岡山県の特徴を感じられる特産物

誰もが知っている日本昔ばなし・桃太郎のルーツとなっている岡山県は、年間を通して穏やかで温暖な気候、晴天率が高く快晴も多いことから「晴れの国おかやま」とも呼ばれています。そのため、果物を中心に米や野菜といった農業や畜産業も盛んで美味しい食べ物の幅が広く、グルメも肉・魚・麺料理、フルーツ、和菓子などジャンルの幅が広いご当地グルメを食べられるのが特徴です。今回はそんな岡山県の代表的な特産物や少し変わったご当地グルメについて紹介していきます。

白桃

ジューシーで柔らかく甘さと香りも十分に味わえる“白桃”のほとんどはかわいらしいピンク色をしています。そのため白桃と言えばピンクというような印象も強いですが、岡山県の白桃は真っ白で透き通るような美しい見た目をしているのが大きな特徴です。一瞬、桃なのか迷うほど白く上品な岡山の白桃は、その見た目だけでなく香りや甘さも強くて上品、みずみずしいあまりとろけるような食感を楽しむことが出来ます。なぜ、岡山県で作られている白桃がここまで白いのかという理由には特殊な栽培方法が大きく影響しています。桃の実がまだ小さく成長する前の青いうちに袋を一つ一ずつ手作業でかけていき、直接日光に触れないよう保護をしています。これは「袋掛栽培」という岡山県ならではの栽培方法で、通常の白桃は日光に当たることでアントシアニンという色素が表皮に分泌されるためピンク色に変化していきますが、袋をかけて日光を遮断することでピンク色にはならず、綺麗な白い状態のまま栽培することが出来るのです。また、虫や雨風からも桃を守ることになるため傷がつかず、より美しい見た目と岡山県の温暖で穏やかな気候が滑らかな口あたりの白桃へと育てることにも繋がっています。

桃はもともと中国が原産国であり、日本には縄文時代末期から弥生時代あたりにかけて伝わったと言われています。各地では品種改良などが行われさまざまな品種がすでに栽培されていましたが、明治初期頃に岡山県にも中国から「天津水蜜」と「上海水蜜」という品種が持ち込まれたことがきっかけとなり、県内でも本格的に桃の栽培が始まりました。桃作りに恵まれた気候や先人たちの努力によって「白桃」が誕生し、現在、生産の主流となっている白桃や清水白桃・白鳳といった品種のほとんどは岡山県が発祥となっているものが多いです。山梨県や福島県と並んで代表的な桃の産地にまで成長した岡山県では、定番種の他にも白皇やおかやま夢白桃などオリジナルブランドも含む13種類の白桃を生産しています。桃は旬や収穫時期が短く、1番短い品種では1週間ほどしか旬の時期を迎えることが出来ませんが、少しずつシーズンがずれている品種を栽培することで長期間に渡って出荷することが可能になり、6月~9月にかけてリレー状の収穫が始まります。品種によってはなかなか手に入れることが出来ない珍しい白桃もありますが、岡山県の白桃はどれも品質が高く、大きく美しいため、シーズン中は全国から注文が殺到するほど人気が高いです。収穫された白桃は選果場で光センサーや目視などによって選別され、糖度が高くより高品質な白桃を出荷出来ることがクオリティの高さにも繋がっています。しかしこれは、農家の地道な努力や手間ひまかけた作業、そして大きな愛情があってこそ成り立っており、長年研究されてきた伝統的な技術によって作り出されています。

岡山県の白桃はどの品種も甘く果汁がたっぷりなのは変わりませんが、より酸味が少ないもの、香りが芳醇なもの、繊維がキメ細かいものなど少しずつ特徴が変わるため好みの白桃を見つけるのも楽しいかもしれません。ただし、熟した白桃は手で皮が簡単に向けてしまうほど柔らかく、糖度が高いゆえに一般的な桃よりも傷みやすいデメリットを持っているため、食べるタイミングを見過ごさないようにするのがポイントです。サラダやパスタなどの料理にも使える万能さを持っていることやジャム・ゼリー・アイスなど果汁を使った加工品も美味しく食べることが出来ますが、やはり1番美味しく岡山県の白桃を味わうには生のままで食べるのがおすすめの食べ方となっています。他県で同じ品種を作っていてもここまで美しい白色をしているのは岡山県だけでもあるため、味わいや香り、食感と一緒にぜひその見た目も思う存分に楽しんでもらいたいです。

