合同会社ミミスマス代表 上野諒さん

今回、食探では宮崎県椎葉村で伝統的なお茶SHIIBA YAMACHAの生産販売を行なっている合同会社ミミスマス代表の上野諒さんに話をうかがった。上野さんは宮崎県出身で、関東の大学を卒業後、銀行マンとしてキャリアをスタートさせ、椎葉村で起業をされている。宮崎県椎葉村といえば、岐阜県白川郷、徳島県祖谷と並び日本三大秘境として知らているが、どうして金融のキャリアから椎葉村での起業にいたったのか?椎葉村の魅力、そしてミミスマスが手がけるお茶について語っていただいた。

宮崎県椎葉村とは

話をうかがう前に、宮崎県椎葉村について簡単に説明をしたい。椎葉村(しいばそん)は、岐阜県白川郷、徳島県祖谷と並び日本三大秘境として知られており、日本のマチピチュとも呼ばれるほどに山間に存在する風光明媚な村である。人口は2,500人ほどで、面積の96%は森林で、伝統的な神楽、焼畑農業などが継承されている。畑や田んぼなどの農業や畜産業、林業などに携わり半自給的な生活をされている方もいる。後ほど上野さんのお話を書きたいと思うが、近年椎葉村の惹きつけられた若い移住者も増えていてる。

ここまでは椎葉村の一般的な情報を解説したが、ここから実際に上野さんにお話を伺った内容を紹介していく。

椎葉村で起業を決めた理由

 上野さんは宮崎県出身で高校卒業後は関東の国立大学に進学した、学部は経営学部で卒業後は銀行マンとなる。銀行入社後配属されたのが、生まれ故郷である宮崎の支店で、宮崎県に戻ってきた。当時は法人融資などをメインに担当し、県内の企業に訪問したり、社長と面談したりという業務を行なっていた。当時、起業も検討していなかったし、椎葉村にも行ったことすらなかったという。

 「当時ドライブで近くまで行ったことはあったんですが、降雪があるとのことでタイヤもノーマルタイヤだったため、途中で行くのを断念しました。」と上野さん。

 銀行マンを5年ほど続けていく中で、偶然見つけたのが椎葉村の地域おこし協力隊の募集だった。椎葉村は同じ宮崎県内ということで知ってはいたものの行ったことはなく、縁もゆかりもない村であったが、今後のキャリアを考えたときに思い切って飛び込んでみようと決意をし、椎葉村の地域おこし協力隊に着任した。お父さんの実家が山間の地域ということもあり、幼いときに頻繁に山間の村に行ったことあったため、椎葉村を訪れた際に、山間の村という自然環境はすっと受け入れることができたという。

地域おこし協力隊に就任

着任してからはまずはミニトマトを生産している農家さんの元に弟子入りをして収穫などを手伝い農業に関わることとなった。銀行マン時代は企業に行き決算書や事業計画を見ながら足元の数字に追われる日々だったが、椎葉村ではそれとは真逆の仕事となった。

「銀行にいた時は日々、足元の成績に追われ、悩んでいた時期もありました。しかし、椎葉村に来てから、景色も良いし空気も良い、自然体で暮らせるようになりました。ただそれ以上に、また、山で暮らす住民のみなさんとの触れ合いの中で、長い時間軸で物事を考えられるようになったことが自分の中ですごく良い変化でした。」と話してくれた。

地域おこし協力隊に就任したばかりの頃は地方創生という言葉も聞いたことはあるけど、深くどういうことかは分かっていなかったそうで、地域を盛り上げるとか活性化させるにはどんなことすれば良いのか?という考えも当時はまだなかったそうである。そんな中、様々な活動を続けていくことで、地方創生に対する考え方が少しずつ形作られていったそう。

「自分が体験したように椎葉村は、例えば疲れてしまった人や、これからどうしようか?と悩んでいる人にすごくパワーを与えられる場所だということを知りました。だから椎葉村をどうこうしようとかではなく、椎葉村がもともと持っているパワーを使って、市街地の人たちをサポートできたらなと思うようになりました。」

 自身の原体験から、椎葉村に市街地のちょっと疲れた人を連れてこようと思ったことがきっかけで、上野さんは企業の誘致を開始する。単に企業を誘致して雇用を生み出すという企業誘致ではなく、誘致する先の社員さんが椎葉村で働くような環境ができれば疲れやストレスが抜けるのでは?と考えた。5年間銀行マンとして培ってきた営業力を武器に、ベンチャー企業などに営業をし、ワーケーションや社員の研修、チームビルディングなどの誘致を精力的に行う。その結果、複数のベンチャー企業が社員研修やチームビルディングのフィールドとして椎葉村を訪れたり、とあるベンチャー企業が椎葉村で社員募集をするといった結果となった。訪れた企業やその社員さんからの反応は上々で椎葉村の魅力、パワーが証明された。

 こうして、地域おこし協力隊の前半は農業、後半は地域への企業誘致に携わり、3年弱の任期を終える。退任後どうしようかと考える中で、地域の方や関係者からも「上野さん活動を続けてみないか?」と声があり、合同会社ミミスマスを起業する。

