こめ油はこうやって作られる

米ぬかを使って作られているこめ油は玄米由来の豊富な栄養が含まれており体にもさまざまな良い影響を与ええてくれる注目の植物性の油です。普段の生活において油は料理をするには欠かせない存在ですがどのようにして作られているのかご存じでしょうか。今回は米ぬかからこめ油が作られ販売されるまでとおすすめの使い方を紹介していきます。

こめ油の製造工程

1.抽出

原材料となるのは玄米から白米に精製した際に出る“米ぬかや胚芽”です。不純物を取り除いた米ぬかや胚芽に含まれている油分を抽出して米原油を取り出していきますが、その抽出法にはいくつか種類があります。

溶剤抽出法
1つ目は主に使われていることが多い溶剤抽出法と呼ばれる抽出法です。ノルマルヘキサンと言う有機溶剤を使い米ぬかから油分を抽出させていきます。油分の少ない原料からでも油分を取り出すことが出来、安価で効率のよい抽出法であるため使われていることが多くなります。ノルマルヘキサンを使うことで人体への健康被害があるのではないかという声をよく聞きますが、精製される際にこの有機溶剤も一緒にすべて取り除かれるため、問題なく口にすることが出来ます。

圧搾法
2つ目は昔ながらの製法で圧力と熱の力を使い油分を搾る圧搾法です。油分が多い原材料には使われることが多いですが、手間がかかることや米ぬかに含まれる油分の半分くらいしか抽出することが出来ないためコスト削減などの理由から現在は溶剤抽出法の方が多く使われています。しかし、溶剤を使って抽出されたこめ油よりビタミンや抗酸化物質などの栄養分が残りやすく、溶剤を使っていないことから安心して食べてもらえるよう取り入れるメーカーも増えています。その分、価格も高くなってしまうためメーカー内でもブランド化した商品に取り入れるなどをして価値の高さをあらわしています。

その他
上記以外の製法を取り入れているのが岐阜にあるオリザ油化です。オリザ油化では、低温抽出法(コールドプレス法)と呼ばれる極めて低い温度で油分を抽出する製法を開発し取り入れています。1982年には世界特許も取っており、これにより不要物の混入や熱加工による変色・劣化などが抑えられ高品質の油を作ることが出来ています。さらに、廃棄物やCO2の排出、大気汚染などの発生量も大きく抑えられ環境にも配慮された抽出法となっており、この抽出法を取り入れているメーカーはほとんどありません。

精米後の米ぬかは劣化しやすいため、なるべく早いうちに油分を抽出し加工する必要があります。実は米ぬかから抽出されるこめ油の量は少なく、一般的に販売されているこめ油1本分(600g)を作るためには約5㎏の米ぬかが必要となります。そのため、より多くの油分を抽出し量産するためには溶剤抽出法を使うことが多くなりますですが、メーカーによってはこだわりを持った抽出法を使いより質のよいこめ油を製造しているところも多いです。

副産物
この抽出の過程で出る油分を取り除かれた脱脂ぬかにもたんぱく質やビタミン・ミネラルなどの栄養成分が含まれており、劣化しにくく長期保存することが出来るため、家畜用の飼料としてや植物の肥料として、堆肥などの発酵促進剤、酵素風呂など幅広く使うことが出来ます。

精製

抽出された米原油には遊離脂肪酸やワックス分が他の植物油より多く含まれているため、泡立ちの原因となる成分を取り除く脱ガム、ロウ分を取り除く脱ロウ、遊離脂肪酸を取り除く脱酸、不純物を取り除き色の調整をする脱色、匂いを取り除く脱臭などの工程を行い食用には使えない成分を取り除き、食用として使えるこめ油へと精製してきます。精製時にはこめ油に含まれる強い抗酸化作用を持つトコトリエノールやガンマオリザノール、セラミドが生成され、反対にこの工程内で溶剤抽出法で使われるノルマルヘキサンは取り除かれていくのです。

脱ガム工程
植物油にはガム質と呼ばれるタンパク質・糖類・リン脂質などが含まれています。これらは油を加熱したときに泡が出やすくなるだけでなく、匂いが悪くなる、色が黒く変色しやすいなどの原因になるため、米原油に少量の水を加え遠心分離機で撹拌しながらガム質になる物質を分離し除去していく工程です。脱ガム工程を行うと一部がレシチンという成分に変わり乳化剤としてチョコレートなどの原料に使われています。

脱酸工程
脱ガム工程を行った米原油に強アルカリを加え、同じく遠心分離機を使って含まれている遊離脂肪酸を取り除いていく工程になります。遊離脂肪酸が多いと、油自体が酸化しやすく傷みやすくなってしまいます。酸化するとにおいや味に異変を感じたり、ドロッとした見た目、調理中の油酔いや食べた際の胸やけなどを引き起こしやすくなるため、脱酸も良質な油として販売するにあたって重要な工程となっています。取り除かれた遊離脂肪酸は、アルカリ油滓として石鹸や塗料の原料、またエステル化して飼料添加物として再利用されています。

脱色工程
ここでは粘度の1種である活性白土を使い色素を取り除いて脱色をしてきます。活性白土の持つ吸着能力により含まれる不純物や着色物を取り除き、さらにろ過機を使い商品として販売しやすいように色を調整していきます。使用した活性白土は有機肥料を製造する際の発酵促進剤やセメントの原料に使われています。

