世界中にアレルギーを持っている人はとても多く、その種類もさまざまです。日本でも年々アレルギーを持つ人は増えており、2~3人に1人は何かしらのアレルギーを持っていると言われています。アレルギーを発症しやすい大豆・小麦を主原料に使った醤油はアレルギー反応が起こるのか気になりますよね。今回は醤油を食べるとアレルギー反応がでるかどうかを解説します。ページ下部にアレルギーに関する基本的な解説も入れていますので、気になる方はページ下部も読んでみてください。
醤油はアレルギー反応が起こるのか
結論から言うと基本的には食べられますが、敏感な人や重度のアレルギーがある人は反応が出る恐れがあります。
醤油は製造過程で大豆・小麦・塩を長期間醸造して作られています。この時に大豆や小麦の持つアレルゲンは分解されアミノ酸へ変わり醤油では確認出来ないレベルになるため、基本的には食べられることの方が多いです。
小麦については古林ら(2005年)の研究によると、醤油を製造する工程でアレルギーの原因となる小麦アレルゲンが分解されることが分かっています。具体的には、麹を加え67日後にはアレルゲンがほとんど確認されなくなり、その後の過程である、生揚、火入れ後にはアレルゲンが確認されなくなったとされています。これは麹を加えたあとに原料の塩不溶性タンパ ク質が麹菌酵素により塩可溶性タンパク質となり、製麹および諸味中で分解を受けて消失し、小 麦アレルゲンの分解には麹菌酵素が大きく関与 していることが明らかになっています。
つまり小麦アレルゲンを確認できなくなるまでには麹を加えて一定期間(67日以上)の熟成と火入れを行うことで小麦アレルゲンは確認されず、アレルギーの原因物質を除去できると考えられます。ただし、熟成期間の短い醤油や火入れを行っていない醤油はわずかながらアレルゲン物質が残ることも示唆しており、熟成期間が極端に短い醤油には注意が必要です。ただ市販されている醤油で熟成期間が10日未満という製品はないため、市販のものであれば熟成期間については注意することはないでしょう。
また製品として販売されている醤油について、購入後にアレルゲン物質がまた増えるということも確認はされておらず、アレルギーという観点からは1度製造販売された醤油については問題ないともされています。
小川らの研究によると大豆についてもアレルギーの原因となるなるアレルゲンを有しているものの、小麦と同じく製造の過程でアレルゲンが分解され確認されなくなったことを明らかにしています。しかし、小麦と同じく熟成期間の短い醤油や火入れしていない生醤油についてはアレルゲン物質が残る可能性も示唆しています。
これら研究により醤油においては大豆アレルギー、小麦アレルギーの原因物質であるアレルゲンは確認されなくなとのことですが、熟成期間の短い醤油や、生醤油については注意をしたほうが良いでしょう。生醤油については、日本醸造協会誌「醤油醸造における大豆アレルゲンの分解・除去」において真岸(2019)の研究によると、大豆アレルゲンは小麦アレルゲンに比べ麹菌酵素による分解を受けにくいことが考えられ、完全には分解されずに生揚醤油に残存することが分かっているとされています。
既往の研究からはアレルゲン物質が確認できないという結果が明らかになっているものの、あくまで試験レベルで確認がされないということであり、たとえば製造工程で熟成の短い生醤油が入ってしまったなどの可能性は0ではありません。そのため最終的には個人差があるという話になってしまいますが、科学的、理屈的には醤油にアレルゲン物質はないのの、その他の理由で発症する可能性もあるため、アレルゲン物質を含まない醤油を使用するか、医師に相談するほうが良いでしょう。
味噌の大豆アレルギー、小麦アレルギーに関する解説はこちら
大豆、小麦アレルギーの人でも使用できる醤油
基本的には大豆・小麦アレルギー持ちの人でも食べられる醤油ですが、反応してしまう人やより安全に食べたい場合は代用出来る醤油はあるのでしょうか。実は大豆・小麦を使わずに作られている醤油は存在しており、大豆・小麦が食べられないアレルギーの人でも食べられるように作られた過程があります。
そら豆醤油、えんどう豆醤油
主原料には“そら豆やえんどう豆と塩” のみが使われている「そら豆醤油・えんどう豆醤油」が販売されています。通常の醤油は大豆のたんぱく質と小麦のデンプンから作られていますが、同じマメ科のそら豆やえんどう豆にはたんぱく質が豊富に含まれておりうま味も強いため、そら豆・えんどう豆と塩だけでも醤油を作ることが出来るのです。