桃太郎トマト

岡山県には個性的でとっても可愛らしい名前の特産物があります。それが“桃太郎トマト”です。桃太郎のルーツでもある岡山県にちなんだ名前の桃太郎トマトは、県内で主に生産しているトマトの品種であり、しっかりとした甘みの中には旨みと適度な酸味も感じられるため、非常にバランスの良いトマトとなっています。また、皮が硬く肉質もしっかりしているため熟しても割れにくく、完熟すると桃やぶどうのようなフルーティーな香りを感じられるのも特徴です。県の中西部から北西部にある高梁市・新見市・真庭市・新庄村などの高原地帯で作られており、その生産量は県内の9割を占めています。年間を通して晴れの日が多い岡山県の天候は、雨が苦手なトマトを栽培するには非常に適した環境をしており、さらに標高がある高原地帯は気候が涼しく、昼夜の温度差もあるため旨みや栄養が増す要因となっています。秋にかけて気温が下がることでより甘みも増していくため、美味しく甘いトマトを育てるにはうってつけの環境条件だったのです。そのため、大玉トマトの糖度は4~6度が一般的と言われていますが、高原地帯で育てられた桃太郎トマトの糖度は5~8度と高く、さらに水分や日光などの条件が整った場合には10度以上の糖度を味わうことが出来るトマトもあると言われています。大玉トマトでこれほどまでに糖度が高いものは少なく、程よい酸味と旨みも持ち合わせているからこそ風味豊かで濃厚な味わいを楽しむことが出来ます。

桃太郎トマトは1960年代後半に新しい品種の開発として手をつけたのがはじまりです。トマトは赤く完熟した状態で出荷すると移動中に潰れたり割れてしまうことが多いため、熟す前の青い状態のまま収穫・出荷することが一般的ですが、当時、青い状態で収穫したトマトはその後赤くなったとしても風味や旨みが出ず、おいしくないと言われることが増えていきました。こうした世間の感想から、完熟後に出荷しても割にくく、傷みにくいトマトを作ろうと思ったのがきっかけとなったそうです。出来るだけ硬い実を作るために50種類近くの品種からさまざまな組み合わせを掛け合わせ、何度も交配させる地道な作業が続いていきます。しかし、新しく交配させても結果が出るのは半年後とどうしても時間がかかってしまうため、納得のいく硬さの実を作り出すまでには約6年の年月がかかったそうです。さらにここから目指している甘さや肉質に近づけるため、何百種類もの品種と再交配させ、1983年にやっとの想いで誕生したのが「桃太郎」でした。この名前をつけた理由には、桃太郎=岡山県というイメージをしやすいことや桃太郎のように元気で健康になってもらいたい、フルーツ感覚の名前にしたいなどの想いから名づけられたと言われています。初代桃太郎トマトが発表されてからも品種改良を重ね続け、ハウス栽培向けだけでなく家庭菜園向けや耐病性に優れているもの、ミニトマト、黄色い種の大玉・ミニトマトなど、今までに32種類の桃太郎シリーズが生まれ、現在は23品種が全国で販売されています。

トマトはクエン酸やミネラル、カロテノイドなどの栄養素が豊富で、特に体内では合成されないビタミンCや強い活性酸素消去能力を持つリコピンが多く含まれています。トマトが持つこれらの栄養素は昔から人間の体にとって非常に良い影響を与える種類が多く、健康や美容を維持するにはとっても大切な野菜でもあるのです。さらにイタリアをはじめとする海外では、日本でいうところの昆布や鰹節などと同じように出汁の代わりとして重宝されることも多く、サラダやカプレーゼといった生食だけでなく、ピザやパスタ、スープなどさまざまな料理にトマトが使われています。桃太郎トマトは甘さと食感にこだわった品種であるため、生の状態で食べるのが1番その特徴や美味しさを感じることが出来ますが、熱を加えることで生とは違った旨みや食感も味わえ、肉や魚、野菜など他の食材との相性も抜群であるため、多様な調理方法によっても変わる桃太郎トマトの美味しさを思う存分味わってみて下さい。

きびだんご

誰もが知っている日本昔ばなし桃太郎。物語の中で登場する“きびだんご”は子供の頃に一度は食べてみたいと思ったことがある方も多いはずです。そんなきびだんごですが、岡山県では古くから餅菓子として親しまれ、県を代表するお菓子でもあることから訪れた際には定番のお土産として購入していく方も多いです。昔は表面にきび粉をまぶした団子、またはきび粉から作った団子に餡などをつけて食べていたと言われていますが、現在はもち米に砂糖ときび粉、水飴を加えて求肥を作り、団子状に丸めたものがきびだんごとして販売されています。そのため、もちもちっとした食感と優しい甘さ、きび粉の香ばしい風味を感じられるのが特徴で、ほんのり黄みがかったシンプルな餅菓子となっています。しかし、一口で食べられるほどの大きさと素朴で懐かしみのある味わいが口に運びやすく、気づくとついつい食べ過ぎてしまうというのがきびだんごの魅力でもあります。岡山市の銘菓ではあるものの県全域で日常的に食べられているため、県を代表するお菓子として全国で認知されています。

