茶文化の発展とともに客人をもてなすための手法としても取り入れられるようになりました。現在、茶葉の栽培方法には日光の力を使って育てる一般的な「路地栽培」と高品質な茶葉を育てるため覆いを被せて日光を遮断する「覆下栽培(被覆栽培)」がありますが、かつて覆下栽培は宇治だけでしか使えない特別な栽培方法であり、これが宇治茶のブランドを確率する理由にも繋がっています。また、江戸時代には「青製煎茶製法」という煎茶の製法が考案されたことで宇治茶の品質がさらに向上し、現在の日本緑茶の製法にも大きく影響しているのです。高品質な茶葉に加えて、こうした技術の発展などによって第一線を走り続けている宇治茶は、煎茶だけでなく玉露や抹茶などそれぞれの加工方法においてもこだわりや歴史がたくさん詰まっているからこそ、美味しいお茶として愛され続けています。伝統的な製法を使って作られる宇治茶は全体的に見ても質が高く美味しいため、ぜひ、京都に訪れた際には抹茶と合わせて煎茶や玉露など緑茶としても味わって、抹茶とはまた違った美味しさも楽しんでみてはいかがでしょうか。
京菓子
さまざまな食文化が発展してきた京都において忘れてはいけないのが“京菓子”です。京菓子とは、和菓子の中でも京都の職人が京都で作ったものだけを表す言葉であり、練り切りなど日本の四季を表現した上生菓子を中心に呼ばれています。京菓子を含む和菓子は水分量によって生菓子・半生菓子・干菓子に分類され、特徴や食感、日持ちする日数などが大きく異なりますが、四季の移り変わりに合わせて変化するのが京菓子の共通点であり、色や形、感触、味、香り、名称など五感を使って楽しむというのが最大の特徴です。練り切りと同じく季節によってデザインが変わる打ち物(和三盆・落雁など)やお土産の定番として人気のある八ッ橋、笹の葉で巻いたちまき、柔らかい食感が特徴の求肥、もちっとした葛菓子など馴染み深い和菓子も代表的な京菓子の1つであり、その種類やデザインの豊富さ、繊細な見た目と味わいからは職人の技術を感じられるでしょう。
古くから菓子が身近にあり、時代の流れとともに進化していった京都では現在、多種類のお菓子やスイーツが販売され、ケーキやアイスクリーム、ドーナッツといった洋菓子を扱う店舗も増えていますが、やはり京都らしさを感じられる和菓子の人気は非常に高く、老舗も多いです。そもそもなぜ京都に和菓子店が多いかというと歴史と立地が大きく関係しており、かつて都として中心地だった京都では平安時代、天皇に献上するお菓子を作るための店が都の周辺にたくさん作られました。また、水源の豊富な京都は水が美味しかったこともあり和菓子を作るのにふさわしい土地だったことも発展した理由に繋がっています。さらに、室町時代に茶道が盛んになったことでお茶と一緒に出される菓子の需要が増え、それまでは麩焼や栗、昆布など素朴だった茶請けは中国から伝わった饅頭や点心、ポルトガルから伝わった南蛮菓子などの影響を受けて、餅菓子や生菓子、半生菓子、干菓子などさまざまな菓子が江戸時代にかけて誕生し、急速に発展していきました。ちなみに、和菓子という言葉は洋菓子の対比として生まれた言葉で、明治維新により日本に海外のお菓子や文化、技術が新しく入ってくるようになったことから、日本の伝統菓子と区別するために使われるようになりました。定義としては明確に定められていないものの、日本の伝統菓子や江戸時代までに日本に伝わり国内で発展していったお菓子が該当しますが、江戸時代以降でも日本独自で誕生したお菓子を和菓子と呼ぶことがあります。そのため、よく洋菓子と間違えやすいカステラをはじめに、ボーロや金平糖などのポルトガルから伝わった南蛮菓子は江戸時代よりも前に伝わっているため、和菓子に含まれるのです。日本に大きく影響している歴史から生まれた京菓子は、長い年月をかけて職人が受け継ぎ、守ってきたことで今でも美味しく美しい京菓子として食べることが出来ます。数ある府内の老舗和菓子店では、繊細で鮮やかなものから素朴で洗礼された種類まで購入することが出来るため、五感を最大限に使って京菓子の魅力を味わってみて下さい。