湖塩とは?湖塩が採取される湖と特徴

 天然塩と呼ばれる塩の1つであり、塩湖と呼ばれる湖で作られた塩のことを湖塩と呼びます。日本では生産されていない種類の塩ですが、歴史的には海がない内陸地で塩を供給する重要な塩でした。今回は湖塩について解説し、湖塩が採取される代表的な湖とその違いについて解説します。

湖塩(こえん)とは

その名の通り、湖塩は塩を含む湖、塩湖(えんこ)から採取される塩で、【こえん】と読みます。塩湖とは、地殻変動により海水が陸に閉じ込められて作られた湖で、乾燥した地域に多く、長い年月をかけて海水が蒸発することにより塩分濃度の濃い湖になります。場所によっては海より塩分濃度の高い湖が存在します。

日本陸水学会では「乾燥地域にあって湖水に含まれる総塩濃度が 0.5 g/L 以上の湖」と定義されてますが、中国では湖水 1L 当たりの塩類が50グラムを超える湖沼と定義されており、国によって塩湖の定義は少しずつ異なります。また、汽水湖のように淡水と海水が塩の満ち引きで混じり合うような湖は塩分濃度こそ、普通の湖より高いですが、塩湖とは呼びません。また塩湖は塩分濃度が高く、魚類が生育できない湖も存在します。例えば死海やモノ湖などは魚が生息していません。

そして湖塩はそれら塩湖から採取されます。古くから海より遠い内陸地において塩の供給源であったことから、伝統的に塩湖の水を天日干しにて水分を蒸発させ塩を採取するような手法が今も用いられています。地球の7割は海と言われており、海水を原料として作られる塩とは原料の希少性がはるかに高く、自然塩の中でも高級と呼ばれる塩になります。

湖塩の特徴としてはミネラルが豊富であるといことです。特に伝統的な方法で精製することが多いためミネラル分が残り、塩気だけでなく苦味や甘味などがしっかり残った塩になります。ただしその味や粒の大きさは採取される湖によって異なり、料理人によっては複数の湖塩を使い分ける方もいます。一般的にはミネラルが豊富で味が複雑になり、かつ水に溶けやすいため、塩の味を活かした煮込み料理はおすすめです。シンプルな味付けであればあるほど素材と塩の複雑な旨みを活かせます。ただ高級な塩になるため、良い肉や魚が手に入ったという特別な時に使用したいですね。

湖塩が採取される湖

 塩湖自体、限られた地域でしか作られない湖であり、その湖で作られた塩も希少な湖塩になります。日本ではあまり馴染みのない湖塩ですが、場所や環境により塩にも味などの特徴が変わります。各地の塩湖を解説していきます。

ウユニ塩湖

 南アメリカ大陸のボリビア南西部の標高3,700m地点にある南北100km、東西250kmほどの広大な塩湖です。この一帯が湖で水を張っているわけではなく、水も存在しますが歩いたり車を走らせたりもでき、学術的にも正確には塩原と呼ぶようです。また雨季には水が溜り、塩湖の高低差が50センチしかない環境により空が湖面に映し出され、「天空の鏡」と呼ばれる絶景として有名です。またボリビアは乾燥した地域のため、降水量より蒸発量の方が多く、乾季には水がなくなります。干上がると真っ白で格子状が特徴の塩の結晶が湖一面に現れます。

 このウユニ塩湖で取れる湖塩は結晶が珍しいピラミッドの形をしており、甘みとうま味を持っているのが特徴です。ピラミッドソルトとも呼ばれ地元の人によりシンプルで伝統的な製法で作られてきました。広大な湖のため、他の塩湖で作られる湖塩に比べると生産量は多く比較的安価に購入出来るのも特徴になります。

 ウユニ塩湖の湖塩はミネラルが豊富で、ナトリウム、カルシウム、鉄、亜鉛、カリウムなどが含まれます。またミネラルだけででなく炭水化物が多いことも特徴です。ウユニ塩湖の湖塩は煮込み料理にはもちろんですが、他の湖塩と比べると安価であるため、日常的な塩としても利用できるでしょう。特に、複雑な旨みを活かしておにぎりを作る際の塩や、肉を焼く際の塩としてはかなり有用な塩となるでしょう。