きびだんごは江戸時代末期に吉備津神社内にある茶店で求肥を作り、茶菓子として提供したことがはじまりと言われていますが、実際には江戸時代初期に吉備津神社の祭典に使われていたお供え物を参拝者向けに振舞うようになったという説やルーツとなっているものが求肥ではなく団子や飴、かき餅だったという説などいくつかの説があります。しかし、真相がはっきりしていないこともあるため初めにお伝えした茶菓子として考案し提供したという説がよく使われています。いずれにしても明治時代にはもち米やきび粉から作られた求肥がきびだんごとして販売されており、その作り方は今もほとんど変わっていないとされています。古くから黍の生産が盛んに行われ収穫量も多かったことから旧国名では吉備国(きびのくに)と呼ばれており、その黍を使って作られていたことからきびだんごと呼ばれるようになりました。全国的に有名になったのは日清・日露戦争の辺りで、きびだんごの老舗として知られている廣榮堂(こうえいどう)の店主が桃太郎の恰好をして売り込んだのがきっかけとなっています。戦争の際には戦地に赴くために山陰鉄道を使って広島に集結し、また帰還時も広島から各地へ帰っていく人が多かったため、広島まで出向いた店主が帰還した兵士にきびだんごを売り込み、お土産として故郷へ持ち帰る人が増えていったそうです。これが鬼退治から帰って来た桃太郎とイメージが重なり「縁起の良い食べ物」として全国に広まったため、岡山県を通る多くの兵士たちはよくきびだんごを買って帰るようになったと言われています。

もともとは茶菓子などとして食べられていたことから、直接的には桃太郎の話とは関係がないとされていますが、ルーツとなっている桃太郎伝説にはきびだんごが出てくることや黍の生産が盛んだったこと、認知されるようになった際に桃太郎のイメージが強くついたことなどから桃太郎と紐づけされることが増えていったため、県内で作られているきびだんごのほとんどのパッケージには桃太郎のイラストが描かれています。その可愛らしいデザインから手に取る人も多く、シンプルな美味しさも相まって現在も変わらず人気が高く親しまれているのです。味はプレーンやきな粉が定番ですが、他にも黒糖・ごま・抹茶・もも・マスカット・海塩などの味があり、さらにはクルミが練り込まれたものや中にクリームやチョコ、ナッツが入っているもの、串に刺さったものなどバリエーションも豊富です。選択肢も広いため自分の好みからデザインや味を選び、古くから親しまれているきびだんごの美味しさや食感をぜひ味わってみて下さい。お土産としても喜ばれること間違いないでしょう。

カキオコ焼き

岡山県備前市では“カキオコ”と呼ばれる郷土料理が食べられています。ご当地グルメとしても人気の高いカキオコは牡蠣入りのお好み焼きのことであり、生地と具材を混ぜてから焼く関西風とも薄く引いた生地の上に具材を重ねて焼く広島風とも違った焼き方をするのが特徴です。キャベツを混ぜた生地を鉄板の上に広げ、その上に牡蠣や他の具材を乗せ、さらにその上からキャベツ入りの生地を乗せて具材をサンドするような形で両面を焼いていきます。具材を間に挟むことによって中が蒸し焼き状態となり、鉄板で焼いても牡蠣の身が縮まずに焼けることに加えて、通常より生地がモチっとしていることが特徴です。備前市の中でも日生(ひなせ)地区で誕生し、食べられてきた伝統的な焼き方であるため「日生焼き」や「日生風」と呼ばれています。現在、日生地区では20軒以上のカキオコを提供する店舗があり、伝統の日生焼きを中心に関西風や広島風の焼き方を研究し取り入れているお店の他、牡蠣を鉄板で焼くのか蒸し焼きにするのか、ソースが甘めなのか辛めなのかなど、提供する店舗によって作り方やこだわりが異なり、味わいや食感などにも大きく影響しているのです。