その味は通常の醤油と比べるとあっさりしており後味にほんの少し豆の味を感じることはあるそうですが、同時に味を比べないと分からない程度で通常の醤油に負けない美味しさがあります。そのため、言われなければ気づかない、人によっては言われても分からないレベルです。
たまり醤油
大豆と塩から作られているたまり醤油も大豆、小麦アレルギーの方でも使用できる醤油の1つです。通常の醤油より長期間熟成させているため、濃い色をしていますが、見た目ほど塩辛くなくまろやかでうま味が強いのが特徴です。お刺身などにかけて使用するケースが多い醤油でし腰味が濃く甘味もある醤油のため煮物などに使用する場合は、通常よりも砂糖などの使用を少し減らすと良いでしょう。しかし中にはメーカーによって小麦を少量使っている商品もあるため、ラベルなどを見て使われている原材料を確認して下さい。
グルテンフリー醤油
また、小麦を使わないグルテンフリーの醤油もいくつか販売されています。もちろんそら豆やえんどう豆を使った醤油もグルテンフリーになりますが、酒粕、米麹をベースにいくつかの出汁を加えて醤油に近い味を再現した醤油です。正確には醤油ではないため醤油風調味料となります。しかし、販売しているメーカーが少なく手に入れにくいため専門店やメーカーのECなどから購入する方法が良いでしょう。小麦アレルギー持ちの人の方が多いことや、近年の小麦の過剰摂取によりグルテンフリーをライフスタイルに取り入れている人も多いため、グルテンフリーの醤油を販売しているメーカーも徐々に増えており、以前よりは入手しやすくなったとされています。
何度もお伝えしますが、アレルギーは人によっては命に係わるほど危険な症状です。どのような状況で何に反応しているかは人によって違うため、慎重に判断し、分からないことは自己判断ではなく病院で判断してもらいましょう。その上で、より安全なものを選ぶことで美味しく楽しく食事出来ることを願っています。
大豆、小麦アレルギーに関する基本解説
大豆アレルギー
大豆アレルギーは大豆を原材料にした食品を食べることで発症し、症状としては皮膚や粘膜のかゆみ、腫れ、赤み、蕁麻疹、呼吸困難などが挙げられます。
食べられない食品として大豆(黄大豆・黒大豆・青大豆・豆もやし)はもちろんですが、豆腐・豆乳・ゆば・おから・厚揚げ・油揚げ・がんも・納豆・きな粉など大豆を使った加工食品も含まれます。また、大豆由来の添加物が使われているお菓子や調味料、商品によってはカレーやシチューのルウにも含まれていることがあるため確認が必要となります。
さらに、大豆を原材料にした食品以外にも近年増えているのが口腔アレルギー症候群です。これは、カバノキ科の花粉に反応した花粉症の人が豆乳などを摂取した際に、口の中がヒリヒリしたり、かゆみや腫れなどの症状が発症しており、花粉症の増加に伴ってこの症状を発症する人も増えています。
アレルギーには個人差があるため、大豆製品が全く食べられない人も多いですが豆腐は食べられるが他の食品を食べると反応するなどその差はさまざまです。
小麦アレルギー
小麦アレルギーは小麦を原材料にした食品を食べることで発症し、症状としてはかゆみや蕁麻疹、くしゃみ、鼻水の他に下痢・腹痛、喘息や呼吸困難まで幅広く挙げられることが多く、呼吸困難により血圧が下がりアナフィラキシーショックを起こすこともあります。
食べられない食品として薄力粉・中力粉・強力粉・デュラムセモリナ小麦など全ての小麦粉が該当し、小麦粉を使った加工品も食べられません。パン・うどん・スパゲッティ・中華麺・お好み焼き・たこ焼き・餃子やシューマイ、春巻の皮・ケーキなどの洋菓子・饅頭など小麦粉は多くの食品に使われているため、特に注意が必要です。
小麦アレルギーの原因は小麦の持つたんぱく質と言われており、大麦や他の麦類のたんぱく質とは違うものになるため、小麦以外の麦類は食べられる人もいます。しかし、こちらも個人差があり、違うたんぱく質と言っても小麦と似たたんぱく質の構造をしているため、麦類を食べた際にアレルギーの症状が出ることもあります。
麦茶は大麦が原材料として使われており、たんぱく質が違うことや抽出されるたんぱく質の量が少ないことから飲める人の方が多いですが、重度の小麦アレルギーを持つ人など稀に反応してしまうことがあるので、掛かりつけの病院の先生などに相談するのがよいでしょう。
小麦は特定の食品を食べた後激しい運動をすることにより血液が下がる、発疹が出る、重症の場合呼吸困難になるなどの症状が発症する“食物依存性運動アナフィラキシー”の原因として1番多く、日本では3番目、世界規模としてみると1番食物アレルギーの原因となっている食品になります。