ミミスマスを起業

 企業誘致等の活動がきっかけで立ち上がったミミスマスだが、現在は「中間支援事業」と「地域商社事業」の2つの事業活動を行っている。「中間支援事業」は中山間地域の自治体と連携した移住促進関連の活動や、コミュニティビジネス形成支援などを行っている。「地域商社事業」においては椎葉村のお茶や蜂蜜の販売を行っている。

現在社員4名とアルバイト1名で構成されており、そのほとんどが地域おこし協力隊のOBOGたちである。ミミスマスの特徴はメンバー構成だけでなく週休3日としていることにもある。

「ある日社員が、せっかく椎葉村で暮らしているのに、机に座ってPCだけ触って経済活動をするのではもったいないと言い出して、その通りだなって思ったんです。農業したり、神楽舞ったり、消防団の活動したり、地域活動に関わる時間を作りたいと思い、週休3日制を導入しました。」とその理由を教えてくれた。実際に、複数の社員が椎葉村の伝統的な神楽を舞ったり、消防団の活動に参加するなどして地域へ積極的に関わっている。

 またミミスマスは椎葉村での実績を買われ、近隣自治体からも地方創生関連の仕事を請け負うようになっており、椎葉村のような中山間地域でのPR等の事業を請け負っており、着実に事業を拡大している。

SHIIBA YAMACHA

 地域商社事業では地域で生産されるお茶の販売を行なっている。ミミスマスが手がけるSHIIBA YAMACHAだ。椎葉村は昔からお茶を蒸すのではなく炒るという加工が一般的で、ミミスマスが手がけるSHIIBA YAMACHAも釜炒り茶である。さらに、茶葉は椎葉村に昔から自生してた山茶(山に自生している在来種)を増やし生産しており、まさに椎葉村のオリジナル茶である。地域おこし協力隊時代はミニトマトの生産に携わっていたそうだが、どうしてお茶から事業を開始したのかを上野さんに聞いた。

「椎葉村に来た時、地域の人と話をするときにはいつもお茶を飲んでいたことを思い出しました。地域のおばあちゃんがお茶を淹れてくれて、話を聞いてくれたんですが、お茶ってある種のコミュニケーションツールだなって思い、地域商社やるならまずは思い入れのあるお茶からだろってなったんです。」と上野さん。

 そこから地域でお茶を生産している方の圃場で茶葉を摘ませてもらいから茶葉を仕入れ、現在のお茶を完成させた。ミミスマスの作るSHIIBA YAMACHAは緑色ではなく金色で見た目にも非常に目を惹く。淹れた時から広がる香りは普通の煎茶よりさらに爽やかで、一口飲むとその香りが鼻を抜ける。また、味も比較的あっさりとしており食事にも合わせやすく、水出しにすれば、畑仕事やスポーツなど少し汗をかいた後にもグッと飲めるような、そんなお茶である。

 「私たちはお茶摘みの工程も大切にしていて、地元のばあちゃんや福祉作業所の方、移住したての方などと、皆であれこれお喋りしながら手摘みしています。昔ながらの文化なので、工程も大切にしたいですね。」と話してくれた。ただのお茶というよりはコミュニケーションを深めるときに一緒に飲みたいお茶である。

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椎葉村の魅力

最後に上野さんに椎葉村の魅力をうかがった。

「椎葉村は景色がよく自然環境が良いというのはもちろんですが、風通しが良いことも魅力かもしれません。今地域おこし協力隊は現役で19名、移住したOBOGが10名で人口の1%近くが地域おこし協力隊です。間口が広がっていて関わりやすい村ですね。また、村に来たら定住してほしいとか、地域にずっといてほしいとか言われるかと思われがちですが、絶対移住しないといけないというプレッシャーが案外ないことも移住しやすい、関わりやすい理由ですね。」

 現に上野さんも地域おこし協力隊に就任した際には、任期が終わっても無理して椎葉村に移住しなくても良いと周囲から言われ、気持ち的にはかなり楽に椎葉村で暮らすことができたという。

「ミミスマスは地域おこし協力隊のOBOGが複数在籍しているので、移住者の方がいつでも相談に行ける先輩的な存在であろうということは意識しています。実際に、現役協力隊の方が相談に来てくれたり話をしに来てくれますよ。」と話してくれた。

上野さんが話してくれた通り、ミミスマスはいつでも気軽に相談できる先輩として入口を広くしているそう。また上野さんに対して住民の皆さんがそうしてくれたように、定住へのしろ、地域にずっといなさい、というようなプレッシャーにはならないように入り口だけでなく出口も広く構えるように意識はしているという。

「入口も出口も広いのが椎葉村だと考えています。人生がマルチステージ化しているので、どこかのステージで椎葉村を含む中山間地域に関わるタイミングあると嬉しいですね。」

 最後に、上野さんが話してくれた、長い時間軸で物事を考えられるようなる、ということが椎葉村の最大の魅力である。ふとした時に思い出し、行ってみようかな?と思える村が椎葉村である。

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