古くから漁業が盛んな町である日生地区は広島県や宮城県に次ぐ牡蠣の生産地となっており、その生産量は県内でもトップクラスとなっています。1960年代に日生地区で牡蠣の養殖が盛んになると地元では牡蠣を食べる機会が増え、傷ものや小粒など売り物にならない牡蠣を近所のお好み焼き店で具材に使ってもらったことがカキオコのはじまりとなっています。牡蠣は基本的に11月~4月にかけて旬が訪れますが、冷凍保存などをしているため旬の時期以外でも食べることが可能です。以前は加熱後に冷凍保存をしていたことから、形が崩れたり旨みが減少してしまうことも多かったそうですが、スチーム冷凍という冷凍技術に改良したことにより形や旨みが崩れず、冷凍しても1年を通して美味しい牡蠣が食べられるようになりました。通常のお好み焼きとは違った美味しさを味わえることから、日生地区では広く愛される郷土料理へと定着していきましたが、地元以外にはあまり広まらず、県内でも存在を知らない人が多かったそうです。しかし、2000年代に入って「日生カキお好み焼き研究会」という団体が地元食をPRしたことで少しずつカキオコの認知度が広がっていき、B-1グランプリに初出場した際に9位という好成績を収めたことでご当地グルメとしても広く知られるようになっていきました。

現在は観光客にも人気の高いカキオコですが、焼き方やソースの違い以外にも焼きそばやうどんなどの麺が入ったものやトマトソースを使った洋風の創作カキオコ、さらに各店舗ではお好み焼きの他にも鉄板焼きやカキフライ、牡蠣入りのスープ焼きそばなど牡蠣を使ったさまざま料理が提供されており、日生地区で獲れる新鮮で美味しい牡蠣を違った形で味わうことも出来ます。また、シーズンではない夏場にはエビを使ったエビオコも限定で登場し、牡蠣とは一味違う美味しさが味わえるため夏の風物詩にもなっています。認知度の広がりによって近年は県内だけでなく、東京や大阪といった岡山県以外でもカキオコが食べられる店舗が増えましたが、発祥地だからこそ味わえる雰囲気も含めてカキオコの魅力を知ってもらいたいです。地元の方が話す日生弁にもぜひ注目してみて下さい。

えびめし

岡山県には幅が太く長さのあるしのうどんや新鮮なホルモンを使った津山ホルモンうどん、具材が大きく華やかなまつりずしなど、インパクトの強い郷土料理やご当地グルメがいくつもあります。そんな中でもひと際インパクトが強い“えびめし”というご当地グルメがあるのをご存じですか?えびめしとは、エビを使ったチャーハンやピラフの1種ではありますが、黄金色をしたチャーハンなどとは正反対の黒っぽい見た目と独特の風味が味わえるのが特徴となっています。1番の特徴である黒さは、味つけに使う調味料が大きく影響しており、油で炒めたごはんとエビにカラメルソースやデミグラス、ケチャップ、カレー粉などのスパイスを使って味つけをしているため、黒と言うより濃い焦げ茶色のような色に仕上がります。見た目の濃さから辛そうなイメージがありますが、実際は甘辛さや香ばしさを感じられるまろやかな味わいで意外とあっさりしているのも特徴です。具材にはエビの他にたまねぎやグリーンピース、マッシュルームなどが使われていることが多く、錦糸卵やスクランブルエッグなどが付け合わせとして添えられていることが一般的となっています。しかし、店舗によってはエビフライやゆでたまごがトッピングされているものやオムライス・ドリアなどひと手間加えた料理として提供しているお店も見られます。さらに、イカスミや特産物の白桃のペーストなど隠し味に使っている食材や調味料も多様で、各店舗の美味しさやコクの秘訣にもなっています。

岡山県のご当地グルメとして知られているえびめしですが、発祥地は東京であり逆輸入という形で岡山に入ってきた料理が定着して親しまれるようになったというおもしろい歴史を持っています。もともとは昭和30年に東京都渋谷区で創業した「いんでいら」というカレー店のオリジナルメニューでしたが、岡山県出身の店員が暖簾分けという形で故郷に持ち帰ったことがきっかけとなっています。本来のえびめしはスパイシーでどこか懐かしさを感じられる味わいとなっていますが、岡山県民の好みに合わせてアレンジを加えた結果、甘めの味つけとなったそうです。岡山市内で自身のお店をオープンした際にメニューとして取り入れたところ好評となり、同市内の喫茶店などでも相次いでえびめしを提供する店舗が増えていきました。その人気は衰えず、えびめし専門店をローカルチェーン展開したことで県内にも広がり、メディアでは岡山県のご当地グルメやソウルフードとしても紹介されるようになったのです。逆輸入から始まったえびめしの歴史は岡山県に根付いてからすでに半世紀以上も経っており、代表的なグルメといっても過言ではありません。県内ではローカルチェーン店の他にも、喫茶店や洋食店、食堂、さらに場所によっては和食店やラーメン店などでも食べることが出来るため、見かけた際にはインパクトの強い見た目とまろやかな味わいの絶妙な相性を味わってみて下さい。また、県内にあるスーパーや大手コンビニにはご当地限定で商品化されていることやえびめしの素・えびめしのソースなども販売しているため、お土産としても購入することも出来ますよ。