脱ロウ工程
植物油にはワックス分が含まれており、このままにしておくと油が冷えた時に固まりやすく油として使いにくくなってしまいます。JAS規格でも一定期間低温で保管しても白濁や凝固しないことが条件になっており、特に米油には他の植物油よりワックス分が多く含まれているため、このワックス分を取り除き耐寒性のよい油を作るには脱ロウ工程はとても大切な工程になります。ここでも取り除かれたワックス分はコーティング剤やロウソク、インク、リップなどの化粧品の材料や保湿剤などに再利用されています。

脱臭工程
食用油にはアルコール類やアルデビド類、ケトン類などのにおいの成分が含まれています。これらを高温・高真空状態の脱臭塔を使い水蒸気を吹き込むことで油に含まれるにおいの成分を取り除いていきます。しかし、水蒸気の真空度や量によっては品質・風味を劣化させてしまう恐れがあるため、そのバランスをとるのが非常に難しい工程でもあるのです。

その他
山形に本社を構える三和油脂では「圧搾米油コメーユ」や「つや姫こめ油」というシリーズでは圧搾法で取り出した米原油にスチームリファイニング製法(蒸気精製法)と呼ばれる物理精製法を取り入れて精製をしています。このスチームリファイニング製法は和歌山県の築野食品工業が販売している「圧搾一番搾り 国産こめ油」にも取り入れており、どれも原料や製法にこだわりを持った価格帯が高めのプレミアム商品として販売しています。

副産物
脱酸の工程で取り除かれた遊離脂肪酸は石鹸や塗料の原料、またエステル化して飼料添加物として、脱ロウの工程で取り除かれたワックス分はコーティング剤やロウソク、インク、リップなどの化粧品の材料や保湿剤などに再利用されています。他にも、サプリなどの機能性食品の原料としてや工業油脂原料として使われており、こめ油を作る際に生じる副産物もあますことなく使われているのです。そのため、多くのこめ油メーカーはSDGsに積極的に取り組んでおり、低温抽出法を開発したオリザ油化に至っては80年以上も前からサステナブルな取り組みを行ってきています。

品質管理・検査・製品へ

抽出と精製によって作られたこめ油は金属探知機やフィルターを使い異物が入っていないか、放射能検査などの厳しく細かい検査しをクリアした油だけが商品として出荷されていきます。
このように、基本的な流れはどこのメーカーも同じになりますが、抽出法や精製の工程が商品やメーカーによって少し変わってくるものも多くあります。その違いにより、こめ油の質や風味、栄養分、価格などの違いにも繋がっているのです。

こめ油の特徴を活かしたおすすめの使い方

揚げ物に使う
こめ油の1番のおすすめの使い方としては加熱調理に使うことです。酸化しにくいこめ油は熱に強く、特に揚げ物に使うとカラッと揚げることが出来ます。油っぽくなく酸化しにくいため、お弁当や作り置きなど時間が経ってからでも美味しく食べることが出来るのが大きなポイントです。

ご飯を炊く時に
ご飯を炊く際に”米2合に対して小さじ1/2”のこめ油を一緒に加えて炊くことで、うま味やお米にコシが出てふっくらと炊き上げることが出来ます。お米に油がコーティングされるため、硬くなりにくく冷めても美味しいご飯が食べられます。

ちょいたしでまろやかに、隠し味にも
サラダや冷ややっこ、煮物やみそ汁などに少量加えると味がまろやかになり、素材そのものの味を引き立たせる役割をしてくれます。また、おでんや寄せ鍋などに加えると隠し味となり風味が一層豊かになります。食パンに塗ると香ばしさが増すため、バターやマーガリンの代わりに使うこともおすすめです。

手に塗って保湿効果も
ビタミンEやトコトリエノール、ガンマオリザノールなど抗酸化作用の強い成分が多いこめ油は手に塗ることで、保湿され手荒れの予防に使うことも出来ます。お米由来であるため肌にも優しいですが、心配な人はパッチテストを行ってから使うようにして下さい。保湿目的で髪や顔に塗ることも出来ますが、特に顔は手や髪に比べるとより敏感であるため食用ではなく美容目的で作られた製品を使う方がより安心して効果を期待することが出来るでしょう。

年々増えるこめ油の需要

日本で使われている植物性の食用油の大半は海外から原材料を輸入して作られていますが、こめ油は国産原料である米ぬかを使った日本で唯一の国内生産の植物性油になります。割合としては全体の6.4%と少ないですが、栄養面やクセのすくなさ、使い勝手のよさからこめ油を取り入れている人は増えています。料理も揚げ物・炒め物・ドレッシング・マリネ・アヒージョ・オイル漬け・ケーキ・パン・汁もの・おつまみ・作り置きなど本当にジャンルも問わずに使える万能な油です。

市場規模としても2022年には前年比の14%も増え、金額にして247億円にも及びます。さらにその数字は増え続けていますが、お米の消費が減っているため米ぬかがとれず、輸入に頼りつつあるのも事実です。同年の米ぬかの発生量としては50万トン、こめ油に使われているのはそのうちの35万トン、この量から作られるこめ油の量としては約4万トンとなり、1,000ℓ入りとしては4万本程度しか生産することが出来ません。米ぬかはこめ油以外にも肥料や飼料、きのこなどの栽培にも使われているため全体として不足している状況です。

各地のこめ油を販売しているメーカーも国内の精米所から米ぬかを集めたり、米の生産地の近くに工場を作り米ぬかを収集しやすくするなどの対策を立てているようです。日本人には切っても切り離せないお米を使ったこめ油は体への影響や風味など何をとってもよいことがたくさんあります。食の多様性である中でもお米をたくさん食べて、こめ油の生産にも役立てていきたいところです。