死海

 イスラエルとヨルダンの国境沿いにある細長い塩湖です。死海は現在海抜マイナス約400mとなっており、地盤沈下の影響もあり1960年から約40%も狭くなっている塩湖です。死海が縮小することを防ぐために、海からのパイプを引き、海水を取り入れることを計画していましたが、イスラエル、ヨルダンという国境にあることや、世界の情勢の影響もあり現在その計画ては停止しているそうです。そのため、死海は湖塩の採取ということだけでなく、死海そのものの存在が危ぶまれている塩湖です。

また死海は塩分濃度が約30%と海水より約10倍濃いため、湖に入ると体が浮いてしまうほどです。塩分濃度が高すぎるため、生物が生息するには不向きで魚類は生育していません。

死海の湖塩もミネラルが豊富で、ミネラルが多く含まれていることから、程よい塩気と甘みを持ちます。特にマグネシウムが主成分と言えるほど多く含まれるのも特徴の1つです。死海の塩は味を整えるのに使用されることが多く、例えば下味や基本の味付けは通常の精製塩で行い、最後の一振りに死海の塩を用いたりします。またエビやカニなどの甲殻類と相性が良く、車海老の塩焼きやカニのボイルに少し塩を足すというシーンで活躍しそうです。

また料理だけでなくバスソルトやエステなどで使用されることも多いようです。今後、死海の存在自体が危ぶまれており、特に世界情勢にも影響を受けやすい立地であることが懸念されています。海水注入をすることができれば死海を守ることはできるでしょうが、海水の成分が入ることで今と湖塩の味が変化する可能性もあり、もしかしたら今の味の塩を食べられる期間もそう長くはないかもしれません。

デボラ塩湖

 オーストラリアの西部地方にあるデボラ塩湖は約500万年前に出来た湖になります。湖が出来始めたのは数億年前とも言われており、このデボラ塩湖で出来た塩は別名で「古代の塩」とも呼ばれています。オーストラリアには雨季と乾季があり、雨季に降った雨が湖底にある塩を溶け出させ、乾季に乾燥すると水分が蒸発して蒸発しきれなかった水分と共に湖塩が採取できるようなります。そのためデボラ塩湖の湖塩は毎年乾季の時期しか取れない貴重な塩となります。

デボラ塩湖の湖塩は、長い年月をかけて作られマイルドながらも、岩塩より強い塩気を持つのが特徴です。マグネシウムカルシウムなどのミネラルが豊富に含まれており、特にカルシウムが多く、にがりなどの添加物が含まれていないのも特徴になります。味を整える役割が強くおにぎり、肉や魚を焼く際に相性が良い塩と呼ばれています。

また一般に販売されるより、業務用として流通されることが多く、料理人の間で広く親しまれて使われていることが多い湖塩になります。

アッサル湖

 アフリカ・ジブチから車で約2時間ほど離れた場所にあるアッサル湖ですが、湖の面積は10km×7kmで、水深も深くて7mほどと比較的小さな塩湖です。しかし最大の特徴は塩分濃度が34.8%と死海より高く、南極大陸にあるドンフアン池を除けば、世界で1番塩分濃度が高い湖で、その塩分濃度の高さゆえに超塩湖とも呼ばれています。そのため、裸足で湖の中に入ると刺激が強く痛いと感じるほどです。湖には大きな塩の結晶やゴツゴツした塊が多く、その中で波によって湖の底を転がって出来た塩は「パール塩」と呼ばれ、転がることにより角が取れ球体をしているのが特徴です。

人の手を加えずに球体に出来たアッサル湖の塩は、白くとても綺麗な見た目をしています。パール塩と呼ばれるだけあってまるで真珠のようです。カリっとした食感があり、うま味が強くコクのある味わいになっているため、肉料理や魚料理との相性が良いだけではなく、野菜やパスタ、アイスクリームなど幅広い料理や用途に使うことに向いています。

また、天然のにがりが多く含まれていることから複雑ながらも濃厚な味わいが感じられ、素材を茹でるときに一緒に入れるだけでうま味をぐっと引き立ててくれます。しかし、アッサル湖がある場所や移動手段、収穫を手作業で行っていることから流通される量は少なくとても希少な塩になります。日本にも稀に輸入されることがあるため、目にした際には試してみるだけでも価値があるかもしれません。

 湖塩には他にも、世界中にある塩湖で取れる特徴的で自然豊かな塩をはじめ、塩湖の水を使って塩にしたもの、出来上がった湖塩を一度溶かして再度結晶化させたものも存在します。あまり日本には流通していないですが、他の塩との違いをぜひ味わって感じてみて下さい。

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